チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2004年09月10日(金) 盲目の王子様 41 忍足侑士

忍足とジローの家のちょうど中間点辺りに差し掛かった辺りで、
「お前ら、ここから歩いて帰れ」
跡部は車を止めさせた。

それぞれ10分も掛からない距離だ。
問題無いと判断して、無理矢理二人を車から降ろしてしまう。
これ以上、跡部は頭の痛くなる会話に付き合っていられないと判断したせいだ。

本当に走り去ってしまう車に、ジローは叫んだ。
「跡部ってやっぱり横暴ー!リョーマには近付かせない、絶対!」
「お前がそない言うてもなあ。リョーマがどう思うか、わからんやろ」

それにもう聞えへんでと、忍足は苦笑する。

そんな忍足を、ジローはじいっと見上げた。

「何や」
「忍足って、こんな奴だったっけ?」
「こんな奴とはなんや」
「もっとさー、前だったら面白がって跡部のこと詮索してたはず。
今日の忍足は違ったね。リョーマのことばっかり、考えてた」
「そう見えるか?」

忍足の返事に、ジローはにこっと笑う。

「見えるよ。すごいリョーマに気遣ってる。いつもの何万倍も優しい忍足だよ」
「俺はいつも優しいやろ」
「ううん、ちっとも」
さらっと否定する。
聞き様によっては、結構ヒドイ言葉だ。

「優しいように見せかけてるけど、忍足は意地悪だよ。計算高いし」
「・・・・・目の前で悪口言うな」
「でも今日の忍足は違ったねー。やっぱりあれ、リョーマの為?でしょ?」
ぴっと人差し指を顔の前に出され、忍足は反射的に頷いてしまう。

「あいつのしたいようにさせたいんや。跡部と話させるのは、正直むかつくけどな。
引き離すのは簡単やけど、リョーマは納得せんやろ」
「だからかー。忍足って思ってたよりも良い奴じゃんっ」
「・・・おおきに」
「何?俺が褒めてんのに、暗い顔しちゃってー」

ぱしっと、ジローが忍足の肩を叩く。

「俺は良い奴なんかじゃ、あらへんよ・・・」
「忍足?」

俯いて、忍足は話始める。

誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。

「なあ。ジロー、知っとったか。リョーマが氷帝に入れた訳」
「え?試験に通ったからじゃないの?」
そうでしょ、とジローは首を傾げる。
「アホ言うな。試験に通っても、無理やろ。氷帝は盲目の生徒を受け入れる体制やない」
「んー?どういうこと?」
「リョーマの入学に、榊監督が絡んでいる話、聞いたことないか?」
「ええ!?」

なんで監督がと、ジローは声を上げる。
本当に初めて知ったらしい反応だ。

「俺はそれを聞いた後、リョーマが跡部と一緒におる所見てな。
何かあるんじゃないかって思っとった。
監督から跡部がリョーマの面倒見るよう、監視しておるんかとかな」
「・・・・・・」
「何か面白いことになりそうや、最初はそんな理由でリョーマに近付いた」
アホやろ?と忍足は頭を掻く。

「でもお前も知ってるけど、リョーマはええ子や。段々自分の考えがバカらしくなってきた。
今はそんなん関係無しに、リョーマの手助けになりたい思ってるんや」

全部話し終えて、忍足は「今更遅いか」と苦笑した。
こんなことリョーマが聞いたら、きっと許してももらえない。

『侑士は良い奴だよ』
今ある信頼とか、全部失われそうで怖い。

「ふーん、よくわかんないけど。結局、忍足はリョーマのことが大事なんだよね?」
「そうや」
「なら、もうぐちゃぐちゃ考えるのやめようよ。切っ掛けがなんでも悩むこと無いよ。
大事なのは、今ある気持ち。きっとリョーマだってそう言うよ」

ジローの話は、単純なことで。
一番大事なのは何か、教えてくれた。

「そう、やな」
頷いて、忍足も微笑む。

リョーマだってそう言う。
ジローの言う通りだ。
きっとつまんないことで負い目に感じる事はないと、あの少年なら言うだろう。

「あ、でもー。リョーマのこと好きとか言うのはまた別の話だからね!
ちゃんと俺を通してもらわないと、認めないから!」
「お前、ほんまに保護者になったつもりか・・?」

通すって、なんだ。

じゃ、と手を振るジローに、忍足の呟きは聞えない。

遠くなっていく背中を見て、まあいいかと忍足もくるっと背を向け家へと歩き始める。
迷ったって仕方ない。
なら、やるべき事をやれば良い。





今朝も、校門付近で盲目の少年を待つ。

「おはよ、侑士」
「おはようさん、リョーマ」

昨日のこと等、他愛無い会話をしながら校舎へと連れ添って歩く。

「なあ、リョーマ」
「何?」
「今度は俺の家へも遊びに来てな。
リョーマの為に精一杯おもてなししたるで」
「え?いいの?」
「大歓迎や。けど、跡部には内緒な」
「なんで?」
「なんでもや!ええな?ジローもやで!」
「?いいけど・・・」

わけわかんない、と眉を顰めるリョーマの手を掴む。

「ちょっ、侑士っ、俺一人で歩けるから」
「あー、そういうんやなくて俺がこうしたいんや。ダメか?」
「だって皆見てるでしょ・・・」
「ええやん。んんー、リョーマが気にするって言うなら・・・
皆さーん、寂しがり屋の俺はリョーマの手を掴んで放せませんー」
「何言い出すの、急に!?」
「これで俺から手を繋いだって、わかるやろ」

なあ、と言う忍足に、リョーマは大きく溜息をついた。

「滅茶苦茶」
「これで堂々とリョーマを手を繋げるな」
「勝手にすれば」

口調は素っ気無いものだけど、リョーマは無理に解こうとしない。
その心遣いが嬉しかった。

が、忍足の機嫌が良かったのもそこまで。

「おい、てめえ。何勝手なこと叫んでいやがる」
「あらー、跡部様。怖い顔してどないしたん?」
「いいから、越前から手を放せっ!」
「いやや!お前こそ後から来て、勝手なこと言うな、アホ!」

鬼のような顔してやって来た跡部は、リョーマと忍足を引き離そうと躍起になってる。

「わかりやすいわ・・・ホンマ」
「ぐだぐだ言ってねえで、越前から離れろ!」
「跡部さん、声大きいんだけど」
「・・・・・・・悪ぃ」

リョーマの前でしおらしくなる跡部を見て、笑ってしまう。

直後に、左足を思い切り踏まれた。


チフネ