チフネの日記
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2004年09月22日(水) 盲目の王子様 52 跡部景吾

閉会式に出るのも嫌だったが、部長が出ないというのも問題だ。


「優勝、青春学園」


青学の表彰に、ケッと跡部は口元を歪める。
準優勝したのは氷帝を破った不動峰。
ノーマークだったからと言い訳するつもりはない。
D2・D1・S3と完敗した。
しかしダブルスはともかく、S3は正レギュラーの宍戸。
簡単に負ける訳ないと思っていたが、相手が悪すぎた。
金髪じゃなかったので気付かなかったが、橘はかつて九州の2強と言われた程の全国レベルだ。
なすすべも無くポイントを取られていくしは、誰が見てもガタガタで。
試合は15分程で終ってしまった。

全く、自分が出ていたら結果は違っていただろうに、と跡部は歯軋りした。
監督への報告はどうでも良いが、リョーマへの結果は何て伝えたら良いのか。
あれだけ優勝だと豪語してた分、恥ずかしくなってしまう。

閉会式が終わり、各学校がそれぞれ散らばって行くのを眺めながらも、
跡部はそんなことばかりを気にしていた。

「ねー。宍戸、大丈夫かな?」
絵に描いたような落ち込みぶりに、さすがのジローも心配そうな眼差しを向けている。
肩は落ち、目も黒く沈んでいる。
試合後、一言も声を発してもいない。

「放っておけ。勝手に立ち直るだろ」
「跡部、冷たいー。試合に負けたのも宍戸のせいって八つ当たりするのやめなよ」
「するか。八つ当たりしてもどうにもならねえだろうが。
それに宍戸がこれから立ち直るのに、他人の言葉なんて無意味だ。
自分で這い上がらなければ奴もこれまでだな」
「せなや。厳しいで、これから」

落ち込んだまま帰るしの後姿に、忍足も神妙に頷く。

「明日の俺等の姿かもしれへんのやで」
「レギュラー落ち、しちゃうんだね。やっぱり」
「ああ」

負ければ即レギュラー落ち。
厳しい規則に誰も文句を言わないのは、チャンスが平等に与えられるからだ。
掴んだら、それを続ける努力をしない者は落ちて当然。
それが氷帝の強さだ。

「行くぞ。あいつ、迎えに行くんだろ。車で行けばその分、速い。
お前達も特別に乗って行ってもいい」
「珍C。滅多に無い跡部の心遣い!」
「ジロー、お前だけ走って行くか?」
「嘘、嘘。乗せて行ってー」

先程までの重い空気をわざと振り払うように、騒ぎながら三人は車に乗り込む。

リョーマの家までの到着の間に、跡部は榊に連絡を取る為携帯を取り出す。
部長に任せきりの顧問なんて、随分気楽だと溜息をついて。
こんな結果を聞かせる自分の重い気持ちなど、わかってもないのだろう。
だが榊は敗北の結果を聞いても「そうか」と淡々に受け止めただけだった。
「宍戸はレギュラー落ちだ。代わりは後日決める」
「はい」
「ご苦労だったな。以上、行ってよし」

ぷつっと切れた携帯に、どこへ行くんだ指あの形とってるのかと思いつつ、ポケットに携帯を仕舞う。
宍戸がレギュラー落ちするのは、やはり聞いて気分が良いものでは無いが、
どうすることも出来ない。
這い上がるかどうかは、宍戸次第。
それまで手を貸さないと、跡部は決めている。



「着いたー!」
「ジロー、耳元で騒がんといてな」

鼓膜に直接響いたのか、忍足は耳を抑える。
我関せずと、ジローはドアを開けて車外へと飛び出してしまう。

「リョーマ!迎えに来たよ!」
インターフォンを押してもジローは大声を出しているので、慌てて窘める。
「近所迷惑は止めろ」
「えー」

次の瞬間、ガチャッと玄関が開かれ、中から盲目の少年が杖をついて現れた。

「ジロー、中まで声聞こええたよ」
「リョーマ!会いたかった」
「あ、おい、ジロー!」
跡部の制止を振り払い、ジローはリョーマの元へと駆け寄り、ぎゅっと抱き付く。

「リョーマ、聞いてよ。今日の試合負けちゃったー!」
「ええ?」

チッと跡部は舌打ちする。
慎重に伝えるつもりだったのに、これで全てがぶち壊しだ。
さてどう出るかと跡部が様子を伺っている間に、
忍足がリョーマからジローを引き剥がしに掛かる。

「負けたけど、俺等は試合に出てへん。
せやから余計悔しかったわー。あの場におったら、負けへんかったのになあ」
「誰も試合に出て無いの?」

忍足に引き剥がされそうになりながらも、ジローはリョーマの腕にしがみ付いている。
「出てないよ。出たかったのにー。本当悔しい!」
「でもまだ関東大会もあるんでしょ?」
「せや。そっちで今日の雪辱晴らそうやないか。リョーマ、応援してくれるんか?」
「え、うん。頑張って」
「ずるいー。リョーマ、俺にも言って」

負けたと聞いても、意外とあっさりしたリョーマの反応。
「勝つんじゃなかったの?」と言われるのは覚悟していたのに。

(あいつのこと、まだよくわかっていなかったんだな・・・・)

苦笑しつつ、跡部は三人の間に割って入った。

「おい、そこまでにしておけ。店、予約してるんだろ?もう、行くぞ」
「って、何で跡部がリョーマの手を握ってんの?」
「手を引いてやってるだけだろ」
「そんなら俺が変わりに引いといてやるわ。交代や、交代」
「うるせえ。細かいことごちゃごちゃ言うな」
「細かくなんか無いC!」

喚く二人を無視して、跡部はリョーマを先に車へ乗せてやる。

「ありがと」
礼を言うリョーマに、今ならとそっと伝える。
「いや・・・それより格好悪い結果になったな」
「何が?」
「優勝の報告、してやれなくて・・・」
瞬きした後、盲目の少年はニッコリ笑う。

「まだ全国大会まで始まったばかりじゃん。次は試合出るんでしょ。
その時の話、また聞かせてよ」
「・・・・・・おう」

嫌味の無い素直なリョーマの言葉に、跡部は頷く。
全力で勝利を掴みたい。
そんな気にさせられる。

「跡部、何リョーマとこそこそ話しとるんや」
「そうだよ、後つかえてるのに」

跡部が入り口を塞いでいるため未だに車に乗れない二人が、不満げに唸っている。

「お前らなんぞ、ここでおいてやってもいい位だ」
「何やて?」
「ちょっと跡部さんも侑士もやめなよ。
皆で食事に行くんでしょ?」

リョーマの声に、三人は瞬時に争いを止める。

誰がこの場で一番の発言権を持っているのか、
言うまでも無い。


チフネ