チフネの日記
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2004年09月13日(月) 盲目の王子様 44 跡部景吾

集まったメンバーの中にいないことは見てすぐにわかる。
けれど、跡部は一応尋ねてみた。

「ジローは」
「試合ないから、来ないってさ」

知ってるだろう?と呆れた口調で向日が答える。

「・・・・・そうか」
「俺だって来たくなかったのにさー。なんで他の奴の試合を見なくちゃいけないんだよ」
「応援をしようとは思わないんだな」

シングルス3に出ることになってる宍戸がそう言うと、「応援なら腐るほどいるだろ!」と向日は返す。

「あーあ。これなら学校で練習してた方がマシ」
「まあまあ、岳人。他の学校の偵察も必要やろ」

忍足が取り成すように声を掛けた。
しかしまるで通じていない。

「見て、どうするんだよ」
と、退屈そうに欠伸をしている。

「対策とか、あるやろ」
「そんなの必要か?」
「お前試合に出ないなら、それくらい考えろよ」
「うるさいなー。もう応援してやらねえぞ」
「最初からする気無かっただろ・・・」

チームメイト達の頭が痛くなる会話に、跡部はそっと距離を置いた。

都大会当日だというのに、こんな空気で良いのか。

溜息を一つ、つく。

ジローが来ないのは、大体予想してた。
ほぼ9割が寝坊で、残りは跡部への当て付けか困らせるためのささやかな抗議だろう。

あの昼休み以来、跡部はすっかりジローに警戒すべき人物だと認識されてしまった。
「絶対、二人きりにさせないから」
どこからともなく現れ、リョーマに近付こうとしたら割り込んで来る。
虫除けしている行動そのモノだ。

保護者の域超えてるだろと、跡部が文句を言っても知らん振り。
がっちりリョーマをガードして、離さない。

おかげでその日以来、跡部はリョーマとまともに会話を交わしていなかった。

(二人きりじゃないと、まずいだろうなやっぱり)

あの時の自分の行動を、どう思ったのか。
何も無かったかのようなリョーマの態度に、ふと聞いてみたくなる。

(でもあいつは帰国子女、だからな)
挨拶みたいなもので特別な意味に取らなかった可能性が高い。

たかが額へのキスだ。


しかし「たかが額へのキス」を気にしている自分がいる。
ままごとみたいな数秒触れるくらいのものなのに。

もっと濃厚なキスを数え切れないくらい色んな相手とした。
キスに意味なんか無い。
互いの一部が触れ合ってるだけだろう?

だけど。
『「待ってろ。どんな試合だったか、全部お前に話ししてやるから。
どこにボール打って、相手の動きや俺の試合運び。
目に浮かぶ位細かく聞かせてやる』
『うん・・・』
『約束だ』

あの場面が忘れられない。
無防備に頷いたリョーマの顔。
思わず額に唇を触れさせた。


(小学生かよ、俺は・・・!?)
思い出しては、頭を掻き毟りたくなるような羞恥心に襲われる。
誰かに見られでもしたら、きっとあの跡部景吾が何をやっているんだと笑われるに違いない。
幸いあの場にはジローしかおらず、その本人は熟睡していた。
知られる心配は無いはずだ。
多分。
絶対に自分がこんなにも取り乱しているなんて(額にキスしたくらいでだ!)、リョーマ本人にも知られたくない。
リョーマが平然としているなら、尚更。


(しかし越前の奴・・・本当になんとも思ってねえのか?)
それはそれで癪に触る。

手塚との話をしてやった時、テニスが出来ない自分が悔しかったのだろう。
もし目が見えたのなら、きっと今いるレギュラーの中でも飛びぬけた活躍をしたに違いない。
あのビデオでの動きを観た瞬間に、確信した。
強い奴と戦って、更に上へ行く。
越前の強さは、あんなものじゃないと。
もっともっと試合を経験して、強くなって行けるはずだ。

今葉コートに入れないもどかしさからか、わずかに表情に影が見えた。
打ち消す様に勝気に笑う表情にも、いつのも覇気が無い。

だから、思わず言ってしまった。
計算も謀も無く、本音の言葉を言ったんだ。

「勝ったら、一番に報告してやる」

勝って勝ち続けて、目が治ったら一番に試合をしたくなるような実力を持っていると教えるのだ。
リョーマがテニスをする情熱を忘れさせないように。

(そんな簡単に忘れるとは思えないけど、な)

いつかビデオで見た生き生きとコートで駆け回るリョーマを思い出す。

(アイツは望みがある限り、テニスを捨てないはずだ・・・絶対に)




「跡部・・さん・・・」
「樺地か!?」

急に現れた巨体に、跡部は意識を引き戻した。
「集合、です」
「そうか」

ぱっと顔を上げると、チームメイト達が様子を伺ってる。

ぼーっとしていたのを見られていたらしい。
慌てて視線を逸らす。

「行くぞ」
「はい・・・」
樺地を従え、集合場所へと早足で歩く。

(相手のことを考えるのなんて、全く柄じゃねえんだよ)

気持ちを切り換える為に、頬を軽く手で叩いた。

今、ここからは大会を勝ち抜くことだけ考えなければ。
そして勝って、またリョーマの所へ行こう。

盲目の少年が、待っている。
どんなテニスをしたか。
話をする自分に、黙って耳を傾けてくれるだろう。


チフネ