チフネの日記
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| 2004年09月24日(金) |
盲目の王子様 54 跡部 |
手塚の「越前リョーマ」という声に、跡部は数秒ほど固まった。 ひょっとして二人は知り合いなのだろうか。
(手塚と、越前が…?)
嫌な考えに、跡部は顔を険しくした。 その様子に気付く事無く、手塚は普通に話し掛けて来る。
「偶然だな、跡部」 「…そうだな」
後ろから来た忍足とジローも手塚に気付き、 「あー」と声を上げる。
「青学の部長さんやんか。奇遇やな」 「あ、ああ…」
ジローは手塚に挨拶することなく、ただ跡部とリョーマの繋がれた手に視線を注いでいる。 「跡部、何リョーマの手を握ってんのー?」 「今はそれ所じゃねえ、黙ってろ」 不機嫌そうに返す跡部に、忍足がちらっと視線を移した後口を開く。 「ひょっとして隣の個室。青学の連中か?」 何気ない言葉だったが、手塚は騒いでいた部員のことを責められたと取ったようだ。 厳格な顔で「済まない。注意はしているのだが」と真面目に答える。
おそらく都大会の打ち上げに来たのだろうと、跡部は察した。 優勝して奴らが浮かれていようが、そんな事情はどうでも良い。 これ以上手塚がリョーマに話しかける前に、ここを出たかった。
「そうか。精々通報されない程度に楽んでいろ」 そのままリョーマを引っ張り、手塚の横をすり抜けようとする。
だが、それを手塚が見逃すはずもない。 「待て、跡部!」 呼び止められ、ちっと舌打ちする。
「跡部…その子はお前の知り合いか?」 「あーん?てめえには関係ねえだろ」
警戒しながら喋る跡部に、手塚はずいっと距離を縮めて来る。 当然リョーマとの距離も縮まる。
「越前、リョーマ。そうなんだろ」 再び名前を呼ばれ、リョーマはびくっと肩を揺らす。
「何々。手塚とリョーマって知り合いなの?」 それまで黙っていたジローがいち早く反応して声を上げる。 「ううん。知らない。この人誰…?」
リョーマの答えに、跡部は知り合いじゃないのかと何故かほっとする。 続いて手塚も「知り合いという訳じゃない」と否定したので、 二人が顔見知りじゃないことは証明された。 しかし、それなら何故手塚はリョーマを知っていたのか。
「手塚君はリョーマをなんで知っとるんや?」 最もな忍足の質問に、手塚は迷いながらも口を開く。 「偶然だ。大分前に試合で見掛けたことがあって…」
その言葉にすぐにぴんと来た。
(こいつ。越前がアメリカでテニスしたことを知ってる!?)
忍足とジローはすぐに気付かず、「リョーマが試合に来たことあったっけ」と顔を見合わせている。 その先を言わせない為、跡部はわざと声を上げた。
「知り合いじゃねえなら話すことは無いな。行くぞ、越前」 今度こそリョーマを連れて、その場を離れようとする。 しかし手塚はまたしても追いすがる。 「待ってくれ」 「何だよ」 「少し、彼と話させてもらえないだろうか」 「ああ?」
とんでもない頼みに、跡部の機嫌は急降下した。 話をさせるなんて、冗談じゃない。 だが手塚は必死で頼み込む。
「5分。いや、3分でいい。 彼は、もう一度会いたいと願っていた人なんだ。ずっと会えることを待ってた。 頼む。話させてくれ」
危険な発言に、跡部がうんと承諾するはずない。
(絶対近寄らせねえ)
ぎゅっとリョーマの手を強く握り締める。
「お前みたいな怪しい奴と話させられるか。とっとと戻れよ」 「断る。やっと会えたんだ。彼と話をさせてもらえるまで、帰さないからな」
互いに睨み合う二人に、この後どうなるんだと忍足とジローが目を瞬かせる。 そこへ手塚が出てきた個室から、また新たな人物が登場する。
「いいんじゃない。3分だけって言ってるんだから」 にこやかな笑みを浮かべているが、その背後にある黒いオーラは隠しきれて無い。 青学の天才と名高い不二周助。 面白そうな顔をして、手塚とリョーマの顔を見ている
「不二。てめえには関係ないだろ。ひっこんでいろ」 大抵のことなら不二に関わらないよう努めるが、今回は別だ。 不二の言う通りになんかするものかと、跡部は迎え撃つ体勢を取った。
そんな跡部に不二は気にすることなく、滑らかに口を動かす。 「その子が嫌だって言ったの? 勝手に自分の思い通りにしようとするなんて、おかしいんじゃない?」 「なんだと」 「ねえ、そこの君」 跡部のことを完全に無視をして、不二はリョーマに話し掛ける。 「手塚と3分だけお話してくれないかな。 でなきゃこいつ、夜も眠れなくなってまた老けちゃうからさ。これ以上老けたら大変なことになるんだ。 あ、君の安全は僕が約束する。手出しさせたりしないよ」 「不二…・頼んでくれるのはありがたいが、引っ掛かるところがあると思うは気の所為か?」 「うん。気のせい。気のせい」
釈然としない手塚と、可笑しそうに笑っている不二。 心底どうでもいいと、跡部は思った。 硬直しているリョーマに「断ってもいいんだぞ」と耳打ちする。
「言い辛いのなら、俺から言ってやるから」 「跡部さん…でも、俺」
リョーマは小さく首を振り、跡部の予想と反したことを口にする。 「ちょっとだけこの人と話してみます」 「…っ」 「リョーマ!?なんで、なんで?」 ショックで声の出ない跡部の代わりに、ジローが声を上げる。 「決まったね」 可笑しそうに不二が手塚の肩を叩く。 そしてさっと近付き跡部とリョーマの繋いでいる手を離してしまう。 その時間は1秒にも満たない。鮮やかなものだ。
「手塚。この子連れて、外で話しておいで。 時間は守ってね。怖いナイト達がうるさいから」 「あ、ああ」
はい、とリョーマの手を渡され、手は戸惑いながらも頷く。 そしてしっかりとリョーマの手を握ってしまうではないか。
「ちょお待って。なんで不二が仕切るんや?二人きりなんておかしいやろ」 納得行かないと、忍足が不満げに唸る。 「君達がいたんじゃ話辛いでしょ。3分なんだけだから、別にいいじゃない」 「よくないよー!」
むっとするジローだが、リョーマが話したいと言ったのだ。 あまり文句も言えないというように、眉を寄せてもごもごと呟くだけだ。 まだショックを受けてる跡部は、未だ呆然としている。
「済まない。少しだけ、俺に付き合ってくれ」 「…わかった」 「手塚。頑張ってね」 「何をだ」
不二に見送られ、手塚はリョーマの手を優しく引いて外へ連れ出してしまった。
「ねえねえ。あの子って、君達の中の誰かと付き合っているの?」 不二のその言葉に、跡部は一気に覚醒する。 「余計なことしやがって。てめえが出てこなければ」 文句を言おうとするが、不二は無視して質問を続ける。
「さっさと答えてよ。付き合ってるの?ただの友達?」
急にそんなことを言われても。
跡部は口を閉ざし、忍足は難しい顔して俯く。 ジローだけが、「俺、リョーマの保護者ー!」と手を上げて名乗り出る。 不二はそれを綺麗にスルーして、肩を竦めた。
「ふうん。その様子だと誰とも付き合っていなさそうだね」 「て、てめーには関係ないだろ」 「そうや。何やねん、一体」 跡部と忍足が同時に声を張り上げる。 しかし不二は更にとんでもないことを言い出す。
「じゃあ、手塚があの子と付き合っても問題なさそうだね」 「はあ!?」 「何言い出すんや!」 「だめー、そんなの!」 三人の思いが一つになった瞬間だった。
楽しくて仕方ないといった表情で、不二はぺらぺらと喋りだす。
「だって手塚が誰かに対してあんなに必死になったの、見たことないから。 ひょっとして、どうしても話し掛けたかったのも告白したいから、と思ったりしてね」 「「……」」 「ねー、それって手塚がリョーマを好きって言ってるの?」
言葉を失う跡部と忍足の代わりに、ジローが手を上げて質問する。
「それも一つの可能性だと思うんだよね」
さっと血の気が引く。 手塚が、リョーマを。 そして、告白するかもしれない?
「越前が危ない!」 「邪魔しに行くで!」
走り出し外へと行こうとする二人だが、 店員に「お代を先に…」と呼び止められてしまう。
「ねえ、保護者の君」 「何?」
キレそうになりながら財布を出す跡部達の様子を見て、 不二はくすくす笑いながら出遅れたジローに声を掛ける。
「もし手塚が本気であのこと付き合うつもりなら、 僕は協力するつもりだから。よーく覚えていてね」
不二の不気味な空気にも、ジローは怯んだりしない。
「お前、なんか変な奴だな」 「そう?いたってごく普通な天才だけど?」 「とにかく!誰が協力するなんて、関係ない。 決めるのはリョーマなんだから。変な工作するなら、俺許さないから」
ようやく会計を終えた二人へと、ジローは駆け寄って行く。
「ふうん。なんか面白くなりそう」
手塚が戻ったら詳しく話しを聞こうと、 不二はこれから起こる何か楽しい出来事を予見して、そっと笑った。
(くそっ、なんなんだ一体)
嫌な空気に跡部の背筋が冷たくなったが、 今はそれどころじゃない。 やっぱり二人きりになんてさせるべきじゃなかった。 絶対引き離してやるぞと、外へと飛び出した。
チフネ

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