チフネの日記
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| 2004年08月15日(日) |
盲目の王子様 15 跡部景吾 |
タイミングを計ったように現れるせいだ。 でなければ・・・・絶対手を貸したりなんかしない。 絶対だ。
関わらないと誓ったはずなのに、勝手に走り出す足をどう止めたら良いのだろう?
本日も新しいデータを渡すからと、跡部は榊の呼ばれ、音楽準備室に出向いた。 前とは違い、待たされることなくテープを渡された為、 あの時見つけたものが同じ場所にあるかどうかは確認出来なかった。
「R・E」と書かれたラベルが貼ってあったテープ。 この学園に入る前の越前リョーマが映ってるものだ。 盲目ということで学園内で有名になっているリョーマだが、 彼がテニスしていたという噂は入って来ていない。
最も盲目だということが先行していて、 それ以前の彼がテニス選手だったと結びつける人がいない可能性もある。
(知っているのは、監督だけか・・・・) それを除いたら、偶然テープの中身を見てしまった跡部一人しか知らないということになる。
調べようと思ったら、リョーマの経歴を探すことなど跡部には簡単に出来る。
'越前’
テニスしているリョーマを見なければ、気付かなかったこと。
以前、日本には世界のトップと渡り合う一人の選手がいた。 「サムライ」と呼ばれたその選手の名字と、リョーマの名字は同じだ。
考え過ぎることかもしれないけれど、引っ掛かるものがある。
テープの中でプレイしていたリョーマは、今より少し幼い感じだった。 それでいて、あれだけの技術・スピードには只者じゃない何かを思わせる。
もし「サムライ」の血縁者なら・・・・それも頷ける。
しかし柄にも無く、跡部はリョーマの過去を調べることを躊躇していた。 金を使えば、容易く判明出来るけれど。
(気分、良いものじゃねえな。やっぱり・・・・)
もしリョーマが日本に渡って来た理由に、目のことが関係あるのなら、尚更だ。 あれだけの選手を、周囲がほっとくと思えない。 それなのに盲目となって、もう選手生命を絶たれたとしたら・・・? どう騒がれるのだろう。
(まだあいつは、12歳なのに、な)
コートを走り回るリョーマから、今ここにいるのが楽しいという感情が伝わって来た。 コートに立てないとわかった時、かなりのショックを受けたに違いない。
(今でもラケットを握って、コートに立ちたいんだろ)
じっとボールの音に耳を澄ましていたのが、まだ未練が残ってる証拠だ。
その気持ちは、同じテニス選手として理解出来るものだ。
だから、土足で踏み込むような真似は避けたかった。 知らないところで過去を暴いて、知ったところで・・・・何にもならない。
かといって、知りたい気持ちも残っているのは事実だ。
(どうしたものか)
監督は教えてくれないだろうし、リョーマはリョーマで跡部のことを嫌っている。
なんとかならないのかと、考えながら階段を降りて行く。
(この時間だと、また会うかもしれないな) 別に会ったって声を掛けるなんてしねえからなと、一階の廊下へと足を進める。
この間と違って、何人かの生徒が廊下にいる。 (なんだ・・・?) 不自然な空気に、跡部はすぐ気付いた。
皆の視線が、同じ方向を向いている。
その先に何があるのか。 辿ってみると、一人の生徒が壁に手をついて歩いているのが見えた。
怪我でもしているかのように、一歩一歩ゆっくり足を進めている。
「越前!」
それがリョーマだと気付いた時、跡部は声を出していた。 周囲がリョーマから跡部に視線を移すが、構っていられない。 すぐに、小さな背中へと走り出す。
「何。また、あんた?」
声で跡部がわかったのだろう。 眉を潜め、それでもまた壁に手を置いて、リョーマはまた一歩足を踏み出している。
「お前・・・杖はどうした」 上擦った声が、知らずに出た。 リョーマが杖を離して歩いてるのを見たことはない。 目の見えないリョーマにとって、欠けることのできないはずのものだ。 それがどうして今、杖を持たず歩いている?
「ちょっと、なくしたみたい」 ぴくっとリョーマの体が動いたのを見逃すはずもない。 それになくしただって? 「なくそうと思っても無くせるものじゃねぇだろ」 声を荒げる跡部に、リョーマは首を傾げた。
「俺が勝手になくしたのに・・・なんであんたが怒ってんの?」 「怒ってねぇよ」
実際、腹は立っている。 これだけの人間が行き来している中、 壁伝いに歩いているリョーマを誰も気にも止めやしない。 まるでいないかのような扱いに、訳のわからない怒りが込み上げていた。
「畜生・・・」
小さく呟いた後、跡部はすばやくリョーマの手を取る。
「えっ、ちょっと!?」 「そんなんじゃいつまでも家に帰れやしねぇぞ」 「は?」 「送ってやるから大人しくしてろ」
そのままリョーマの手を引いて、廊下を歩き出す。 前から歩いてくる生徒が、何事かと二人の顔を見る。 生徒会長の跡部と、盲目のリョーマ。 目立つ組み合わせなのだろう。 けれど跡部は気にもしない。そしてリョーマには見えない。
「ねぇ、俺なら大丈夫だって!手、離せよ!」 「大丈夫だと?バカ言うな。いいから黙ってろ」 「部活はどうするんだよ。あんた部長でしょ?さぼったらまずいんじゃない?」 「安心しろ。俺が送るのは校門までだ。すぐに車を呼ぶ。 それに乗って運転手に住所を言えば、お前を家まで送るから。それで文句ないだろ?」
断られるだろうか。
今までの経緯から好かれていないことは、明白だ。 けれど断られようが、跡部は引くつもりは無い。 文句を言おうが、車に乗せてしまおうとまで思っていた。
だけどリョーマは少し考える素振りをした後、こくりと小さく頷いた。
「ほら、乗れよ」 すぐ来いと連絡したおかげで、車は3分以内にやって来た。 リョーマを押し込んで、運転手に頼むぞと告げる。
「ねぇ」 ドアを閉めようとした瞬間、後部座席に座ったリョーマが声を掛ける。
「なんだ」 「あんたさ・・・どうして俺に関わってくんの?」 リョーマも今までのことを思い返していたのだろう。 何故?と言いたげな表情を浮かべている。
「別に。理由なんかねぇよ」 「え?でも」 もう出せと、ドアを閉めて車を走らせる。
無視すると決めたはずなのに。 こうしてまたリョーマに関わろうとするかなんて、自分でも分かりはしない。
けれど、あの状態でリョーマを一人帰すことにならなくて、良かった。 安堵してるその気持ちに偽りは無い。
(あとは・・・・あいつの杖を見付けてやらないとな)
この学園内でくだらない真似をしてる奴がいる。
いつかリョーマを突き飛ばした生徒を思い出し、跡部は不愉快そうに顔を歪めた。
チフネ

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