チフネの日記
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2004年09月15日(水) 盲目の王子様 46 跡部景吾

不二の試合と同じように、スコアは一方的なもので終った。

手塚の完勝。
青学側の応援席は、勝利したことと手塚の実力に歓声を上げている。

その声に、手塚はただ片手を軽く上げただけ。

(相変らずスカしたヤロウだ)


結果は予想ついていたから、それはどうでもいい。
跡部にとって、肝心なのは手塚が試合に出れるかどうか。

(あれなら、退屈する試合にはならないだろう)

手塚負傷説はウソかと騒ぐ周囲に気に止めず、くるっと後ろへと振り返る。
これ以上、ここに居ても意味がない。

だが戻ろうと歩き出した跡部の前に、すっと誰かが立ちはだかる。

一瞬、辺りが暗くなったようで、目を見開くと、
「やあ、見に来てくれてたんだ」
「・・・・・・・・・」

天才・不二周助。
いつも絶やさない笑顔を浮かべて、跡部を凝視している。

「光栄だな。わざわざ部長の君が、僕らの試合を見に来てるなんて」
「暇だっただけだ。勘違いするな」
ふぅん?と不二はわざとらしく首を傾げる。

正直、跡部は不二を苦手に思っている。
何を考えているのかわからない表情と、思わせぶりな言葉の数々。
不二は人に絡んでくる時は、何か面白そうだと判断した時だろう。
挑発には乗るものかと、跡部はぎゅっと口を閉じた。

会話は終了。
そんな態度で不二の横を抜けようとしたが、「ねえ」と呼びかけられる。
「今の試合、参考になったかな?」
フフ、と意味深に不二は笑う。

「さあな。お前には関係ないだろ」
手塚がまだ力を出し切っていないことを知ってるくせに、嫌味な奴だ。

「手塚が試合出来る状態か探りに来たんだよね?大丈夫。見ての通りやれるから」
突き放しても、不二は澄ました顔で話を続ける。

「君と手塚が当るのが、楽しみだな。もちろん、どちらかが決勝まで残ればっていう話だけど」
「決勝に行けるかどうか、心配するのはお前達の方じゃねえのか?」
「それは、どうだろうね」

笑い続ける不二に、付き合い切れないと背を向ける。
背中に不二の視線を感じるが、もう一言も話をしたくない。
早歩きで、その場から離れ始める。


(あんなのが部員にいると疲れそうだ・・・)
四六時中、腹を探り合うような会話にはさすがについていけない。
手塚は鈍感そうだから、不二の腹黒さも気にならないだろうが。

そっと、跡部は溜息を付いた。




「よぉ。ご苦労さん」
「・・・・・・・・」
「なんや?浮かない顔して。そんなすごい試合でも見てきたのか?」
集合場所へ帰ると、氷帝の天才・忍足が軽く手を振っていた。
なんとなく天才繋がりで嫌な感じを受け、顔を顰める。

「なんでもねえ。それよりウチの試合は終ったか?」
「ああ、ついさっきな。結果は5−0やで」
「当然だな」

一回戦で負けるような選手は、氷帝にはいらない。

偉そうに腕を組む跡部に、忍足は苦笑する。

「当然って・・・勝負なんやから絶対なんて無いやろ」
「フン。絶対勝たないと、氷帝では次は無い。忘れたのか?」
「まあな」
「こんなところで躓いてたら、話にならない」

一度でも負けた選手は、レギュラー落ち。
氷帝で求められるのは勝利のみ。

「絶対に・・・勝つ」
「それは青学にって意味か?」
「どこに対してもだ。必ず俺達は優勝する・・・全国大会でな」

一瞬、目を見開いた忍足が、何かにやにやした顔を向けてくる。
「なんだ」
「いや、えらい気合い入ってんなあと思って」
「いつもだろう。油断したら足元を掬われる」
「そうやなくってな。跡部の気合いが、別のところから来てるかなーっと思ったり」
「別?」

瞬間、リョーマのことを思い出し、ぱっと忍足から目を逸らす。
関係無い。
全国大会優勝は、前から考えていたことだ。
必ず勝つとは約束したけど、それは越前の為という訳ではない。断じて違う。
・・・はずなのに、何故こんな動揺しているんだ!?

考えれば考える程、跡部は揺れる心を抑えられなくなって行く。

「あー、やっぱりかあ。リョーマとなんか約束でもしたんか?」
「忍足・・・てめえ」

どこかで聞いていたのか?と疑いたくなる。
そんな目を向けたのに気付いたのか、両手を振って忍足は否定をした。

「言うとくけど、リョーマからは何も聞いてへんで」
「わかってる」

そんなことをぺらぺら喋る相手じゃないことくらい、忍足に言われなくても理解してる。

「単なる当てずっぽうや。・・・ここ最近、お前にとって影響ある奴は一人しかおらへんやろ」
「別に、そんなんじゃねえよ」

普通に答えようとしたが、自分でも硬い声だと思った。

忍足の指摘通りだ。
越前リョーマは自分にとって、今まで会った中の人間でも別格の存在になりつつある。

リョーマには、笑って欲しい。悲しい顔をさせたくない。
本人を前にすると、そんなことを考えてしまう。

こんなのは、変だ。
誰に対しても、思ったことは無い。



跡部の素っ気無い返答にも、忍足は肩を竦める。

「まあ、ええわ。約束守る為にも勝たんとな」

ジローだったら、今のは何があったと騒ぐところだろう。
だけど忍足は、追及してくるわけでもなく、ただ笑ってる。
前に越前の家に訪問した時もそうだった。

「お前は、気にならないのか?」
「何を?」
「俺と越前がどんなことを話してる、とか」

そんなことか、と忍足は軽く笑い飛ばす。
「気にならんよ。リョーマが嫌がってるなら、止めるけど。
そうやないやろ?」
「・・・・・・」
「なんや。それともお前はリョーマが他の奴と話してたら、気になるって言いたいんか?」
「そんな訳あるか」

けれど横を向いて、向けてくる視線を流す。

忍足のやってることは正しい。
リョーマの好きなようにさせて、見守っている。

けれど、全部わかっているような態度に無性に苛つく。
その点は、真似できないことだからなのか。

リョーマが忍足やジローと話していたら、気になるし、引き剥がしてしまいたいと普通に思う。

けれど、忍足は絶対そんなことをしないだろう。

負けたような気分になるのはこんな時。


「ふん。お前の方がよっぽど保護者みたいだな」
嫌味な口調で言っても、忍足は別に気にするようでもない。
「それジローの前で言うなよ。あれでも真剣に保護者やってるんやから」
「知るか。大体、ジローが越前の保護者ってありえねえだろ」
「そうか?ジローがあんまりリョーマの世話を焼くから保護者みたいやって、俺が言うたんやけど。
おかしいか?」

余計なことを言い出したのは、お前か。

呆れた目を向けるが、「どうかしたか?」と忍足はのほほんとしている。

「・・・どうでもいい。おい、さっさと次の試合も終らせやがれ!」
「まだ始まってないやろ」

まだ全試合も終えていないのに、酷く疲れた気がする。
がっくりと、跡部は項垂れた。

試合を終えて、それから盲目の少年の所へ。
さっさと彼の所に行ってしまいたい。


チフネ