チフネの日記
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2004年09月11日(土) 盲目の王子様 42 越前リョーマ

「リョーマっ!お昼食べよっ!」
「ジロー・・・」

お昼休みになったと同時に突然乱入してきた珍客に、教室は一瞬静かになってまた元通りになった。
もう二度目となると「またか」くらいにしか思わないのかもしれない。

「リョーマ、連れてってもいい?」

くるっとした目を突然向けられ、カチローとカツオは一瞬固まった後、何度も頷いた。
「じゃっ、行こっ!」

手を引っ張るジローに、リョーマは抵抗しても無駄だと諦め、お弁当の包みを手に持った。

「ごめん、今日はこっち行ってくる」
「いいよ、いってらっしゃい」
小声でカチロー達に謝って、早くと急かすジローに連れられて歩いていく。
「今日はどこで食べよっかー」
「どこでもいいよ、もう」
諦めが肝心と、大人しくする。

しかし、
「てめえ、廊下走ってるんじゃねえよ」
不意に聞こえた不機嫌な声の後、握っていたジローの手が引き剥がされた。

「跡部さん・・・・」
間違えようのない、偉そうな声。

「よお」

なんでここにいるの?
そうリョーマが口を開く前に、襟首を捕まれてたジローがじたばたもがいで騒ぎ始めた。

「跡部っ、放せよ!」
「校則違反の生徒にはお仕置きしとかねえとな」
「だってさっさとリョーマを連れていかないと、跡部に見付かっちゃうと思ったから」
「どういう理屈だ。それで廊下ダッシュしたのか」
「うん。跡部、リョーマのところ行くつもりだったでしょ」
「うん、じゃねえだろ」
そう言いながら、跡部はリョーマの手を握る。

「行くぞ」
「え?」
「昼飯を食べるつもりだったんだろう?」

たしかにそうだったので、頷くと「なら、こっちだ」と手を引かれる。

「あー!跡部、何勝手に誘拐してんの!?」
「文句あるなら付いてくるな」
「そうはいかないんだけど!まずリョーマを放せよ」
「聞こえないなぁ」
「性格悪っ!」

楽しげに話す跡部を、ジローは苦々しく舌打ちしてもう一方のリョーマの手を握る。

(傍から見たらどう思われてるんだろ、これ)

あまり考えたく無いと、リョーマは眉を寄せ引かれるまま歩いた。



着いた場所は、やっぱり前と同じ生徒会の執務室だ。

「職権乱用って言うんじゃないの?」と言うジローに、
「この方が静かでいいんだ」と跡部は言い切った。

もうどうでもいいよと、諦めムードでリョーマは促された椅子に座る。

その両隣に二人が座った。

「うわ・・・跡部のそれ、弁当?」
「ああ。特製のな」
何やら驚いているジローに、一体なんだろうと思いリョーマは首を傾げた。

「重箱だよ、重箱ー。一人で食べる気?」
「バーカ。勝手に決めるな」

カパっと蓋が開いた音がして、「越前、こっち向け」と指示される。

「何?」
「口、開けろ」
「へ?」

戸惑いつつも、言われた通り口を開けると箸で何か入れられた。

「今日は和食だ。美味いか?」
「うん」

上品な味の煮物の味が口いっぱいに広がる。

「他にも沢山あるからな」
ほら、とまた促され、リョーマは素直に口を開けた。

「美味しい」
「だろ?」

ご機嫌な様子の跡部に、食べてもらえて喜んでもらえるならいいか、としたいようにさせる。

「なんで?なんで跡部がリョーマに食べさせているんだよー!?」

この場の空気に馴染めなかったのは、ジロー一人。

「ずるい!俺もリョーマにお弁当食べさせるー!」

足をばたばたと動かすジローに、跡部はちらっと冷たい視線を送る。

「お前はこの間、散々越前に食わせていただろう。引っ込んでいろ」
「そんなの関係無いもん!」
「うるせえ。これは順番だ」

順番・・・・?
前もその前も跡部の手から食べさせられていたのは、順番に入らないのか。

どうでもいいことを考えながらも、リョーマは口に入れられる料理を平らげていく。

「お前の弁当、そんなに小さくていつも足りるのかよ?」
「足りなかった時は、お菓子食べてるし」
「成長期にそんなものばっかり食うな。これ、もっと食え」
「うん」

和やかな会話を前にして、当然、ジローは黙って見てるはずがない。

「跡部、そんな風にリョーマを餌付けしようとしてんの?」
「人聞きの悪い。大体、お前には関係無いだろ」
「あるよ!リョーマのことに関しては、保護者の俺を通して貰わないと」
「保護者・・?ジローが?」

一体、いつからそんな話しになったのか。
リョーマ自信も首を傾げる。

「バカか。大体、保護者って柄か?保護されるとしたら、てめえの方だろ」
バカにしたように笑う跡部に、ジローはむっとなって反論した。

「そうでなくても、跡部になんか任せておけないもん」
「お前が決めることじゃないだろ?」
「俺でなくたって、皆そう思うよ。鬼畜跡部に可愛いリョーマを預けられないって」

ねーっと、同意を求められ、リョーマは困ったように眉を寄せた。

「誰が鬼畜だって?」
ぴくっと頬を引き攣らせ、跡部はジローを睨んだ。
「本当のことじゃん。それじゃ言ってやろうかー?まず跡部が一年生の時からした事」
「コラー!黙ってろ!ジロー、てめえ」
「ばらして欲しい?」

フフンと笑うジローに、跡部は拳を握り締める。
状況が見えてないリョーマにも、言われたくない話を色々知られているんだなとわかった。

「黙ってて欲しいでしょ?ね、跡部?」
「・・・・・・それで弱みを握ったつもりか」
「だってー、でないとリョーマが心配だもん」
きゅっと抱き付かれてしまう。
訳もわからずリョーマはジローのしたいようにさせておいた。

「悪ーい狼さんは、絶対近付かせないからね!」
保護者口調のジローに、跡部は睨みつけてた視線を和らげ、ハアと息を吐いた。

「お前、妹に対してもそんなようなこと言っていたな。
あっちはいいのか?それとも妹に鬱陶しいって言われ、追っ払われたのか?」
「・・・・・・・・・」

途端に、リョーマを抱きしめていたジローの腕の力が弱まる。

「ジロー?」
急にどうしたんだろう。
様子がおかしいとリョーマにもわかり、思わず名前を呼ぶ。

すると、
「いいんだよ、お兄ちゃんなんてウザイなんて言うんだもん」
今まで強きだった態度を一変して、ジローは小さな声でぼやき始めた。

「小さい頃は俺の後ろをついていたのに、今は好きな子が出来たからってそっちに夢中になってるんだよ?
どんな奴か追求したら、すごく怒ってしばらく口聞いてくれないし。訳、わかんないっ!」
「それはお前・・・過保護過ぎて嫌われたんじゃねえか?」

冷静な跡部のツッコミに、ジローは目を潤ませた。

「・・・・やっぱり俺、嫌われたのかなあ?ただ心配だけだったのに」
「知るかよ」

泣きそうなジローに、跡部は腰を引き目を逸らした。
一方的に苛めたみたいで、どうもこういう表情には弱い。

気まずい雰囲気に気付いて、リョーマはジローがいるらしき辺りに見を寄せた。
 
「ジロー」
「リョーマ?」
頭の位置がどこにあるかわからなかったので、
顔をぺたぺた触りながらリョーマはにこっと笑い掛ける。

「大丈夫。妹さんは、きっとそっとして欲しかったんじゃないかな?
誰かを好きなことを、例えお兄ちゃんでも恥ずかしくて言い辛かったんだよ。
だから今は見守ってあげよう?
そうしたらいつかジローの気持ちも伝わると思う。こんなに妹思いのお兄ちゃんなんだし」
一生懸命慰めの言葉を口にする。
柄じゃ無いけど、ジローは大事な友達だ。
ちょっとでも励ましてやりたいと、リョーマは考えていた。

「ありがとー、リョーマ・・・」
ぐすっと鼻を啜る音が聞え、リョーマはポケットからハンカチを取り出す。
「これで拭いて」
「うん」
リョーマのハンカチで目尻を拭いて、ジローの顔にようやく笑みが戻る。
顔は見えないが、少しは気持ちは上向きになったようだ。
良かった、とリョーマも小さく笑う。

「やれやれ。どっちが年上かわからないな」
二人のやり取りを見て、跡部は呟いた。
どうも二人だけで会話している、しかもリョーマがジローに気を使ってることが気に入らないようだ。

「俺のほうが年上だって、知ってるくせに」
「・・・・そういう意味じゃねえよ」
やれやれと、跡部は肩を竦める。

「リョーマは俺のことウザイなんて言わないよね?」
「う、うん」
「ハッキリ言ってやった方がいいぜ」
「跡部には聞いてないよ!よーし、やっぱりリョーマは俺が守ってあげるね。そこの鬼畜から!」
「はあ・・・」
「どういう理屈だ・・・」

力無く、跡部はそれでも反論をする。
「大体、俺様は本物の『保護者』から越前のことを頼まれているんだぜ?もう忘れたのか?」

『できればこれからもリョーマの事、よろしくな』
越前家でリョーマの父親が言った台詞。
確かに跡部はリョーマのことを、直々に頼まれた身だ。

それを持ち出して得意げな跡部に、ジローは「うう・・」と黙り込む。

しかしリョーマはそれを聞き流す訳にいかない。

「・・・跡部さん」
「なんだ?」
「親父の言ったことなら、気にすること無いから」

別に縛られる必要はない。
義務で面倒をみられるくらいなら、突き放された方がましだ。

そう考えるリョーマの頭に、跡部は右手を軽く置いた。

「別に頼まれたからじゃねーよ。したくて世話焼いてるんだ」

意外な言葉に、見えない目を凝らすように見開く。
「なんで?」
「・・・・生徒会長として、トラブルばっかり起こしてる奴から目を離す訳にいかないからな」
素っ気無い言い方は、本心でないとわかる。

だけど、考えるほどわからない。

(どうして、そんなに俺のことを見ててくれるの?)

「暇な生徒会長ー」
「うるせえ。とにかくお前の出番は無いってわかったろ」
「ふーん、いいもん。リョーマのお父さんに俺もお願いされるようになるから」
「なんだと」
「…二人共、そろそろ残りのお昼ご飯片付けようよ」

リョーマがそう言えば、大人しく食事が再開される。

面白いコンビだと、リョーマはこっそり笑った。


チフネ