チフネの日記
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2004年08月29日(日) 盲目の王子様 29 忍足侑士

さぼっていた罰だ。

跡部にグラウンド30周を言い渡され、そのノルマをこなした後もジローは元気だった。

「跡部ー、勝負しようよ。勝負ー」
「勝負だあ?一度も俺様に勝ったことないくせに、よく言えるな。そんなもん却下だ」

妙に機嫌の悪い跡部と対照的なジロー。
何事かと他の部員達の関心を集めていたが、直接尋ねる勇気のあるものはそういない。

「1ゲームだけでもいいじゃん。ケチ」
「うるさい。とっとと練習メニュー消化しやがれ」
「つまんないー。俺が勝ったらリョーマのこと色々教えてもらおうと思ったのに」

とんでもないことを口にして、ジローはくるりと身を翻した。
しまったと跡部が思った時には、遅い。
ずっとこちらを気にしていた忍足の耳に、しっかり聞こえてしまったようだ。

「ジロー、今リョーマって言うたか?」
「うん、言ったけど。それがどうかした?」

すかさずジローに問い詰める忍足。
また鬱陶しい展開になりそうだ。跡部はうんざりして顔を背けた。

「リョーマと会うたんか?いつ、どこで?」
「え?さっき。中庭のベンチで。・・・ってさ、忍足もリョーマの知り合いなの?」

忍足は跡部の方を向いた。

練習さぼって何やってんねん。
そう言いってやりたいのを、我慢しながら睨みつける。

もちろん跡部はそんなのは無視して、コートへと入る。

「ボールを出せ」

練習していれば絡まれることはないことを見越してのことだ。

「ねー、忍足。一体、どういう知り合いなんだよ」
「んー?」
「リョーマと。いつのまに知り合ったの?俺、聞いていないんだけど」

どうやら自分より先にリョーマのことを知っていたのが、気に入らないらしい。
問い詰めるような口調のジローに、忍足は苦笑した。

「偶然や、偶然。俺かて友達になったのは最近やし」
「ふーん。じゃ、跡部は?なんでリョーマと知り合いなのか、忍足は聞いてる?」
「いや、全く」

榊絡みじゃないかという噂は黙っていることにした。
監督に頼まれて、リョーマの面倒をみている。
それなら跡部が懇意にしているというのも、すんなりと納得できる。
できるけど・・・跡部の態度は誰かに頼まれてしているようなものではない。
個人的にリョーマを気に掛けている。
忍足の目にはそんな風に映っていた。
ただ、何故跡部がリョーマに興味を持ったのかまではわからない。

「うーん。直接聞いても教えてくれないんだよね・・・」
「ジローは?さっき初めて会うたんか?」
「うん。そうだよ」

こくっとジローは頷く。

「その初めて会うた子を、なんでそんなに気にするん?
理由を聞いてもええか?」

跡部だけじゃなく、一体ジローともいつ知り合ったのか。
忍足にしたらそれも気になるところだ。

「なんでかな・・・」
腕組みをして、ジローは考え込む。

「気持ち良さそうに寝てた顔が可愛かったのも、あるけど」

寝顔を見たんか?
一体何してたんやと言いたいのを、忍足はじっと我慢する。

「さっきね。俺、部活の見学に来たら?って言っちゃったんだ」
「ジロー・・・。リョーマは目が」
「うん。俺、気がついていなくて。すぐに、リョーマが教えてくれたよ。
『俺には何も見えないから』って。
あの子、さらっと言ったんだ」

くしゃっとジローは髪をかきあげる。

「だけど辛そうに見えた。
本人はそれを気付かせないようにしているつもりだろうけど。
無理して強がってる。忍足は、そう思わない?」
「せやな・・・・・」

ジローの言う通りだった。
いつでもぴんと張った背中。
精一杯強くみせているつもりだけど、いつか折れそうで怖い。

「リョーマは笑っている顔の方が絶対いいよ」
「ああ」
「俺、もっと仲良くなって楽しいこと、沢山教えてあげようっと!」
「ちょっ、ジローそれは」

俺がやるからええよ。
言う前に、ジローはぴょんと一つ飛んで反対側のコートへ走って行ってしまった。

「さー、やるぞー!かかって来い!」
「芥川先輩・・・・。まずサーブの練習からっすよ・・・」

無駄にやる気になっているようだが、どこか空回っている。

「しょうがないやっちゃなあ」
跡部の方を見ると、さっきからずっとスマッシュの練習ばかりでそれ以外何も進んでいない。

「あっちはあれで、いっぱいいっぱいみたいやな」
ハハ・・と笑い、忍足もラケットを握った。

「俺も練習に戻るか」
「侑士」
「お、岳人。フォーメーションの練習やるか?」
「やるかじゃねぇ!いつまでくっちゃべってるんだ!」
「岳人君・・・ラケット殴打はホントに勘弁して下さい。痛いから!」
「お前が遊んでいるからだろ!」

色々人生は厳しい。
痛む頭をさすり、忍足は悟った。


チフネ