チフネの日記
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2004年09月01日(水) 盲目の王子様 32 跡部景吾

生徒会長という肩書きは、面倒も多いが便利な時もある。
例えば、色々な情報はすぐ耳へ入る。
そして思うように行動を起こせること。

権利とはこの為にある。

間違った跡部の主張は、今日も一般生徒を巻き込んで横行していた。




お昼休み。
跡部は一年生の教室の扉を、思い切りよく開けた。

一斉にこちらを向いた連中の動きが止まったが、
気にせずに乗り込んでいく。
目指すはリョーマが座っている席だ。

「ちょっと、付き合え」
おむすびを持ってるリョーマの手をぐいっと引っ張る。
急に来た跡部に驚いたようで、リョーマはぽかんと口を開いた。

「跡部さん!?って、今食べてるところなんだけど」
「それ持って来いよ。越前、借りるけどいいか?」
一緒に食べているらしい後輩達に声を掛ける。
視線は「断るはずねえよな?」と言うように。
二人は上擦った声で「ハイ」と返事する。

「・・・借りるって、人を物みたいに」
リョーマが文句言っている間に、跡部は机の上の弁当を手際良く片付けてやった。

「行くぞ」
「なんだよ、一体」
弁当をとられてしまったことを察し、リョーマは渋々立ち上がる。

「その前に、だ」
リョーマの手を引く前に、跡部は視線を隅へと向けた。
「え?」
「そこのお前」

この教室に入った時に、すぐ気付いた。

リョーマの杖を奪った、あの男子生徒。

ハッキリわかるように指差すと、
ヒッっと小さな悲鳴が上がる。


(小心者が。)

怯えるくらいなら、つまらないことしなければいいのだ。
バカなことをするから、自分に跳ね返ってくる。

不愉快そうに、跡部は言葉を吐き捨てる。
「部の方には復帰出来るよう手配してある。
今日からちゃんと顔を出しておけ。いいな」
「ハ・・・ハイ」
「これでもう不満は解消されただろ?わかったらもう下らないことで、人に迷惑かけるな」
何度も頷く姿がおもちゃのようだと、思う。
もう興味もない。

リョーマの方へ向いて、声を掛ける。
「行くぞ」
「なんだよ、一体」
訝しい声を出すリョーマの右手を掴んで、歩き始める。

振り払われないのを良いことに、生徒会の執務室までそのままで歩いた。




「で。いきなり人のクラスに来て、どういうこと!?
納得がいくように説明が欲しいんだけど」
扉を閉めると同時に、リョーマは刺々しく声を上げた。
それを跡部は無視して、自分の分の食事をゆっくりと広げる。

執務室へは誰も来ないようにと、念の為会議中の札をかけてある。
その間は跡部が私用で使っているサインだと皆知っている為、邪魔されることもない。

「ねえ。聞いてんの?部の復帰とかって何?なんであんたがそんな事知っているんだよ」
「そう、わめくな。食いながら、説明してやる。ほら、座れよ」

腹が減っていると、聞ける話も聞けなくなるだろう。
そう跡部は配慮してリョーマのの弁当も広げてやったが、憮然とたまま立って腕組みをしている。

「先に話しして欲しい」
「ハァ。わかったよ。だから、まず座れ」
用意してたお茶を一口飲み、跡部はリョーマと向かい合わせになる形で座る。

「朝、お前が立ち回った件なら色々噂になっている。
俺でなくても、知ってるやつはいるぜ」
「・・・そんなに、噂になってんの?」
「ああ」

当然言えないが、噂になる原因はリョーマにあった。

盲目で、監督の後ろ盾がある少年。
他のどの生徒よりも、話しは伝わり安い。

それ加え、跡部はリョーマの話に色々気を配っている。
小さな話し、デマでさえいつも耳を傾けている。
だからジローや侑士よりも早く知ることができたのだ。

原因も簡単に割り出せたから、すぐに動くことが出来た。
サッカー部の部長を休み時間に呼び出し、問題の生徒をまた練習に参加させるよう説得した。
元々、跡部に睨まれたらと思い、退部させた状況だ。
また跡部が復帰させろと言ったら、簡単に頷いてくれた。
一応、約束を破ったらどうなるかわかっているか言っておいたけれど。

(さっきの奴と動揺、顔が青ざめていたな・・・)
一瞬思い出し、すぐに消える。

「今回のことは、俺にも責任あるみたいだからな。
黙って見過ごすわけにはいかないだろ」
「そんなことまで知ってるあんたってなんなの」
「これでも生徒会長だ」
「生徒会長がそこまでするかよ!」
大声を出して、リョーマは後ろの背もたれに体重を掛けた。

「ねぇ、どうして?わかんないよ」
「アーン?何がだ」
「そこまでする理由って何。仲直りはしたけど・・・ただの知り合いをそんな風に気に掛けるものなの」
焦点の合わない瞳が、一生懸命跡部を見据えようとさ迷う。

(今、この目で俺を見ることができたなら。
一体お前には、どんな風に映るのか?)

不安な顔をしているリョーマの手を、そっと握ってみる。

「ただの知り合いか?」
「だって、そうじゃなかったら何」

言われて、返答に詰まる。

忍足やジローは友達だと言ってた。

(けど、違う)
前にも思ったけれど、そんな風な関係を望んでいる訳じゃない。

なら本当の望みは、何?

「・・・俺にもわからない」
「はあ?」
「だけどこれだけはわかる。
俺はお前が困っている状況を、ほっとけないらしい」
「それって、同情ってやつ?」

苦笑いするリョーマに、「違う!」と声を上げて否定する。
「ちょっ、そんな大声出さなくても」
「同情だなんて、二度と言うな。そんなもの無いって、どう言えばわかるんだ」

ぎゅっと手を握り締めると、リョーマは「ごめん」と小さな声を出して俯いた。


「俺はどうしても、お前のことを放っておけないらしい。
理由はわからないが・・・。そういうのは迷惑か?」
「そんなこと、言われても」
口篭もるリョーマの手を握ったまま、跡部はじっと次の言葉を待った。

まだ今は本当に自分の気持ちすら見えない。
けど、リョーマを見守って行きたい心に偽りは無くて。
それだけは許して欲しいと、ただ手を握る。

「跡部さんの負担にならないのなら、それでもいーよ」
「本当か」
こくんと、リョーマは頷く。
「理由はわからなくても、跡部さんが悪い人じゃないってことはもうわかってるから。
助けてくれて、ありがとうって・・・今日もそう思ってる」

素直なリョーマの言葉と笑顔に、跡部は決まり悪そうに横を向いた。

(こいつ、無意識でやってるんだよな)

今の顔も見られた訳じゃないのに、決まりが悪い。

話題を変える為に、こほんと咳払いをする。
「じゃあ、この話は終りだな」
「うん」
「食事にするか。越前が食べ損なったら大変だしな。
ただでさえ成長していないのに、栄養を取らないとますます縮んでいくだけだぞ」
「中断させたのは、誰だよ。それに縮んでいくって、どういう意味?」

むっとしつつも、リョーマは残りの弁当を勢いよく片付けていった。
小さい体と反した食いっぷりに、少々感心してしまう。

「よく食うな」
「成長期なんで!」
「まだ食えるか?」
あんまりよく食べているので、足りないかと思い、
一口切り分けた肉をフォークで口まで運んでやる。
「あ、え?」
「ほら、口開けていろ」
反射的に開いた口へと、放りこむ。

「どうだ?」
「・・・・・美味しい」
「こっちも食うか?」

無防備に開けた口が可笑しくて、跡部は何度も何度も食べさせてやった。

「ごちそうさま」
「満足したか?」
「うん」

さすがに食べ過ぎたと、照れたように笑うリョーマの顔に見惚れてしまう。

くるくると変わる表情。
いつまでも見ていたい。

今度、好きな食べ物をリサーチして、それを作ってまた昼を一緒にしよう。
こっそりと、決意した。


チフネ