チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2004年09月23日(木) 盲目の王子様 53 新たな混乱の始まり


休日の所為か、店は割りと込んでいた。
外で待っている人もいる。

「結構、入っているな」
「予約しといて、正解だったでしょ」

当然だが制服を着てる人は、他にいない。
リョーマは家に居た為私服だが、試合帰りの跡部達は制服のままだ。
着替える程気を使うような高い店ではなさそうなので、
いいか、と跡部は瞬時に結論を出した。
「個室があるだけ、マシだな」
騒がしい店内に、眉を寄せる。
リョーマの方を見ると、見知らぬ場所が不安なのか俯いてしまっている。

「大丈夫か」
「・・・うん」

手を握ってやると、リョーマはニコっと笑顔を向ける。

「おい、ジロー。さっさと案内してもらえ」
「わかってるよぉ。スミマセンー!予約してるんですけどー!」
「声、でか過ぎやて」

喋ってる客達よりも倍の声を上げるジローに、忍足はげんなりと肩を落とす。
しかしその大きい声に、店員は急いで駈け付け、すぐに個室へと通された。

「もっと静かな店、選べよな」
「跡部が行ってるような店なんか、普通の学生は高くて行けないよ」
「まあまあ、二人共はよ何か頼もうや。リョーマもお腹空かしとるんやろ?」
「うん」

リョーマの隣にジロー、その前が忍足で、跡部は正面という形で座ってる。
ちなみに公平なじゃんけんによって決められた。
なんでいちいちじゃんけん?とリョーマは不思議そうだったが、
譲れないものだってあるのだ。
「リョーマ、何にする?和風パスタなんかもお薦めだけど」
「あ、俺ピザがいい」
リョーマがピザを選んだのは、パスタよりも手で掴みやすいからだ。
その理由にジローはすぐ気付いたが、それについては何も言わずピザのお薦めを挙げる。
「たっぷりきのこのホワイトソースと、トマトソースのピリ辛ソーセージ乗せが美味しいかな。
いっそのこと両方頼んで、食べ比べしようか」
「うん!」

仲良くオーダーを決める二人の姿に、正直腹正しく思うがぐっと我慢する。
ここで文句を言ったら、また揉めてリョーマに怒られるだけだろう。
忍足もそう思っているのか、淡々と「俺、鴨肉のパスタと温野菜のサラダにしよ」と呟いている。
リョーマにキツイ一言を言われるのは、堪えるようだ。

(それは俺も、同じか)

そうして揉め事の無いまま、食事の時間は過ぎて行った。
基本的にリョーマは、たどたどしくもあるが自分の手でピザを食べている
それに誰も手出しをしたりしない。
リョーマなりに、迷惑を掛けないようにと頑張っているのだ。
見守ることはしても、口出しは絶対にしないと三人とも同じ思いだった。
ただ自分達が注文したものは、味見という名目で口に運び続ける。
「リョーマ、これも美味しいよ。食べて」
「そんなら次は俺の番やで」
「おい。何勝手に、越前の口に運んでるんだ。俺が先だろ?」
「ちょっと・・・一度に言われても無理だよ」
「なら、じゃんけんー!」
「恨みっこ無しやで」
「ふん。そっちこそ後で騒ぐなよ?」
結局、順番を決めてやったので、後には争いも何も起こらず楽しい時間だけが過ぎていく。





「隣、うるさいな」

デザートも食べ終わり、まったりとした空気の中、
忍足は隣の個室を見て声を出す。
「かなりの人数みたいだな」
「それにしても騒ぎ過ぎだC。あれじゃ店内に響いてるよ」
自分達も最初にリョーマから怒られなかったら、あれだけ揉めて騒いだに違いないのだが、
完全に棚上げした状態で語っている。
たしかに隣は文句の一つも言いたくなるくらい、騒がしいのだが。
時折誰かが「静かにしろ」と注意はしてるようだが、すぐまた元通りの声に戻ってしまう。

「出るか。ここじゃ落ち着かないぜ」
「今、何時?」

お腹いっぱいになったことで眠くなったのか、目を擦りながらリョーマが訪ねる。

「8時過ぎだな」
「俺、そろそろ帰らなきゃ。遅くなると母さんが心配するし」
「リョーマもこう言ってるし、今日はお開きやな。また今度行こうな、リョーマ」
「忍足・・・てめえ、何抜け駆けしようとしてるんだ?」
「そうだよ。俺が誘った時は、散々文句言ったくせに」
「何やて?俺は堂々と誘っているやないか。こそこそしとらへんで」
「おい、言い争うのは止めろ。全く、学習能力が無いのか」

呆れたような声を出し、跡部はさっと立ち上がりリョーマの隣に立つ。
そして手を取って、立ち上がらせてやった。

「ありがと」
「こいつらに構ってると遅くなりそうだからな、行くぞ」
「え?」
「あー、跡部!またリョーマの手、握ってるー!」
「汚いわ、ほんま」

二人が罵る前より早く、跡部はリョーマを引っ張って個室を出る。
外に出ても騒がしい隣に眉を顰めながら、ゆっくりリョーマがついて来れる速さで歩く。

「え?」
「あ?」

ガチャッと開いた隣のドアから、見覚えのある人物が出て来て跡部は足を止めてしまった。

「わっ」
突然の行動に、目の見えないリョーマは対応出来ない。
跡部の体にぶつかってしまう。

「越前!」

ぐらっと揺れる体を、咄嗟に支えてやる。
対応が早かった為、転んだりしなくて済んだ。
ふっと安堵の息を吐く。

「悪い。驚かせたな」
「平気っす」

リョーマが小さく首を振って、きちんと体勢を整え直す。
それを確認した後、跡部は改めて原因を作った人物へと視線を移す。

(なんでてめーがここにいるんだ?)

青学の部長、手塚国光。
跡部も認めるほどの実力の持ち主。
制服姿の手塚に、寄り道もするのかと変な所に感心してしまう。

その手塚は、跡部の方を何故か見ていなかった。
視線を辿ると、後方にいるリョーマへと注がれている。

「おい、手塚。何じろじろ見ているんだ」

失礼な奴だ、とリョーマを背に隠すと同時に、
手塚が声を上げる。

「越前、リョーマ・・・?」

手塚の口にした名に目を見開く。
思わず跡部はリョーマを振り返る。

盲目の少年は名前を呼ばれたことに、困惑して首を傾げていた。




チフネ