チフネの日記
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2004年10月10日(日) 盲目の王子様 70 忍足 


「リョーマー!遊びに来たよー!」
玄関が開くと同時に大声を出したジローの頭を、忍足はぽかっと殴った。
「こら、ご近所に迷惑やろ」
「うー、だってテンション上げて行こうと思っただけだもん」
「普通にしろ、普通に」
「入る前から漫才してどうすんの」
リョーマの声に、忍足は振り向いた。
くすくす笑いながら、「どうぞ」と入るよう促す。
「もう部活は終わったの?今日はちょっと早かったよね」
「あー、もうすぐ関東大会やから、あんまり疲れを残さんようにな。自主練習したいやつは、勝手にやっとるで」
「ふーん」
「あ、カルピンだ!」
廊下の端っこにゆらゆらと尻尾を揺らすカルピンを見て、ジローはいきなり声を上げた。
それに驚いてか、カルピンはぴくっと体を動かした後ゆっくり奥へと歩いていく。
「俺、カルピンと遊んで来ようー」
「あ、ジロー」
「リョーマは忍足と話しといてよ。俺も後で行くから」
「…うん。侑士、俺の部屋行く?」
「あ、ああ」

ひょっとして二人きりにするように気を使ってくれたのかもしれない。
それにしてはちょっとわざとらしいんじゃないかと忍足は思ったが、折角の心遣いを無駄にする訳にもいかない。

(ちゃんと話せなあかんな)

心なしかリョーマも緊張しているみたいで無言のまま、自室へと歩いて行く。
固い表情をさせているのが自分の所為かと思うと、心がちくんと痛みを訴える。

そんなつもりじゃなかった。
ちゃんと聞いてもらおうと、忍足は覚悟を決めてリョーマの部屋へ入った。

「適当な所座って」
ベッドの端に腰掛けて、リョーマはぎこちなく笑って言った。
忍足はそっとその隣に座り、膝に置かれた小さな手を取った。

「侑士?」
「リョーマ。あのな、この間のことで話を聞いて欲しいんや。ええか?」
「うん」
真面目な顔をして、リョーマは頷く。
すうっと息を吐いて、忍足は口を開いた。

リョーマの為に。
今はそれだけを考えるべきだから。

「あれな、保留にしてくれんか?」
「え?」
「俺の気持ちは本当に本当で偽りは無い。リョーマのこと大好きけや。
けど今はその時期やないって、ようわかったからな。
リョーマが考えるようになったらで、ええねん。
それまでは、保留。そうしときたい」

無理することなく、言葉がすっと零れたことに忍足は驚いた。
不思議だ。
リョーマのことだけを考えたら、簡単に彼へ言うべきことがちゃんと出て来た。


「保留、でいいの?」
驚いたように顔を上げるリョーマに、「ええで」と答える。
「ああ。ごめんな、色々困らせてな…」
手塚に告白されただけで、十分混乱していただろうに。
更に困らせるようなことを言って、何をしていたんだろうと思う。

好きという気持ちが溢れて、どうしようも無くて。
なのにその好きな人を困らせて。
何やっているんだろうなと、自分自身を笑ってしまう。

後悔を滲ませる忍足の声に、
「ううん。謝ることなんか無いよ」
首を振って、リョーマはきっぱりと告げる。
「侑士は自分の気持ちを伝えただけじゃん。間違ったことは言って無い。
だから謝らなくてもいい」
「リョーマ…」
「俺もまだよく考えられなくて、侑士の好意に甘えてる。
でも、ちゃんと考えるから。いい加減な気持ちで答えたりしないって、約束する」
「そうか。ありがとうな、リョーマ」

リョーマに好意を抱いたのは、こういう真っ直ぐな所だと目を細める。
いつまでも、このままでいて欲しい。
願わくば、自分がこの光を守り続けることが出来たら良いけれど。

(ライバルは強敵ばっかりやしなあ)

とくに身近にいる彼の顔を思い浮かべ、忍足は苦笑いする。
今回は負けを認めるが、この先はそうはいかない。
まだどうなるかなんて、ジローの言う通りきっぱり振られた訳じゃないから十分チャンスはあるはずだ。

でも、今の跡部だったらリョーマを任せてもいいかもしれない。
少しだけ、そんな気持ちが心のどこかにある。
最後の最後まで、諦めないが。
自分の気持ちよりもリョーマを優先させるようになった跡部なら、認めることが出来る気がする。

全てはリョーマ次第だけれど。
二人が一緒に歩いて行く光景を見るを、どこかで望んでいる。

その時は笑って祝福出来たらいい。
少し辛いけれど、リョーマと友人の為にそんな笑顔を向けられたら。
成長したと、少し自分を見直すことが出来るだろうから。




コンコン、とノックの音に忍足とリョーマは顔を上げる。

「ねえねえ、話が終わったのなら、カルピンと俺も混ぜてー!
カルピンはやっぱり俺よりもリョーマの方がいいって言うんだもんー!」
ドアを開けるなり飛び込んできたカルピンに、ジローは不満そうに声を上げる。
「カルピンそんなこと言ったの?」
「ホアラ」
リョーマの膝にジャンプしたカルピンは、そのままごろんと横に寝転がる。
「うー、やっぱりご主人様の方が好きなんだー」
「当たり前やろって、カルピンが何言うてるかわかるんかい」
「なんとなくー」
「お前、すごいな…」

ジローとカルピンの乱入により、一気に場は賑やかになる。
久しぶりにリョーマと忍足は以前のように笑顔を交わして、それまでのぎくしゃくしてた日々が一気に吹き飛んだ。

「カルピーン、俺の膝にも乗って!乗って!」
「ジロー、ちょっと静かにな。さっきも言うたやろ」
注意しながらも、忍足は今日ここへ連れて来てくれたジローに感謝していた。
勿論、跡部にも。

(二人にちゃんと礼言わなあかんな)

リョーマとまたこうして楽しい時間を過ごせる機会を与えてくれた二人に、
忍足は心の底から感謝した。¥


チフネ