チフネの日記
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| 2004年08月23日(月) |
盲目の王子様 23 忍足侑士 |
歩いて来るリョーマを見て、忍足はほっと肩を落とした。 ここ2日ばかり、朝練の時間が通常より10分以上長引いたせいで、 リョーマの登校時間と合わせることができなかった。 教室まで様子を見に行こうか迷ったけれど、 そこまで親しい仲ではないから不信感を持たれる場合もあるかもしれない。 ぐっと我慢して、校内のどこかで会えるのを待っていた。 しかしそんな偶然もなく、顔も見れないまま一日は終わる。 (今日は時間通りやったからな・・・)
校門の前でリョーマを張ることに全力を掛けて、忍足はここまで走ってきた。
越前リョーマと監督の間に、何があるか。 人並みの関心は忍足も持っていた。 しかもあの跡部が関わってるらしいと知ったからには、尚のことだ。 監督に頼まれたのか、跡部は越前リョーマのことを気に掛けている。 否、今は個人的に気に掛けてると見てもいいだろう。 あんな優しい表情をする跡部は始めて見た。 付き合ってる女に対して、傲慢という態度でしか接しなかった跡部が、だ。 こんな面白そうなこと、放っておけるはずもない。
それに、越前リョーマ自身にも忍足は興味を持っていた。 強情で生意気なところはあるが、真っ直ぐで一人で立とうとする強さを見て、 少しだけ構ってやりたくなる。
(跡部も、そういうところが気に入ったんやろうか)
リョーマに近付くと露骨に嫌な顔をしてた跡部を思い出し、忍足は笑いそうになるのを堪える。 もうリョーマは、すぐそこまで歩いてきているからだ。
「おはようさん」
声を掛けると、盲目の少年は耳をすますような仕種をして立ち止まった。
「ここや」 隣に並び、軽く肩に触れる。 「・・・・忍足さん、おはよう」 「お、ちゃんと俺のこと覚えとってくれた?」 「そりゃ、まぁ」
購買での一件を思い出したせいか、リョーマの眉が寄る。 それを見て忍足は少し笑った。
「やけど名前で呼んで言うたやん」 「でも」 「ゆ・う・し。ええ加減覚えてな」 念押しすると、ますます眉が中央に寄ってしまう。 困っているらしいと、察する。 「年上を呼び捨てにしちゃまずいんじゃないの?」
リョーマ自身拘りは無いが、日本はそういう事にうるさいと聞いている。 実際、カチロー達から聞かされる部活での上下関係に辟易していたくらいだ。
「でも俺ら、友達やん」 気にしない風に、忍足は言う。 「友達って、そうなった覚えは無いけど」 「勝手に決めた」 「・・・・・・」
どうしてと、言いたげな表情。 たしかに自分でも友達という単語を持ち出したことを、どうしてだと考える。
榊との繋がりや、跡部が見せたこの少年への表情。 そういうもので興味を持った。 だけどそれが全部かと聞かれたら、違うときっぱり否定するだろう。 越前リョーマの内に秘めている強さのようなもの。 それをもっと間近で見てみたいのも本当の気持ちだ。
「あー、えっとな、急に言われても迷惑やろうけど」 「・・・・・」 どう言ったものかと、忍足は迷う。 友達になりたい理由なんて、いちいち口にしたことなどない。 岳人やジローとは、気付いたらつるんでいた。 けれど何か言わないと、少年は納得しないだろう。
「リョーマのハッキリした態度が気に入ったんや。 それだけじゃあかんか・・・?」
(って、何が言いたいんや。そんなものしか出てこんのか?) 内心で焦る忍足を知らず、くすっと笑ってリョーマは横を向いた。
「俺と居ても別に楽しくないと思うよ」 「はぁ?それは俺が決めることで、リョーマに決められることやない。 別にとか、言うたらあかんで」 な?と同意を求めると、リョーマは苦笑いしてこちらを向く。 「忍足さんって変わってるね」 「侑士やって言うとるやん」 まだ名前を呼んでくれないことに、拗ねた口調で返す。 「わかった、侑士でいいんでしょ」 「え。今、名前」 「自分で呼べって言ったじゃん」 「いや、それで正解や!」 嬉しくて思わず、リョーマをぎゅっと抱きしめてしまう。 「わっ!ちょっと急に抱きつくなよ!」 バランスを崩して転びそうになるリョーマを支えて、 忍足は更にしがみ付く。 「嬉しいんや!おおきにな、リョーマ」 「そんな喜ぶこと?」 理解出来ないと、リョーマは困惑するだけだ。
「今日の日を記念日にしてもええくらいやな」 「大袈裟」 「おい、道の真中で何やってる」 突然二人の間に腕が割って入り、忍足とリョーマは引き離された。
「跡部っ!」 「他の奴も見てるだろう。全く・・・」 ぶつぶつ言いながらも、跡部はリョーマを背に隠すよう忍足の前に立っている。 何事か理解出来ていないリョーマは、呑気に跡部に向かって挨拶をした。
「跡部さん、おはよう」 「おう。それよりな、忍足なんか構うな。話し掛けられても無視しておけ」 「本人の前で言うか!?」 「ゆっくりしていると予鈴が鳴るから行こうぜ」
抗議をする忍足を無視して、跡部はリョーマにだけ話し掛ける。 おまけに歩く時も、忍足が隣に来ないようガードしているようだ。 仕方なく、跡部を真ん中にして三人で歩く形になった。
(あーあ。さっきまでは邪魔が入らず、いい線いってたのに)
恨みがましく跡部を見ても、知らん顔している。 「昨日は、突然悪かったな」 それどころか、何か自分の知らない話題を跡部はリョーマに振っている。 「ううん。だから気にしてないって言ったのに」 「まあ、挨拶みたいなもんだ」 「挨拶?」 「ちょお、待ち。自分ら、俺に何か隠してへん?」 ふんっと、跡部はリョーマを庇うように「お前には関係無い」と言い放つ。 「関係無いって、リョーマ!俺ら友達やろ、な!?」 「え、あ・・・うん」 「友達なら隠し事無しやろ?跡部に何されたん?正直に」 「てめえ、人聞きの悪いこと言ってんじゃねえ!」 「イキナリ殴るな!痛いわ!」 「行くぞ、越前。朝からこんな奴相手して、遅刻したらシャレにならない」 「ちょっと、跡部さんっ・・・」
急に跡部はリョーマの腕を掴み、は走り出した。
「こら、跡部!リョーマは置いていかんかい!」 「バーカ。お前の言うことなんか聞くかよ」
冷たいことを言いながらも、リョーマが転んだりしないように気遣っている。
(お姫さん守ってる、騎士のようやな)
跡部の奴、無意識でやってるのか?
全速力で追いかけながら、忍足はそんな風に思った。
「ここでいいから」 前回と同じ場所で、リョーマは一人別れて一年教室へと向かってしまう。 手を貸したいけれど、拒否されるのはわかってるから。 それ以上何も言わずに、ただ見送る。
けれど、ここまでリョーマの手を引っ張った跡部には言ってやりたいことはいくらでもある。
「一言も話しさせんなんて、どういうつもりや」
三年生の教室に向かうまでの距離、忍足は跡部にぶちぶち文句を言い続けた。
「どうもこうも、お前には関係ないだろ」 聞く耳持たない。 そんな態度を取り続ける跡部に、段々腹が立って来る。
「関係大ありや。俺とリョーマは友達やからな」 「友達・・・?」
そこでようやく足を止めて、跡部は振り返った。
「そうや。跡部がなんぼ邪魔しても、リョーマは友達やと認めてくれたんやからな」
友達だとリョーマが認めてくれたかどうかは実はまだ判断できない。 少し引き攣った顔をしながらも、必死で忍足は自分を奮い立たせた。 名前で呼んでくれたやないか!もう友達も同然や!
「友達か・・・」 「跡部?」
何か反論してくるかと身構えたが、跡部は考えるような仕草をした後、また前を向いて歩き出してしまった。
「何やの、一体」 「忍足ー!今までどこ行ってたんだ!宿題写させろって言ったろ!」
教室から顔を出した向日に急かされ、朝練の時に言われてたことを思い出す。 そういえば一時間目の授業のノートを写させろとかなんとか・・・。 「あ、忘れてた」 「いいから、急げよ!」 写す側なのにやけに態度の大きい向日に、慌てて鞄からノートを出した。 「すぐに返すからな」 「ああ・・・」 上の空で返事する。
(跡部の奴、変な顔してたな)
リョーマと友達だと宣言して何かまずかっただろうか? 気に食わないのなら、すぐ反論しただろうに。 黙っていたのが、返って不気味だ。
授業中、ずっと考えても跡部が何を考えているかなんてわからないままだった。
チフネ

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