チフネの日記
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2004年08月28日(土) 盲目の王子様 28 跡部 ジロー

忍足に続いて、ジローまでもが越前に構っている。
一体、どうなっているんだ。


ジローを探しに行くつもりで、コートを抜け出したのは建前。

いつもなら樺地に捜索を頼むのだが、
気分転換にと自ら足を運んだのは、中庭でリョーマと会う可能性があるからだ。
前に見たのと同じように、ボールの音に耳を傾けて座っているかもしれない。

そんな期待をしていた。

監督不在をいいことに他の部員への指示を出した後、
跡部は中庭へと歩き出した。

そして期待した通り、リョーマはベンチに座っていた。

ただし、その隣には何故かジローがいる。

(あいつ、練習さぼってこんな所にいたのか)

リョーマの手を握っているらしい姿を見て、跡部の理性は切れてしまった。

「なにやってんだ」

荒々しくジローの手を、払う。

忍足といい、馴れ馴れしいやつばかりで腹が立つ。
忌々しげに跡部はジローを睨みつけた。


「跡部、怖い顔ー。なんかあったの?」
「なんかあったのじゃ、ねえよ。お前がサボってるからに決まってるだろ!」

えー?とジローは首を傾げた。

「サボってたんじゃないよ。お昼寝してただけ」
「同じ事だ!」

急に大きな声を出したせいか、リョーマがびくっと体を揺らす。

「ほら、跡部。怯えているじゃん」
カワイソーと非難めいた口調で、ジローはリョーマの肩に触れた。

「大丈夫だよ。いつもこんな感じの奴だから、気にしないで」
「なんでお前が気にするなとか言うんだ」
「跡部のフォローしてあげてるんじゃん!」
「それのどこがフォローだ」

下らないことで言い争いする二人に、リョーマがストップを掛ける。
「あのさ、俺別に気にしていないし」
「ほんと?良かったー」
「ところで二人って知り合いなわけ?」

その辺がわからないリョーマは、二人に尋ねる。

「・・・こいつは、俺と同じテニス部なんだよ」

テニス部、の単語で、跡部にはリョーマが反応したように見えた。
見えただけで、実際はどうなのかわからないが。

「何!?跡部こそ、この子のこと知ってるの?」
きょろきょろとジローは跡部とリョーマの顔を見比べる。

「どういう関係?」
「どうって・・・」

詰め寄られたのは、リョーマの方。
困った顔をしたリョーマに、跡部は無意識にジローとの間に体を割り込ませる。
「よせ。お前には関係無いだろ」
「何だよ、その言い方」

むぅっとジローは頬を膨らます。

「そうだ。俺、名前も聞いてないよ。ねぇねぇ、何て言うのー?」
リョーマは跡部の体に隠れてしまっているというのに、気にもせずジローは呼びかける。


そんなジローを見て、跡部は眉を潜めた。
忍足に続いて、ジローまでも友達になりたいなんてバカ言い出すんじゃないだろうか。
嫌な予感だ。

「跡部、ちょっとどいて。邪魔」
「邪魔とか言うな!お前の方が邪魔なんだよ」
「俺がその子と話してるのに、邪魔しているのは跡部じゃん!」

また不毛な争いが始まったと、リョーマは溜息をつく。

「越前、リョーマ」
「え?」
「俺の名前。これでいい?」
「うん!」
「おい、越前・・・」

教える必要なかったのにと、自然非難めいた目でリョーマを見た。
しかし、こちらの表情がわからないリョーマは小さく首を竦める。
「だって教えないと、いつまでも騒ぎそうだから」

これくらい別にとサバサバした様子だ。

「そうかよ」
「これからリョーマって呼ぶね。俺のことはジローでいいから!」
「ハイハイ」

二人のやり取りを見て、跡部はこれ以上は無い位、眉を顰めた。

・・・やっぱり何かむかつく。
ふるふると震える腕を、拳をぎゅっと握り締めることでやり過ごす。

「ジロー、そろそろ帰るぞ」

とにかくジローをここから離してしまおう。
それが一番良さそうだ。

そう判断して、跡部はジローの襟首を掴んだ。

「えー、ヤダヤダ。もっとリョーマとお話したい!」
「バカ!顔出さないと、他に示しつかないだろうが!」
暴れるジローを抑えて、立ち上がる。

「リョーマ〜」

情けない声を出すジローに、リョーマはくすりと笑って立ち上がる。

「俺はもう帰るから、部活にちゃんと顔出しなよ」
「え、帰っちゃうの!?」
「うん。寝てる間に時間経っちゃったみたいだから」

まさかとは思うが、ジローと一緒に昼寝していたのだろうか。
リョーマの一言に、跡部は思わず考え込んでしまう。

(こいつ、こんな所で寝るなんて無防備過ぎるだろうが!)
しかもジローと、なんて。
空いてる手で、額を抑える。


「折角会えたのにー。そうだ、今からテニス部の見学においでよ」
良い事を思いついたかのように、ジローは両手を叩く。

「え・・・俺は・・・」

顔色を濁したまま、リョーマは答えない。
当然だ。
見学しても、目に映るものは何もないのだから。

「おい、ジロー」
「何?」
「お前、気付いていないのか」
「え?」

リョーマの目が見えない、こと。

きょとんとしているジローに、わかっていないと確信する。
気付いていないのなら、伝えるべきだろうか。
だが何て言う?本人の前だぞ?

跡部が迷っている間に、リョーマが一歩、距離を縮めてきた。

「折角だけど、それは出来ない」

顔を上げ、リョーマはジローにハッキリと告げる。

「行っても俺には何も見えないから」
ね?と杖でこつこつ地面を叩く。
「これが無いと学園を歩く事も出来ない」
「そっか・・・リョーマは目が・・」

小さく呟くジローに、跡部はそっと掴んでいた手を離した。
さすがに今日は、これ以上リョーマにしつこくしないだろう。
もうジローを連れてコートに戻ろうとする。

しかし、
「痛くない?」
「ジロー!?お前、何やってんだ?」
ジローはリョーマの顔に手を伸ばし、そっと目の辺りに触れた。
触れられたリョーマの方は、一体何が起きたのかと目を瞬かせる。

「え、別に痛いとかじゃないけど」
「痛くはないんだ。良かった」

へへっとジローは笑って、杖を持ってないリョーマの手を掴む。

「これが俺の顔」

そう言って、眉に瞼に鼻に唇に触れさせる。

ジローの行動に驚いて、跡部もリョーマも動けない。

「覚えておいてね」
「あ、うん・・・・」

ジローはゆっくりとリョーマの手を離した。

「変な人」
くすっとリョーマは笑う。

「こんなことされたの、初めてなんだけど」
「だって俺の事、覚えて欲しいんだもん」
ジローも笑う。

「だから忘れないでね」
こくんとリョーマは頷いた。


疎外された雰囲気に、跡部は小さく舌打ちする。
だけれどリョーマの顔がとても穏やかだったので、邪魔するにも憚られる。
ここでまた何かうるさく騒いで、嫌われるようにはしたくない。

「また今度、お昼寝しよ。部活の無い時に」
「おい、ジロー・・・」
が、とんでもない誘いに、さすがに声をあげてしまう。

「もういい加減にしろ!早く部活行くぞ!」
「なんだよ、跡部ー」

抵抗するジローを、今度こそ跡部は引き摺って行く。
けれどその間も、ジローはリョーマへ声を掛け続ける。

「リョーマ、またね!絶対絶対また会おうね!」
「さようなら」

跡部もリョーマに何か一言声を掛けようかと思ったけれど、何も出てこない。
ただ黙って小さな背中を見送るだけだ。

折角、会えたのに。
ろくに話も出来なかった。

それもこれもジローのせいだと、ジャージを掴んでる手に力を込める。
首、痛い!とジローが抗議しても、放してやらずにいた。


チフネ