チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2004年09月18日(土) 盲目の王子様 48 跡部景吾

「跡部さん、ファンタでいい?それともお茶がいい?」
キッチンへ入り、リョーマは手探りで冷蔵庫の取っ手を掴む。

「別に、気を使わなくてもいい。それよりお前の他に誰もいないのか?」

いつも会ってた母親や従姉が出てこない。
リョーマがジュースを出すという行為も不自然だ。

「うん、誰もいないよ。俺、今日は留守番なんだ」

本当にいらないの?と念を押すリョーマに「ああ」と返事をする。

「母さん達もジローが来てくれたから、安心して出掛けて行ったけど・・・・。
やっぱりあの時家から追い出して、試合に行かせるべきだったな」

あーあ、と困った顔するリョーマに、慌ててジローは否定する。

「どうせ試合には出ないって言ったじゃん。平気だって」

だろ?跡部、と目配せされたら、何も言えない。

元々会場には来る気が無く、ここへ直行したのだろう。
それでリョーマが一人留守番すると聞いて、一緒にいると言い張ったところか。
褒められたことじゃないけれど、リョーマが一人ぼっちになるよりかはいいか、などと思ってしまう。

昼までさえ、真っ暗な空間にリョーマはいる。
たった一人でその暗闇の中に置いておく位なら、不本意だがジローといた方がましに思える。

きっと、家族が外出して心細くても、決して「行かないで」なんて言えないだろうから。

本当は、いつも自分が一緒にいられたら・・・・。



「今回だけだからな」

苦々しく跡部が告げると、ジローは「へへっ」と舌を出した。
本当に調子の良いやつと、ぎゅっと拳を握り締める。

「良かった。お咎めなしだってさ!」
「ほぁら」

嬉しそうなジローの声に抱かかえている毛玉が、一声無く。

「なんだ、それは・・・?」

さっきから視界に入っていた、ばたばたと尻尾を動かしているそれ。

「それ、たぬきか?」
「猫だよ・・・ジローも間違えてたけど」
「猫、なのか・・・悪ぃ」
「もう慣れたけど」

そう言って、リョーマはジローの側へと近付く。

「カルピン。跡部さんも会うのは初めてだっけ?」
手を伸ばし、リョーマはジローからカルピンを受け取る。
愛しそうな表情に、どれだけ可愛がっているかすぐにわかった。

「ああ、初対面だ」
「カルピン、挨拶して」
「ほぁら」

変わった鳴き声だけど、一応挨拶らしい。

「よろしくな」
「ほぁら」

軽く耳や頭を撫でると、カルピンは気持ちよさそうに目を閉じた。
そのまましばらく触れたままでいると、
ジローが「俺も触るー!」と騒ぎ出す。

「さっきまでずっとカルピンと一緒にいたじゃん」
「でもまだ足りないよー。な、カルピン。俺と遊ぶよね?」
話が見えないようで、カルピンはキョロキョロ辺りを見渡している。
「ふーん、まあいいけど」
もう一度、リョーマはジローの手へとカルピンを渡す。
「わーい、カルピンだー」
「ほぁら?」
可愛い可愛い、と喜ぶジローに、リョーマは苦笑しながらも嬉しそうだ。
愛猫が褒められて、悪い気分になる飼い主はいないからだろう。

「それより跡部さん。話があったんじゃないの?」
「え?ああ・・・」
そうだ。
ジローに会ってすっかり目的から外れてしまったが、リョーマに今日の結果を報告に来たんだった。



「何?話って」

カルピンを撫でながら、目敏くジローがツッコミを入れてくる。
こいつの前で話すのはイヤだなと思っていたら、
リョーマの方から助け舟が出された。

「ジロー、カルピンのこと見ててよ。俺はちょっと跡部さんと話があるから」
「どういうこと〜?俺には言えない話?」
「おい、ジロー・・・」

片手でカルピンを支え、もう一方の手でジローはリョーマの袖を掴む。
行かせまいとしているのか。

「リョーマをそんな子に育てた覚えはありませんっ!」
「いや、育ててもらっていないし。そうじゃなくって、ホントにちょっと話するだけだから。待っててよ」
「俺がいたら、ダメ?」

だだを捏ねる様子に、やっぱりこいつは保護者なんかじゃねえと、跡部は呆れた。

「ねえ、ジロー。
跡部さんは俺と話する為に、来てくれたんだよ。その為に、時間を割きたいって思うのって悪いこと?」
「だって・・・だって・・・」
「ちょっと待つくらい、出来るよね?」

幼い子に言い聞かせるようなリョーマの言い方に、渋々ジローは頷く。
困らせて、嫌われたくないと思っているのかもしれない。

「・・・・ほんとにちょっとだけだよ。変なことされそうになったら、声上げて」
「そんなのないって。じゃ、跡部さん。そっちの部屋行こうか」
「あ、ああ」

恨みがましくこちらを見てるジローはなるべく視界に入れないようにして、ゆっくり歩くリョーマの後ろと続く。

さすがのジローもリョーマに言われたら、敵わない。
大人しくカルピンの背を手で撫でている。

「ジローの扱い上手いじゃねえか」
「え?何か言った?」
「いや・・・」

リョーマが宥めなければ、二人で話すことは出来ないままだっただろう。

首を傾げてるリョーマを余所に、
真面目に部活やらないジローの管理をやってもらうか、と跡部は真剣に考えてしまった。


チフネ