チフネの日記
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2004年09月21日(火) 盲目の王子様 51 跡部景吾

ふと気を緩めた隙にこっくりと眠りこけるジローの頭を、
跡部は平手で叩いてやった。
「痛い!叩くことないじゃん」
「寝るからだ。それともグーでいくか?ああ?」
「だって、試合も無いのに連れてこられるのっておかしいよ。迷惑。
寝たい時に寝かせてくれてもいいじゃん」
「お前、な。テニス部員だろ?
たとえ出場しなくても、応援してやろうとは考えないのか」
「跡部だって真面目に応援しないくせに。
あーあ。こんな事なら早起きしてリョーマの家に避難しとくんだったー」

その言葉に、跡部の視線が険しくなる。
やっぱりジローは今日もリョーマに会いにいくつもりだったのだ。
早めに樺地に迎えに行かせたのは正解だった。
無理矢理引っ張って来たようだが、この際どうでも良い。

本日は都大会準決勝・決勝が行われる。
よほどのことが無い限り応援の欠席は許されない。
しかもリョーマと二人きりになろうとは図々しいと、
跡部は私情を入れてジローを睨んだ。
が、ジローはそんなことを気にする性格では無い。

「で、準決の相手ってどこ?」
「それも知らないのか」
「うん」
「ったく。不動峰ってところだ。それ位は覚えておけ」
「ふうん。そこってどんな相手?」
「さあな」
「なんだ、跡部も知らないんじゃん」

お前と一緒にするなと口を開きかけるが、そこへ忍足の声が響く。
「おい、跡部!そろそろ集合やでー」
「・・・・・・・」
今日、試合出場が無いジローは良いが、
S1に登録されtる跡部は整列しなければならない。

(面倒くせえ。青学の手塚以外に試合したい奴は他にいやしねえ)
黒いジャージに身を包んだ不動峰の部員を前にしても、
跡部は何の感慨も受けない。
いつも通りさくっとS3で勝敗は決まると思っているからだ。

「良い試合にしよう」
「・・・・・ああ」
握手を交わす際に、不動峰の部長・橘に声を掛けられても右から左へと流すだけ。
跡部の態度にじっと橘は見詰めてきたが、知らん顔して手を離した。


「あー、面倒くせえ。整列するとき位、俺の振りして適当に挨拶して来いよ。
それ位役に立たねえのか」
「なんで俺の顔見て言うねん・・・」

理不尽な跡部の呟きに、忍足が苦情を洩らす。

D2の試合が始まったが、応援は他の部員に任せて、
跡部・忍足・ジローは少し離れた所のベンチで寛いでいた。
試合がある宍戸は集中したいらしく音楽を聴き始めたが、
相手して欲しいと向日に纏わりつかれていて迷惑な顔をしている。

「ねー、跡部。今日、絶対5時までに終わる?」
ご、とジローが片手を開いて、跡部の顔に近付ける。
鬱陶しそうに払いのけて、「多分な」と答えた。
「多分じゃ困る。俺、少しでも遅くなるなら帰るからね」
「勝手なこと言うな。前から思っていたけど、俺以上に我侭だよな・・・」
「だって大事な用事があるんだもん」
「とか言うて、リョーマと約束してたりしてな」

瞬間、ジローは目を逸らす。
跡部と忍足はそれを見て、確信した。
間違いない。
ジローはリョーマと会う約束を取り付けている。
「また、あいつの家に行くのか。迷惑だからやめろ」
「別にリョーマと会うなんて一言も」
「ほなら確認するか?リョーマに電話して「うん」言うたら、ほんまに針千本飲ますで」
「酷いー」
「酷いのはどっちだ。影でこそこそ約束しやがって」
「せやな。抜け駆けはあかんで、ジロー」
「うう・・・」

跡部と忍足に囲まれては、ジローも逃げ場が無い。

「越前の家に行くつもりだったのか?」
「えっと、今日は場所を変えようと思って・・・」
「正直に話せばおしおきは許したる。どこいくつもりだったんや?」

詰め寄られ、ジローは泣く泣く口を割る。
「最近、気に入ってるパスタとピザのお店。リョーマもそこでいいって」

まるでデートじゃないか。
ますます跡部と忍足の機嫌は下降していく。

「ジロー、いつリョーマに電話した?
朝の時点じゃ樺地に拉致られて、約束してる暇なかったやろ?」
「それは・・・さっき跡部が整列してた隙を見て」
「トイレ行く言うてたやん。あの時か?俺を出し抜いて汚いやっちゃな」
「もういい!」

怒りを露にして、跡部は声を上げた。
人が整列している間に、よくもまあやってくれたものだ。

「お前、すぐにその約束キャンセルしろ」
「なんでだよ、リョーマだって行きたいっていったのに」
「気を使って言ったんだろ。外での食事は却下だ!不慣れな場所だとあいつが大変だろ」
慣れない場所での食事は、気を張るので負担になるだけだ。
リョーマのことを考え、そう発言した跡部に、
ジローはフフと笑い返す。

「平気。そのお店個室あるから。ちゃんと予約しておいたC。
リョーマには俺が食べさせてあげるから問題無し!」
「何やて?」
「そんなこと許すか、バカヤロウ」

二人同時に責められ、ジローはびくっと体を揺らす。

「だったら俺もいくからな、その店に」
断言して言う跡部に、忍足も「俺も勿論参加させてもらう」と加わる。

「ヤダー!二人が来たら、リョーマとのんびり過ごせないじゃん」
「お前にそんな権利はねえよ。勝手な行動は慎め」
「今回ばかりは跡部の意見に賛成や。その店に二人追加する言うて。今すぐ。
俺からリョーマには4人で行く伝えとくわ」
「ヤダー!」

駄々を捏ねるジローを無理矢理言うこと聞かせる形で、
結局4人で食事に行くことに決定した。

(あいつもジローの誘いなんて断ればいいんだ。何故そうしない?)

大会が終わったら「報告」する為、家を訪問することをわかっているはずだ。
たしかに必ず行くとは、約束していないが・・・。

いっそのこと、さっさと進展してしまおうかと考えるが、
そこは榊の言葉が重く圧し掛かり行動に移すには躊躇してしまう。
手術を控えたリョーマに、気持ちを押し付ける真似はしたくない。
かといって何もしないわけにもいかない。
だからさり気無く態度には出しているのだが、
鈍いのか全くリョーマはわかっていないようだ。
(彼女の方を大事にしろ・・・なんて言うしな)
さすがにあれは少し凹んだ。
何気ない一言だったが、意識されてないと実感したからだ。
これから変えていくつもりだが、道のりは険しそうだ。
(加えて、邪魔者もいる・・・)

ギャーギャー言いながら争ってるジローと忍足を見て、溜息をつく。
手術が終わるまでじっくり見守ってやりたいところだが、
こいつらの出方次第じゃどうなるかはわかったものじゃない。
跡部でさえ、わからないのだ。



「大変です、跡部部長!」


不意に駆け込んできた後輩の姿に、跡部は顔を上げた。
そういえば忘れ掛けていたが、今は試合中だったのだ。

「何だ。相手に怪我でもさせたのか?」
「違います。でもすぐに来て下さい!」
「はあ?」

試合の結果に跡部は興味など無かった。
青学ならまだしも、相手は全国大会での常連でもない無名校だ。
氷帝が負けるとは微塵にも思って無い。

(まさか苦戦してるのか?)
跡部の予定では本日リョーマと会って、都大会優勝したと話すのはすでに決定されてる。

(冗談じゃねえぞ、こんなところで)

足早にコートへと戻る。
忍足とジローも後を追う。



跡部の描いてた想像とは掛け離れた結末が、
行った先のコートで待ち受けていた。


チフネ