チフネの日記
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2004年10月15日(金) 盲目の王子様 75 跡部


騒ぎが静まったのは、それから10分後のことだ。
不二が「悪気は無かったんだよ」と謝罪にもならない謝罪をしたことで、一旦場は収まった。
一同座って、菜々子が持って来てくれた飲み物を頂いて、落ち着きを取り戻す。

「そうそう、さっき手塚さんにも話したんだけどね」
皆が静かになった所で、リョーマが口を開く。
当然、視線がさっと集まる。
盲目の彼は気にすることなく、続きを告げる。
「手術の日、決まったんだ。
今日、病院に行った時先生から聞いた。その前からちょっと入院することになるみたい。
皆でこうして集まるのも、しばらく無くなりそうだから、一応報告」
「手術って、いつ?」
不安そうに言うジローに、リョーマはさばさばと答える。
「7月の×日だって」
「それって…」
不二が何かに気付いたように、声を上げる。
が、すぐに口を閉じて俯く。
「何?」
「ううん、何も」

ちらっと不二が視線を送ってきたが、跡部は何も言わなかった。
ここで言うことじゃない。

手術の日程が、関東大会の日程と被っていること。
しかも氷帝と青学が順調に勝ち進んで行けば、ちょうど準決勝に重なるなんて。
どう言っていいのか。
その件に誰も触れることは無く、ただリョーマに励ましの言葉だけを送るだけだった。

「頑張れって言われても、先生に任せるだけなんだけどね」
明るく言っているが、リョーマの態度から無理しているのは明らかだ。
失敗した時のことを考えると、怖くなるのも当然だろう。
それでも前へ進もうと、不安を隠してリョーマは歩んで行こうとしている。

(だから、こいつのこと自然と応援して見守ってやりたくなるんだよな…)

気持ちは大きくなるばかりだ。
手術が終わったら、リョーマの憂いが消えたら、
全部伝えようと跡部は決めている。

(それまで、こいつらに遅れを取っているっていうのは気に入らないけど仕方ねえな)

手塚や忍足が励ましの言葉を掛けるのを、リョーマは嬉しそうに聞いている。
そこに他意は無かったとしても、跡部としては非常に複雑な気持ちだ。
「リョーマっ、俺絶対お見舞いに行くからね。
いっぱいリョーマの好きなもの差し入れするから。今から食べたいものリストにする?」
「えーっと、先生に聞かないと差し入れ食べてもいいかわからないんだけど…」
普通に安心して見ていられるのは、ジローだけだなと、呑気な会話を聞いて苦笑した。








あまり遅くなると迷惑になるからと手塚が立ち上がった所で、
今日はお開きになった。
夕飯も食べていけばいいのにとリョーマは言ったが(跡部達はいつもそうしているから)、
真面目な手塚が「そうはいかない」と断固として首を縦に振らない。
手塚が出て行くのに、このままいるのも気が引けて跡部達も一緒に退出をした。
「また、来てよ。いつでも」
玄関先まで送ってくれたリョーマに挨拶をして、一同は外へと出る。

ライバルである青学の手塚と不二と肩を並べて歩いているなんて、妙な気分だと跡部は思った。
こんな事でも無ければ、きっとテニスコート以外で会うことは無かっただろう。

「跡部。ひょっとして手塚に聞きたいことがあるんじゃないの?」
沈黙を破るように、不二が最初に口を開く。
「そう思うのか」
「うん。だからこうやって一緒に歩いているんでしょ。君だったら、すぐ車を手配してさっさと帰りそうじゃない?」
不二の指摘はある意味正しい所を突いている。
「聞きたいことというよりも言いたいことがあるだけだ」
「なんだ。ハッキリ言ってくれて構わないぞ」
手塚は跡部をちらっと見て、きっぱりとした口調で言う。
何を言われても、リョーマへの気持ちは変えない。
そんな決意が横顔から読み取れた。

だから跡部も遠慮はしない。
堂々と宣言をする。

「お前があいつのことを好きなように、俺も越前のことが好きだ」
「跡部…」
「俺はお前にも、誰にも負けるつもりは無い。
言いたいことはそれだけだ」

ジローも忍足もびっくりしたように足を止めている。
手塚と、そして不二は動じることなく跡部の宣言を聞いて頷いている。


「つまりはライバル宣言って奴か」
手塚は意外と冷静に、話を聞いて納得したようだ。
不二が面白そうに、それに対して相槌を打つ。
手塚、相手は手強いよ。どうする?」
「どうするも何も、俺も負けるつもりは無い」
ふっと笑って、手塚は跡部の方を向いた。

「俺に気兼ねすることは無いぞ、跡部。
越前が好きなら、好きだって本人に告げたらどうだ」
「…手術が終わるまでは言うつもりは無えよ。
けど、どうやらその日も近いみたいだな」

手術の日が準決勝に当たることを思い出し、
手塚と跡部は無言で頷いた。

「越前との前に、お前とは別の決着を付けることになりそうだな」
「ああ、楽しみにしている。俺もお前には負けないからな」
「ふん、精々首を洗って待ってろ」
「その台詞、後で後悔しても知らないよ。これでもうちの部長は頼りになるんだからね」
不二の声にも怯むことなく、跡部は可笑しそうに笑い飛ばした。

「どの程度頼りになるか、見させてもらうぜ。
けどS1より前に決着がつくことになっても、知らねえからな」
「ふん、言ってれば。青学だって負けないよ。ねえ、手塚」
「ああ」

強い意志を込めた二人の視線を受けながら、跡部はまた明日からも練習を強化しようと考えた。

青学だけにはは絶対負ける訳にはいかない。
後ろで会話を聞いてぼーっと突っ立っている忍足とジローにも、頑張ってもらう必要がある。
宍戸にも鳳にも、樺地にもだ。
青学だけじゃなく他校にも勝って、リョーマに優勝の報告を届けたいと思う。

手術に立ち向かう彼に負けない位、強くなりたい。

きっとまだやれる事はあるはずだ。
監督に相談して、全員のメニューを見直してもらおうとも思う。
目標は勿論全国制覇。それしかない。


「勝つのは、俺達氷帝だ!」

高らかに宣言をして、跡部は手塚と不二に目もくれず歩き出した。
立ち止まってる暇は、この先どうやら無くなりそうだ。



チフネ