チフネの日記
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2004年10月03日(日) 盲目の王子様 63 リョーマ


『俺と付き合うこと、考えてくれないか?』

念押しした後、手塚は帰って行った。

(考えてくれと言われても) 
家に入ると、「おかえり」と母が迎えてくれた。
もう少ししたらご飯が出来るとの声に、
ちょっと休んでいると自室のベッドで寝転ぶ。
しかし数分も経たない間に、訪問者の知らせを受けてしまう。

「侑士が?今、来てるの?」
「先ほどもいらしていたんですが、やっぱりリョーマさんに会いたくて引き返して来たんですって」
「え、そうなの?」

真っ先に手塚と一緒に歩いている所を見られなかっただろうか。
その件が気になった。

「どうします?」
「うーん、と部屋に上がってもらって」
「ええ、わかりました。夕飯食べて行ってくれるでしょうかね」
「それも聞いておいて」


菜々子が出て行ってから、すぐに忍足は階段を上がって来た。


「よっ、リョーマ。元気か?」
「侑士…」

明るいその声に、ほっと力を抜く。

「ごめんな、突然」
「練習は?終わったとこなの?」
「ああ、そうやで。今日も疲れたなあ。こりゃリョーマの顔見て充電しないとやってられへん思うてな。
悪かったな、ほんまに」
「別に、いいけど。夕飯食べていってくれるんでしょ?」
「図々しいけどお願いしたわ。リョーマとこのご飯、美味しいからな」
「また。母さんにそんなこと言ったら調子に乗っちゃうよ」
「ほんまのことやんかー」

他愛の無い話に、さっきまでの悶々とした気持ちが消えていく。
ありがたいことに、忍足は一向に手塚の話題を振って来ない。

(見られてなかったのかな)

告白されましたなんて言えるはずがないので、
一緒にいる所を見られなくて本当に良かったとリョーマは胸を撫で下ろした。


それから夕食を取って、またしばらく自室で話をして。
気付いたら時刻は9時を過ぎていた。

「あ、もうこんな時間や。楽しい時間はあっという間やなー」
そう言って立ち上がる忍足に、「母さんに頼んで送ってもらおうか?」と提案する。
「大丈夫やて。この位、なんでもあらへん」
「でも」
「大丈夫やて」

くしゃっと髪を撫でる忍足に、それ以上無理強いすることも出来なくて、
リョーマは「わかった」と頷く。
「じゃ、玄関まで送るよ」
ゆっくりと立ち上がろうとしたが、
不意に足をもつれさせて、よろけてしまう。
「リョーマ!」
さっと手を出し、忍足はしっかりと小さな体を支える。
「ごめん、侑士」
「気ぃ付けなあかんで」

全く今日はよくふらつく日だ。
少し笑って、忍足が手を離してくれるのを待つ。
が、一向にその気配が無い。

「侑士?」
訝しく思いながら、名前を呼ぶ。
すると腰を支えていた手が背中に回り、今度はぎゅっと抱きしめられる。

「リョーマ」
「何?」

全く警戒心など、持っていなかった。
しかし忍足が次に告げる言葉に、硬直してしまう。

「好きや」
「え?」
「俺な。リョーマが好き、なんや」

手塚に言われるよりも、ずっと意外だった。
忍足は年上の優しい友人。
そんな風に思っていたから。

冗談やと笑ってくれればいいのに、忍足の声は真剣だった。
「侑士…なんで?あの、本当に」
「リョーマのことが、好きなんは本当や」
わかってもらいたいのか、忍足はもう一度繰り返す。
「さっき手塚に告白されたんやろ。悪い、聞いてしもうた」
動かないリョーマに、忍足はそう告げた。

(やっぱり見られていたんだ)

小さく息を吐くと、それを非難と取ったのか、
忍足はもう一度「ごめんな」と謝った。

「聞くつもりは無かったんや。偶然二人が歩いている所見て、
そしたら手塚がリョーマに好きって言うのが見えて、それで」
「侑士、あの苦しいんだけど」

呼吸も出来ないほどの力強さに、声を途切れ途切れ訴える。
すると慌てて忍足は、腕の力を抜いた。
が、背にはまだしっかり手が回された状態だ。

「リョーマ。手塚のものなんかにならんでくれ。
他の誰にも…渡しとうない」
「侑士」
「好きなんや。俺じゃ、駄目か?リョーマの支えになれんか?」

同じ日に二人から告白されるなんて、生まれて初めてのことで。
どうして良いかわからず、リョーマは黙ったまま立ち尽くしてた。


チフネ