チフネの日記
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2004年10月14日(木) 盲目の王子様 74 跡部

手塚とリョーマが今、何を会話しているのか。
気にならないなんて、大嘘だ。
苛々を隠して、跡部は何でもないような顔をして座って二人を待っていた。

(顔に出したら、最後だな)

「やっぱり気になるんじゃないの?誰か見に行って来たら?」
跡部と忍足とジローと。
三人が座る真正面に位置する不二が、じっと観察しながら可笑しそうな声を出す。
こいつに面白がられてたまるかと、我慢を続ける。
忍足も同じ気持ちらしく、知らん顔して横を向いたりしている。
「お前、さっきからなんなの。ちょっと言葉に棘があり過ぎるんじゃない?」
「そんなこと無いよ。僕は思ったことを口にしてるだけじゃないか」
「じゃあ、自分で見に行ってくれば?」
「別に。僕は手塚と越前君が何してようと気にならないし。ここにいる人達はどうだか知らないけどね」
「なんか感じ悪いC」
「そう?褒め言葉として受け取っておくよ」
ジローだけが、不二の相手をしている。
任せたぞと、跡部は勝手に頼んで沈黙を続けた。

しかしこの状態を続けるにも限界がある。
いつになったら戻って来るんだと出入り口にちらっと視線を送る。
もう、10分は経過している。
リョーマにその気が無かったとしても、手塚の天然とも言える積極性に心を動かされることだって十分あり得る。

(そんな結果になったら、泣くぞ)

はあ、とため息を漏らした瞬間、
手塚がリョーマを気遣いながら襖をゆっくりと開けて入って来た。

「越前…」
「二人共お帰りっ、どうだった。何か進展あったとか?デートする日は決まったの?」
声を掛けた跡部を押しのけて、不二が二人に質問を浴びせる。
「そんな話はしていない」
手塚はきっぱりと否定する。
二人の表情に変化は特に無く、不二の言うような進展は皆無だなと跡部は悟った。
ほっとして、体から力を抜いた。

「じゃあ、二人きりで何の話をしていたの」
食い下がる不二に、手塚は「プライベートだ」とそれ以上は言わない。
面白くなさそうに不二はむっとしたが「後で詳しく聞けばいいや」とすぐ前向きになる。
諦める気無いのか、と跡部も忍足も顔を引き攣らせた。

「不二さん?あの、手塚さんのこと心配するのはわかるけど、ちょっとやり過ぎじゃないっすか」
リョーマも手塚を気の毒に思ったのか、あの不二に向かって注意するような発言をする。
怖いもの知らずにも程がある。
不二を怒らせてはいけないと、注意するべきだったと跡部は後悔したがもう遅い。
「へえ?僕に意見しようっていうんだ」
不二は手塚の体を押しのけて、リョーマにずいっと近付く。
「不二、待て!越前には出さないでくれ!」
手塚も危険を察知して、不二の肩に手を掛けて訴える。
「リョーマっ、ここは逃げた方がええ!」
「てめえ、越前に何するつもりだ」
「えっ、何。何か大変なことになってんの?」
ジローだけが呑気な声を出す。
説明する気も無く、跡部は不二とリョーマの間に入った。

「まさか、こいつに手を出そうって訳じゃねえよな?あーん?」
「さあね」
「不二、てめえ!」
「ちょっと、跡部さん」
「ああ?」
リョーマがくいっと跡部のシャツを引っ張る。
その顔は少しばかり不機嫌だ。
「今、この人と話しているの俺だから、少し遠慮してくれないっすか」
「何言ってるんだ。お前は不二の恐ろしさを知らないから」
「そんなの知る訳無いよ。でも、言わなきゃ俺の気も済まないんだよね」
「お、おい」


跡部の腕を伝う形で、リョーマは前に出る。
そしてすぐ前に立っているだろう不二に向かって言う。

「手塚さんが話したいのなら、別だけどさ。友達なら黙って見守ることだって、必要なんじゃないっすか。
俺が偉そうに言う筋合いじゃないのは、わかってる。
ただ、今のはちょっと手塚さんが可哀想かなと思ったから…お願いします」

たどたどしく、それでも自分の意見をきちんと口に出すリョーマを、
不二は黙って聞いている。
最後に小さくおじぎをした所で、わかったというように頷く。

「まあ、今回は引いといてあげるよ」
「本当っすか」
「うん、可愛い越前君に免じてね」

不二の言葉に、リョーマとジロー以外の全員が肩から力を抜く。
良かったと、跡部は忍足と微笑みすら交わした。
が、それもそこまで。

「手塚が君を好きになったのもわかった気がするなあ」
ちゅっと不二がリョーマの頬にキスをしたことで、再び大騒ぎになる。

「ふふふふ、不二。今、何やった!?」
「何って、キスだけど?軽く挨拶代わりに」
「俺だってやっていないのに、何してんだー!」
「手塚、落ち着いて。眼鏡がずれてる」
「落ち着いていられるかあ、不二ぃ。やっぱりてめえは危険人物だ、出て行けー」
「うわ、跡部まで。ひょっとして泣いてる?」
「俺の俺のリョーマが!!他の男に、なんでや!」
「忍足、しっかり。しかもリョーマは忍足のものじゃ無いC」
「ジロー、何気に酷いで…」

当の本人であるリョーマは、たかが頬にキス(しかも触れる位)で、
皆が何をそんなに騒ぐのかと首を傾げている。

「こんなの挨拶じゃん」

その呟きは跡部の耳には届かなかった。


チフネ