チフネの日記
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2004年08月07日(土) 盲目の王子様 7 越前リョーマ

カチローとカツオは、最初の希望通りにテニス部へ仮入部することが決まった。
あの部長で本当にいいのかと、思っていたがリョーマは口には出さずにいた。
200人を超える(らしい)氷帝テニス部。
レギュラーは別に建てられた部室にいるらしいが、
他のメンバーは大所帯で所狭しと着替えしている。
一年などそのまた下の立場で、先輩が使った後で荷物を置く場所にさえ苦労しているらしい。
それも早い者勝ち。
故にホームルーム終わった後、二人は「またね、リョーマ君」とだけ言って教室を飛び出した。

校門までも一人で歩ける様になったリョーマは、担任の助け無しでこの所下校している。
さて、帰ろうかと立ち上がり、出入り口へと歩き出す。
そこへ、すっと足に何かが当たった。
まずい、と思った時にはリョーマの体は床にぶつかっていた。
「大丈夫〜?」
笑いながら手を貸してくる男子に、「平気」と短く返してすばやく立ち上がる。
埃を払い、ゆっくり障害物が無いか探しながら歩き出す。
「俺らの手伝いはいらないってさー」
アハハと連中が笑う。
それを無視することでリョーマは耐えた。
どこにでもつまらない連中はいるものだ。
ヒイキじゃねえの?
権力の持った教師の後ろ盾。
特別扱いされて、いい気になってる。
時折聞える彼らの会話に、そんなんじゃないと言い返したくなったことも何度かある。
馬鹿を相手にしてもしょうがない。
そう言い聞かせ、全部無視してきた。
その態度が気に入らなかったのか、今度は誰も見ていないところで攻撃するようになってきた。
今はまだ、足を引っ掛けるとかそんな程度だけど。

(カチロー達を巻き込んだりしたら、イヤだな)
反応の無い自分をもっと傷付ける為に、二人にも嫌がらせする可能性も有り得る。
かと言って、もう俺に構わないでとカチローとカツオに訴えったら、きっと理由を問い質されるだろう。
わかった、と言って引くような性格じゃないことは、短い付き合いの中でも感じていた。

けれどこれは自分の問題なのだ。
なるべくなら一人で片付けたい。

以前ならば、こういう連中などあっさり一泡吹かせてやったのにな。
今はどうやればいいのか。
考えながら、リョーマは足を進めた。

「今、帰りか?あん?」
聞こえて来た言葉は、自分に向けられたものとは限らない。
そう取ってもいいはずだ。
だからリョーマは足を止めずに歩く。
しかし相手がそれを許すはずもなかった。
「無視かよ。俺様に向かってイイ度胸してるな」
突然襟首を掴まれられ、リョーマはびっくりして倒れそうになる。
しかし後ろから支えられた手に、転倒は免れた。
「・・・・何すんの」
いつもいつも、とリョーマは怒りを露にする。
ただでさえ苛々してる時に、何て奴に声をかけられたのだろう。
しかし相手の声はどこまでも楽しげだ。
「お前が素通りしようとするからだろう」
「俺に話し掛けてたの?気付かなかった」
「お前しかいないだろう」
なんで、とリョーマは溜息をついた。
他に誰かいるかもしれないなんて、わからないのに。
「それで?何か用?」
さっさと切り上げたくて、先を促す。
またどうせ榊との関係を聞いてくるのだろう。
さっきの連中のこともあって、リョーマも少し冷静に対処できなくなっていた。
「俺、早く帰りたいんだけど。手短にして」
「お前、前にも言ったけどその口の聞き方はなんとかならないのか」
「ならない。あんただけじゃなく誰に対しても同じだから諦めろよ」
またそのコトか、とうんざりする。
生徒会長だから、部長だから上級生だから敬えって?
なんて下らない考えなのだろう。
「いつも相手が寛大とは限らないぞ。余計なトラブルを起こしたくなかったら」
「ハイハイ。わかりました。これでいいんでしょ」
「お前・・・・」
むっとしたような跡部の声。
気分を害するくらいなら、最初から声を掛けてこなければいいのだ。
もう最初から気が合わないとわかっているはずなのに。

「まあ、いい。お前の言葉使いについては、この先も注意していくからな」
「・・・・・・・・・」
「今日、聞きたいのは別のことだ。
お前、休日に監督と何をしているんだ」
「は?」
「とぼけても無駄だ。日曜に学校に来ていたよな?
監督と二人で何を相談していたんだ?」
跡部の断定的な言い方に、リョーマは目を瞬かせる。
一体、この男はなんだろう。
「そんなこと、あんたに関係あるの?」
「生徒会長として知っておく義務はあるだろう」
あるか、そんなもの。
自信たっぷりの跡部に、呆れてしまう。
「休日の学校で何が行われているか、知る権利はあると思うぜ?」
「あんたの好奇心を満たす為に、話すことなんか無い」
「なんだと」
「聞きたければ先生に直接聞けばいいって、前にも言ったと思うけど?」
言っても榊は教えないだろうが。
「あんたって、榊先生が俺に構うのが気に入らないの?」
「はあ?何言ってるんだ?」
「だけど安心してよ。大会を前にして、部よりも俺を優先するようなことも榊先生はしないから。
俺だってそんなことさせるつもりは無いし」
「俺は、そんな話はしていない」
「そう?榊先生の関心が俺に向いて、腹が立ってるとばかり思ってた。
そんなの、俺だって誰の手も借りたくないのに。特別扱いだって、されてるつもりもないっ!」
声を荒げると、襟を掴んでいた跡部の手が離れた。

何も言わないのを勝ったと思い、リョーマは下駄箱への道を再び歩み始める。

俺の存在が不愉快なら、構って来るなよ。
誰に対してでもなく、小さく呟いた。


チフネ