チフネの日記
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| 2004年08月08日(日) |
盲目の王子様 8 跡部景吾 |
遠ざかっていく背中を見ながら、跡部はぎりっと唇を噛んだ。 「なんだっていうんだ・・・」
‘誰の手も借りたくないのに。特別扱いだって、されてるつもりもないっ!’ 怒鳴りながらも、表情は酷く傷付いていた。 言い返すつもりだったが、それを見て口を噤んでしまった。
「ちっ」 八つ当たり気味に、壁を拳で叩く。 生意気な態度を取ったことについて侘びを入れさせようと思ったが、 急に冷めてしまった。
「面白くねぇ」
誰とも無く呟いて、跡部は部活に向かう為に歩き出した。
ここで黙って立っているよりも、ラケットを振っていた方がマシ。 理由のわからない苛々も、コートにいれば忘れられるだろう。
「今日も機嫌悪そうやなあ」 忍足を見た瞬間、跡部は黙って顔を背けた。 「無視かい!」 「うるせえ。今日はお前の相手している気分じゃねえんだ」 「怖い顔してると、仮入部の一年達に逃げられるで? 跡部様スマイルで悩殺したってや」 無言のまま、忍足の背にラケットを当てる。 「痛っ!」 「ウルサイって言っただろう」
「どっちもウルサイよ」
睨み合う二人の後ろから、のんびりとした声が聞こええてきた。
「ジロー?起きたんか」 「こんな環境で寝てられないよ・・・。あっち行って来よー」 「行くな!今から練習だろ!」 「えー」
一瞬不満げに顔を歪め、ジローは大きく欠伸をした。
「眠たいのに」 「お前の場合は寝過ぎだ。体動かしてスッキリして来い。 今日は一年も見ているんだ。絶対寝るなよ」 「なんで跡部に指示されなきゃいけないの?」
もう一度欠伸をして、ジローは口を尖らせた。
「だれが部長やってると思っているんだ」 「跡部」 ぴっと人差し指で跡部を指す。
「ならわかるだろう。部長の命令は監督の命令と同じだ」 「誰が決めたの」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」
不穏な空気を察知して、忍足がまあまあと間に入った。 天然なジローの言葉に跡部の苛々が増している。 この後、部員にとばっちりが来るパターンは避けたかった。
「跡部の指示も一理あるで。 ジロー、昨日もその前もずっと寝てたやろ。そろそろ練習始めんとあかんやろ。 最上級生の俺らが遊んでたら、示しもつかんし。な?」 「今日から来てるの?」 一年生達の方を見て、ジローは首を傾げた。 「仮入部だけどな」 「ふうん。もうそんな時期だったっけ」 「お前の場合、春が来たことに、今気付いていたんじゃねーか?」 嫌味を言う跡部を、さっくりと無視してジローは一年生の顔を一人一人眺めた。
「みんな小さくて可愛いねー。俺達にもあんな時があったっけ」 「せやな。ジローの身長もあれくらいやったな」 「俺はもうちょっと大きかったよ」 「そうか?」
緊張したまま球拾いをしている一年生達を見て、跡部は不意にリョーマのことを思い出した。
(馬鹿馬鹿しい)
身長は同じくらいかもしれないが、他に似ているところは何もない。 もう考えるな、と首を振る。
「跡部って、さあ」
急に真横に来たジローに、びっくりして跡部は目を見開く。 「・・・なんだ」 「自分のこと偉いと思っているでしょ」 「ジロー!?」 こら、と忍足がジローの体を引き寄せるが、言葉は止まらない。
「生徒会長でテニス部の部長。たしかに学園での権限を持ってるかもしれないけど。 それで誰もが従うなんて思わない方がいいよ」
あの生意気な一年生を思い出させる台詞に、跡部は顔を顰める。
「やってる事はさあ、結構最低じゃん」
あちゃー、と額に忍足は手を当てる。 気にも留めず、ジローは「さ、打ってこよう」とのんびりコートに入っていた。
「なんだ、あいつは」 低い声の跡部に、その場から逃げようとした忍足がびくっと肩を揺らす。 「えっとー、ほら。この間、跡部が振った女の子。ジローと同じクラスらしいで」 「名前も覚えてねえよ」 「・・・・そうか。 とにかくこの間の件が、ジローの耳にも入ったんやないか? 前にも同じことやって、ジローの奴怒ってたやろ」 「他人のことだろ。放っとけよ」
ふん、と腕を組む跡部に、忍足は苦笑する。
「お前はそう言うけどな。あれでジローも心配してるんやで。 いつも人を軽く扱うて、まともな恋愛一つ出来ない」 「てめえにだけは言われたくねーよ」
跡部ほど酷いことはしないが、忍足も同じく本気の恋愛をしていない。 「まあ、そうかもな」 ぽりっと頭を掻いて、忍足は空を仰いだ。
「せやけどお前のは酷過ぎる。 本気で好きになれる人が出来よったら、 どう優しくするかもわからへんのちゃうか?」 「馬鹿馬鹿しい。そんな発想も気持ち悪い」 「なんやと?大事なことやろー!」
馬鹿にされことで地団駄踏む忍足を一瞥し、 跡部もコートへと向かった。
本気に好きになれる人?
優しくするだって?
きっと俺にはそんなモノ、必要無い。
チフネ

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