チフネの日記
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| 2004年10月12日(火) |
盲目の王子様 72 リョーマ 跡部 |
病院から帰って来て、気分転換に外へ出てみたら、なんだか家の前に人だかりが出来ている。 気配でそれを察知したものの、誰がいるかまではわからない。 困惑に首を傾げると、 「越前…外に出ていたのか」 と、跡部さんの声。 「跡部さん?あれ、他にも人がいる?」 尋ねると「ああ」と跡部さんからの返事。 「リョーマっ。遊びに来たよー」 「ジロー」 抱きついて来たジローと、「また今日も来てもうたわ」と侑士の声。 でも、他にも誰かがいるのはわかる。 誰だろうと様子を伺っていると、俺の前に誰かが立った。
「越前。突然訪問などして悪かったな」 「手塚さん?」 手塚の声に、リョーマは顔を上げた。 するとさっと横から現れた影が、きゅっと手を掴んで来る。 「大会を前にして、手塚ってば緊張しているみたいなんだ。 だから君と会えば落ち着くと思って、僕が無理やり連れて来たんだけど、やっぱり迷惑だったよね。 でも手塚のことは責めないでやって。ね、越前君」 「はあ…ええっと、不二さんだっけ」 「そう。僕の名前覚えてくれたんだ」 「まあ」 あんな滅茶苦茶なことしておいて、忘れられるはずが無い。 警戒心に体を僅かに引くと、手塚が「すまない」とまた謝罪をして不二と繋がった手を開放してくれた。 「元気そうで安心した。今日はもう帰るから、その…またな」 「あ、ちょっと待ってよ」 すぐにでも立ち去りそうな手塚に、リョーマは声を上げた。 大体こちらは手塚の連絡先も知らない。 話したいことだってあるのにと思って、手塚を引き止める。
「折角青学からわざわざ来てくれたんでしょ。上がって行けば?」
瞬間、場がしんと静まり返る。 何かまずいこと、言ったのだろうか。 特に跡部と忍足が固まっているのを感じる。 眉を寄せるリョーマに、「なんで、そんな事言うのー?」とジローが抱きついてくる。 「リョーマ、ひょっとして手塚のこと気に入ったの?」 「は?何言ってんの。遠い所から来てくれたんだから、そのまま返すのも悪いかなって思っただけで。 不二さんも、一緒に入って」 「えっ、僕は別に」 「皆も。こんな所でぼーっと立ってると近所迷惑だよ。早く玄関入っちゃってよ」 ほら、とジローを引きずったままリョーマは率先して中へ入って行く。 ぐずぐずしてる気配に「早く」と声を掛けると、全員ぞろぞろと玄関口へと歩いて来た。 「俺の部屋だと狭いから、和室でいいよね。菜々子さんー、なんか飲み物あるー?」 「あら、リョーマさん。今日はお客様が大勢いらしたのね」 台所で何か作っていたのか、エプロンを付けたままの菜々子がぱたぱたと急いでやって来た。 「お茶とコーヒーとファンタくらいしかありませんけど、よろしいでしょうか」 「あの、お構いなく。俺はここで」 まだ帰ろうとする手塚に、リョーマが低い声で一喝をする。 「ちょっと、勝手に帰ろうとするの止めてよ。 報告したいこともあるんだから、さあ入って」 「わ、わかった」 リョーマの気迫に、手塚は素直に靴を脱ぎ始める。
「報告って何やろうな」 リョーマと手塚の様子を見て、先に入っていた忍足が跡部に耳打ちをする。 気になって仕方ないらしく、何度もリョーマの様子をちらちらと見ている。 そんな忍足に跡部は「さあな」と素っ気無く返す。 「別に心配するようなことじゃねえだろ」 「とか言って、手が震えとるで」 「うるせえ」 「でも手塚とあの子、結構良い感じじゃない?」 どう見ても面白がっている不二を無視して、跡部は先に和室へと入って行く。 「ちょっと待ってよ。僕は客観的な事実を言ってるだけだよ」 「なんで俺の後を追って来るんだ。てめえは。手塚のお守りでもしてろ」 隣に座ってくる不二に鬱陶しそうに返すと、 ずいっと体を近づけて「じゃあ、二人の仲邪魔しないって誓う?」などと言ってくる。 「はあ?馬鹿か、てめえ。あいつらが付き合ってるならともかく、そんな事言われる筋合いは無いだろうが」 「でもいずれそうなるかもしれないじゃないか」 「おいおい、不二君。勝手に決めつけんといてな」 忍足もムキになって否定する。 「リョーマの気持ちを無視して、事を進めるのは止めといてくれんか」 「うーん、でも友人として手塚の恋の成就を願ってるんだけどなあ」 「友人というか、面白がっているだけだろ」 「失礼な。僕は真面目に手塚の恋を応援しているのに」 誤解だよ、と両手を上げてため息つく姿そのものが胡散臭くて、 忍足と跡部はげんなりと顔を見合わせる。
「飲み物をどうぞ」 トレイにグラスを運んで来た菜々子に「お構いなく」と声を掛けて、 跡部は手伝いする為に立ち上がった。 「あら?リョーマさんは?」 「そういえば…」 まだ玄関先でもたついているらしい。 ジローが一緒だから手塚に連れ去れる心配は無いだろう。 そう思ってグラスをテーブルへ置いていると、青い顔をしたジローが和室へと入って来た。
「何やってんだ、ジロー。越前はどうした」 「リョーマ…。リョーマなら、手塚と一緒に部屋に行っちゃった…」 「「何!?」」 跡部の声に忍足の声が被さった。 驚いている菜々子に構うこと無く、ジローに掴みかかる。 「何故そんなことになったんだ。止めなかったのか?」 「止めたよ。でも、リョーマの方から手塚に話がしたいからって言い出したんだ。 ちょっとだけだから、先行っててって言われたら、俺だってどうしたら良いかわからなくなるじゃん!」
責めるような目に耐えられなくなったのか、ジローは頭を抱えてしゃがみ込んだ。 跡部もそれ以上何も言えず、くるっと体を返してまた何事も無かったようにグラスを並べ始める。
「放っておいていいの?」 笑顔を向けて来る不二を、無言で睨みつける。 その隣にいる忍足は顔を青くしている。
「いいも何も、あいつから話したいって言い出したんだから、止める権利は俺に無いだろうが」 「それで二人が上手くいっても?」 「多分、そういう話じゃないだろ」 「自信満々だねー。自分が一番好かれてるって思ってるんだ」 「……」
そんな訳無いだろと、跡部は内心で呟く。
つい数時間前まではそう思っていたけれど、今は倒れてしまいそうな程で。
(本当はすぐ邪魔したい位、手塚にむかついている。 けどあいつの意思を無視する訳にもいかねえし…複雑だ)
まだまだ大人になりきるには難しいと、険しい顔したまま俯いた。
チフネ

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