チフネの日記
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2004年09月02日(木) 盲目の王子様 33 忍足侑士

一体、どういうことや?

リョーマの教室へ行こうと思っていた忍足は、
意外な組み合わせを見掛けてしまった。

跡部と、リョーマ。

(何してんねん・・・)


今日の跡部の行動は、お昼休みには忍足の耳へ届いていた。


サッカー部の部長を呼び出して、何をしたのか。

『部内で問題があった、それを咎められただけだ』

青い顔して、跡部から開放された彼は多くは語らない。
関わりたくないといったところか。

さすが生徒会長。小さな揉め事でもご自分で解決されるのね。

女子生徒は高い声で跡部を褒めていたが、
忍足はもっと別の理由があるのではないかと考えていた。

生徒会長だからといっても、跡部が他の部の問題に首突っ込むはずがない。
誰かに指示をする程度だ。
例えテニス部でも、自ら他人のことに口を挟むような真似はしないだろう。

今回、跡部は何故動いたのか?

(ひょっとして、リョーマが関係しているんやないか)

傍目には仲良く歩いてる二人を見て、忍足は考える。


今日の行動が全てリョーマの為だとしたら?

少し前、跡部がサッカー部に乗り込んだと聞いた。
その時、ある一年生を問い詰めたらしい。

その一年が気に入らないことでもしたのかと、思ったが。
もしリョーマに関係していることなら?

それとも一年生と聞いて、すぐにリョーマを連想するのは考え過ぎなのか。

しかし、あの盲目の生徒がクラスメイトと揉めたと言うのも聞いている。
それは、今日の出来事だ。


跡部がサッカー部の部長を呼び出したこと。
その部長が問い詰めた一年生。
リョーマが揉めた相手。

関係無いとは言い切れない気がする。


保健室前で止まった二人に、思い切って声を掛けてみた。

「リョーマ!偶然やなあ。どないしたん、怪我でもしたんか?」
「忍足・・・」
「侑士?」

ぴくっと体が揺れたリョーマの肩にそっと触れる。
跡部が睨みつけるが、気にせずリョーマに話しかける。

「保健室に何か用なんか?昼寝するっちゅうなら、添い寝したるわ」
「てめえはもう喋るな」

さっとリョーマの手を掴み、跡部は忍足から距離を取らせた。

「それから、そこをどけ。扉の前に立っていたら越前が入れないだろうが」
「何や、偉そうに。って、リョーマ。ほんまに昼寝するんか?」
「昼寝じゃないよ。次、体育だからここで授業終わるの待つことになってんの」
ガードしている跡部が見えてないせいか、リョーマは普通に忍足へ説明をする。

「ほなら俺も次の時間はここで」
「さぼるつもりか。担任に報告させてもらうぜ」

過ごそうかと、続く忍足の言葉は、跡部の凶悪な視線によって飲み込まれた。

(こいつ、本気や!)
半分本気で授業をさぼろってリョーマと過ごそうかと思ったが、
そうはいかないらしい。

「はいはい、そこに立っていられると邪魔ですよ」
「おばちゃん・・・!なあ、具合が悪いんや。ベッド貸してくれへんかー?」

昼休みの食事に言っていたのか、保険医のおばちゃんが三人の間に入って来た。

当然、忍足のウソを聞き流し、
「何言ってるの、具合が悪いのなら榊先生に部活に出られないって伝えるわよ」
と言われてしまう。

「越前君は体育の時間だったわね。どうぞ、入って」
「あ、ハイ」
「俺との対応とズイブン差があるやんか」
「当たり前でしょ。あなた達は次の授業があるんだから、さあ帰った、帰った」

タイミング良く、予鈴が鳴り響く。

「しゃあないわ、またな、リョーマ」
「あら?越前君とお知り合いなの?」
「友達になったところや。なあ、リョーマ」
「はあ・・・」

複雑そうな顔をするリョーマに、跡部も「じゃあな」と声を掛ける。

「あ、うん。今日は、どうもっす」

跡部とも友達なの?と視線を送るおばちゃんに、「失礼します」と跡部はさっさと廊下を歩き始める。

「ちょお、跡部。待てって」

慌てて忍足も跡部の後を追い掛ける。

「リョーマと何があったんや。お前、今まで一緒やったんか?」
不可解な跡部の行動。
と、礼を言ってるリョーマ。

やっぱり今日の出来事は、全部リョーマに繋がるんじゃないのか。

そんな目で跡部の横顔を、眺める。

「てめえに何の関係があるんだ?越前の友達だからって、話す必要なんかねえだろ」
忍足の方を向きもせず、跡部は前を見たまま言い捨てた。

一瞬腹を立てたが、忍足は自分を宥めてもう一度訪ねる。

「あのな、リョーマが今日クラスメイトと揉めたって聞いて・・・。もしその件でお前が動いたなら、
俺かてじっとしとれへん。何かしたいんや。わかるやろ?」

聞いているのかいないのか、跡部はじっと険しい顔をしたまま前を見詰める。

(あかんわ、喋る気無いみたいや)

わかっとったけど、と忍足は肩を落とす。

知らない間に跡部が動いて、全部終わってしまったことに今更ながら後悔する。

(ちょっとだけでも、支えになってやりたい思うてたのにな)

それもこれも全部跡部が、先に動くからだと八つ当たりなことを考えてしまう。

「興味本位で越前に近付いている訳じゃねえだろうな」
「は?」

気が付いたら、もう跡部のクラスの前まで来ていた。

扉に手を掛け、跡部は背中を向けたまま呟く。

「そうだとしたら、もう近付くな。わかったな」
「跡部?」

さっと跡部は教室に入って行ってしまう。

「なんやの、一体・・・」

興味本位って、と忍足は呟く。

本鈴が鳴るまで、しばらくそこに立ち尽くしていた。














「わからん」
「侑士。いい加減集中しろよ。そりゃ俺達は関東まで出番は無いけど」
パートナーの声を無視したまま、忍足は跡部を観察していた。

結局、あの後リョーマとは会っていない。

保健室から帰るところを捕まえることも出来ただろうが、
それをしなかったのはお昼休みに聞いた跡部の言葉の所為。

(興味本位か)

あんなことを言われるなんて思わなかった。

跡部は本気でリョーマのことを気遣っているようだった。

榊に頼まれたからだと推測していたのは、どうやら違うらしいと、やっと理解する。



「おい、侑士聞こえているのかよ!?」
上の空の忍足に、向日はいい加減痺れを切らして声を荒げる。
「あ・・?」
「さっきから見てりゃ、跡部の方ばっか視線送って。お前まさか、跡部に気があるんじゃ」
「アホ言え!勝手なこと大声で言うな!」

思わずベンチから立ち上がって、忍足は叫んでしまう。

しん、と一瞬周囲が静まる。
そこで二人は視線を集めたことに気付いた。

「お前ら、何さぼってるんだ?」
偉そうに腕を組んだ跡部が二人のいるベンチへ歩き、低い声を出した。
目が、怖い。

「俺はサボっていねえよ。侑士だけだろ」
「俺だけかい!」
「黙ってろ。連帯責任で10周走って来い」
「勝手に命令するなよ!」
「増やされたいのか?」
「・・・・・・・・・くそくそ侑士め」
小声でぼやいて、さっと向日は走り出してしまう。
もたもたしていると、本当に増やされかねないからだ。

パートナーの背中が怒っているのを見て、忍足は溜息をついた。
これは部活が終った後、何か奢らなければならないだろう。
でないといつまでも機嫌は直らない。
怒った向日はとても怖いのだ。

「お前も早く走って来いよ」
「へーい」
のろのろ歩き出した忍足は、ふと立ち止まる。
振り返ると、偉そうに腕を組んだ跡部と目が合った。
「なあ、跡部」
「あーん?もっと走りたいのかよ」
「そうやない!あんな、・・・・」

言いかけて、口を閉じる。

「なんだよ」
「いや、やっぱやめとく」
「はあ?・・・・お前まさか本当に俺様に気があるんじゃねぇだろうな」
「違うわ!ああ、もう岳人がいらん事、言うから」
頭をかきむしる忍足を、跡部はふっと鼻で笑う。
「バカか。本気にするかよ」
「そうか・・・」

もう走って来ようと、忍足は跡部に背を向けた。


『今までお前が他人の為に、行動起こすなんて無かったやろ。
自分でわかってるのか?』

リョーマに対する跡部の対応は、明らかに今までと違っている。

どう考えてもやはり榊絡みでは無いだろう。


本心からリョーマの為に動いているなら、構わないはずだ。
同じようにリョーマを心配し、僅かながら力を貸す。

忍足と跡部とどちらが手を貸そうが、リョーマの負担が軽くなるのは同じ。
そう、その時近くにいる者がやればいい。

(けど、なんやろうな。この割り切れん気持ちは)



いつでも頼ってと約束したのに。

自分の知らない所で、何かに巻き込まれてそれでも助けを求めないリョーマが目に浮かぶ。

知らなかったからと言い訳にもならない。

ぶるっと首を振って、忍足はスピードを上げて走り出す。

「跡部よりも、先に手を貸してやりたかったんやけどな・・・」

考え事をしている間にパートナーはとっくに走り終わったみたいで、
ベンチに座って水分補給しているのが見えた。


チフネ