チフネの日記
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2004年09月12日(日) 盲目の王子様 43 越前リョーマ


騒ぎながらも、なんとかお昼ご飯を全部食べ終える。

そして、リョーマは気付いた。
さっきまで喋りかけていたジローが、急に黙り込んだことを。

「ジロー?」
聞えてくる呼吸に、問い掛けてみる。
が返事は無い。


「ジローの奴寝てるぜ。1秒で眠りやがった。
いつもながら一体、どうなってるんだ?」
呆れたような跡部の声に、リョーマはくすっと笑った。

「ジロー、らしい」
「まあな」
飲むか?とリョーマの手に湯呑みが触れた。
「うん。サンキュ」
「ほら」
両手で湯呑みをしっかり持った所で、
触れてた跡部の手が引っ込む。


「やれやれ。こいつのおかげで静かな食事が台無しだったな」
跡部は疲れたと言わんばかりの口調だ。
自分の分のお茶をすすっている。

さっきまでは騒々しさだけがあったけれど、
急に静かになると、調子が狂ってしまう。
跡部の言葉に、リョーマは慌てて返事をした。

「でも賑やかで楽しいよ?」
「お前、そういうことジローに言うなよ?また調子付くからな」
「また?」
「ああ。お前は未だ知らないだろうが・・・付き合いが長くなると色々わかってくるはずだ」
へえ、とリョーマは目を瞬かせた。
どうやら部長として、色々苦労しているらしい。
「じゃ、黙っておく」
「それが賢明だな」
どこか跡部の口調は、ほっとしている様に聞えた。


「そう言えば、なんで今日のお昼ご飯に俺を呼んだの?」

前々回は揉め事の件で話しがあったのと、
その前は家への招待を言い辛そうにしていた自分の為時間を作ってくれたからだった。
何かあったっけ?
そう考えるリョーマに、「特に理由は無え」と跡部は返した。

「は?理由無しに、人の教室に押し掛けてくるんだ?」
「特に理由は無えよ。
ただまた何か問題が起きてないか、生徒会長として見回っていたついでだ・・・って何を笑ってる?」
「別に」
やたらと生徒会長だからと主張する跡部が可笑しかっただけだ。

それだけじゃないのは、何となく気付いている。
『別に頼まれたからじゃねーよ。したくて世話焼いてるんだ』
あんなこと言った後で、生徒会長としてなんて言っても説得力ゼロだ。


あんまり笑っているのも悪いと思い、リョーマは「あのさ」と話を変えた。

「そういえばさ、大会のことだけど。
青学って結構強いんだって?カチロー達・・・俺のクラスの奴もそう言ってた」
「ああ、まあな・・・」

苦々しい言い方に、リョーマは「おや」と思った。
跡部のことだ、てっきり「氷帝の方が強い」と言いきるかと予想していたのに。
どんな表情しているか見えないけど、決して見下してるようじゃなさそうだ。

「監督が、昨日別会場で行われてた青学の試合のビデオを持って来たんだよ。
もう見たらしいが、今年はかなりレベルが高いらしい」
「へえ」

榊が言うのなら、間違いないだろう。
その相手と当たる都大会はかなり荒れそうだ。

「勝つ自信、無いの?」
「バーカ。あるに決まってるだろ、と言いたいところだが」
一旦区切って、跡部は湯呑みをドンと机に置いた。
「組み合わせ次第ではわからないかもな。運良く手塚と俺が当たればいいが・・・。
他の奴じゃまずあいつには勝てねえだろうし」
「その手塚さんって人、相当強いの?」

自分以外、眼中に無さそうな跡部が認めてるってことは、本当に強いのだろう。
興味が引かれ、リョーマは思わず尋ねてみた。

「まあ、ライバルとして申し分無い相手だな」
「その人との戦績はどうなってんの?」
「手塚とは、1度も当たったこと無い」
「え?」
当たった事もないのに、ライバルなのか。
首を傾げるリョーマに、跡部は会話を続ける。
「だから今年の夏が中学生活で最後のチャンスなんだ。
青学と決勝で当って、手塚に勝つ。必ず成し遂げてみせる」
「ふぅん」

もし試合が実現するなら、跡部はきっと全力を尽くすだろう。
それにその手塚という人も、榊が認めた実力の跡部に対してやはり全力で立ち向かってくるのだろう。

それだけの試合を見られないのも、コートに立てないことと同じくらい悔しい。

「見たかったな・・・」

ぽつっと思わずリョーマは呟いた。
「どうした?」
跡部は小さな声も聞き逃さなかったようで、顔を近付けてくる。

今の気持ちを見透かされたくなくて、リョーマは無理矢理笑ってみせた。

「あんたがそこまで認めてる相手の試合なら、面白そうだなってちょっと思ったからね。
見れないのが、残念だなあって。
ま、応援には行けないけど。がんばんなよ」
せめてもの軽口が、精一杯の虚勢だった。

試合には出れなくても、どんな試合してるのか見たかった。
跡部が認めてる程の手塚と、跡部との試合。
これ以上は無いくらい、興味を持った。
けれど、今の状態では見ることは出来ない。

(考えてもしょうがないのに・・・)


横を向いて、リョーマは口を噤んだ。

「越前」
「何」
跡部の手が、肩に乗せられる。
それでも、まだリョーマは跡部の方を向くことが出来ない。

無理にこっち向かせようともせず、
跡部は静かに語りかけた。

「勝ったら一番に、報告しに行く」
「え?」
額に跡部のもう一方の手が触れた。
声は真剣そのもので、「何言ってんの」と茶化すことすら出来ない。

「待ってろ。どんな試合だったか、全部お前に話ししてやるから。
どこにボール打って、相手の動きや俺の試合運び。
目に浮かぶ位細かく聞かせてやる」

だからそんな顔するな、とその手が跡部の心を伝えているようだ。

「うん・・・」
素直に頷くと、
「約束だ」
手が外されて、代わりに一瞬何か触れた。

「俺は負けないからな」

何が触れたのか理解するのに、数秒必要とする。


まさか、額にキスされるなんて思わなかったから。

「えっと、」

きょとんとしてるリョーマから、跡部は素早く体を離した。

「そろそろジロー起こすか。
もう教室戻らないと、まずい時間だ」
「・・・そうだね」

今の、気のせいじゃなかったけど。

追求しない方が良いと判断し、リョーマは黙っていた。







「リョーマ!俺が寝てた間に、跡部に何かされてない?大丈夫だった?
あー、もううっかり寝るなんて迂闊だったー!」
目を開けてから、早速ジローは声を上げて騒ぎ出す。
さっきの場面を見られたらどうなっていたのか。
リョーマは、ちょっと顔を引き攣らせた。
「だ、大丈夫だよ。何もなかったし」
「本当に?」
「うん」
絶対に・・・言わない方がいいだろう。

教室まで送っていく最中、黙って隣を歩いてる跡部と追求を続けるジロー。
その間で、リョーマは溜息をつく。


送ってくれなくていいから、早く一人になりたい。

色々と、疲れた気がする昼休みだった。


チフネ