チフネの日記
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2004年07月23日(金) 天使不二と王子 50(最終話)






激しい戦いだった関東大会の初戦が終わった。
相手が氷帝ということもあって、気が抜けない戦いだった。
怪我人も、出た。
特に部長はしばらく九州で治療しなければいけない。

今日がその出発日。

昼休みに屋上に出て、空を眺める。

放課後には飛行機に乗って九州に行くんだよね。
きっと戻って来ると、信じてる。
また部長と試合するのを、楽しみにしているんだから。


それから・・・事故の直後ということで不二先輩を出場させるか、
おばさんは随分悩んでた。
結局、不二先輩が頼み込んだようでS2に登録されてたけど。

結果は見事ストレート勝ち。
皆心配してた分、ほっとしてた。俺も、だけど。

「大丈夫って所を、証明するから」

試合前に先輩は、俺にそう宣言した。

結局あれから検査や退院で忙しくて、先輩とは病院で顔を合わせることが出来なかった。
だからやっと「ごめんなさい」と「ありがとう」と言えるのに、
俺はなんて言ったら良いのかわからず、ただあたふたとしてた。
そんな俺に先輩はただ笑って、帽子の上から頭を撫でてくれた。

「見ててね、ちゃんと」

第三の技まで披露して、元気な所をちゃんと証明してくれた。


でも、その後は言葉を交わしていない。
試合後でごたごたしてたのもあるけど。

また先輩に近付いて拒絶されたらと思うと、怖くて。

お礼と謝罪、ちゃんとしなくちゃいけないのに・・・。




その時キィと音を立てた扉に、目を向ける。

「ここにいると思った」
「不二先輩っ!?」

慌てて立ち上がろうとした俺を、手で制する。
不二先輩は、こっちに向かって歩いて来た。

ずっと避けられていたのに。
びっくりして、声が出なくなる。

「教室まで行ったけど、いなかったから。
ひょっとしてここに来てるんじゃないかと思ったら、当った」

嬉しそうな笑顔が眩しい。
もう二度と俺の前では見せないかと、思ってた。

「教室に、行ったんすか?」
「うん。部活だとなかなかゆっくり話す暇が無いだろう?
だからこのお昼休みに、君を探しに来た」

そう言って俺の横に、腰掛ける。
ほとんど触れるんじゃないかって距離に、動揺する。

って、そんな場合じゃない。
言わなきゃいけないことが、あるんだから!

「先輩」

不二先輩の方を向いて、頭を地面に届くくらいに下げる。


「越前!?どうしたの、止めなよ」
「ごめんなさい。あの事故は俺の所為っす。走って逃げた所為で・・・」

もし先輩があのまま目を覚まさなかったらと思うと、怖くなる。
謝って済むことじゃない。

「本当にごめんなさい」
「もう、いいから!」

先輩が手が俺の体を掴んで、上へと持ち上げる。

「いいんだよ、越前。謝ることなんて無い」
「でも」
「むしろ謝るのは僕の方だ」
「え・・・?」

何を?と思っている間に、今度は先輩が頭を下げる。

「ごめんね、僕は君を傷付けた」
「先輩、待ってよ。そんな、それこそ謝らなくてもいいから!」
「待って、これだけはちゃんと言わせて」

焦って立ち上がろうとした俺の手を、先輩の手が掴む。

「君を遠ざける為に、色々と酷いことを言ってしまった。
本心じゃないと今更言っても遅いけど、きちんと謝りたいんだ。ごめんね、越前」
「・・・・・・・・・・」

遠ざける為という言葉が胸に刺さる。
でも先輩の言葉を無視する訳にもいかない。

「いいっすよ、もう謝らなくても」

振られたことには、変わらない。
笑顔を作って、先輩を楽にしてあげよう。

「しょうがないっすよ。勝手に俺が好きだなんて言ったことだから、先輩が気にすること無い」
「違うんだ、越前」

話を遮られる。
握られてる手に、力が込められた。

「非常に勝手だと怒るかもしれないけど、聞いて?」
「何、を?」

先輩の真剣な声と目に、動けなくなる。
なんで、これ以上何かあるの?


「君にあんな仕打ちをしたのは、僕ではだめだと思ったからなんだ。
もっと釣り合う人が君はいるはずだ。
それがわかっていたから、手を取ることが出来なかった」
「は・・・あ?」

とんでもない理由を聞かされ、思わず声を上げる。


「何それ、誰が決めたんすかそんなの!?俺に釣り合うとかって、何?」
「ごめん。でもこれからもっと高みに行く君には、僕なんかじゃダメだと本当に思ったんだ」
「でも、だって・・・」

わけのわからない思い込みに、脱力する。

ごめんと謝ってる先輩に、これ以上怒りをぶつけてもしょうがない。


それに、どうしてと追求しても答えてくれないだろう。
釣り合うとか、自分じゃダメとか。

何か、他に言えない秘密を抱えてる・・・なんとなく気付いてた。
誰かの告白も受けないのも、その秘密に原因がありそうだ。

不躾に聞いて良いものじゃ、無い。


「今でもそう思ってるよ、君に相応しい人は他にいるって」
「・・・・・・」
「だけど、僕の気持ちを伝えたい。
もう君はどうでも良いって、思うかもしれないけど」
「言って、よ」

先を促す。
早く、言ってよと、心の中で叫ぶ。


「越前。君が好きだ」
ずっと欲しかった言葉を聞かされて、じっとしていられない。

「先輩っ!」
首にしがみついて、抱き付く。

「俺も、先輩のこと好きです。振られても、諦めること出来なかった」
「僕で、いいの・・・?君にあんな酷いこと言ったのに」
「そんなのどうでもいい。先輩が好きだって今言ってくれたことが、何倍も大事っす!」

迷ってるみたいに動いてた手が、俺の背に回った。

抱きしめ返してくれることが、嬉しい。
嬉しくて、もっと先輩にしがみ付く。

「ごめんね、越前。僕の勝手な言動で、君を傷付けた」
「まだそんなこと言ってる」
「だって」
「もう、いいって言ったじゃん。それでも気にしてるのなら」
「なら?」

先輩の頬に、キスする。
俺から。

「ずっと一緒だって誓って下さい。今、ここで」
「・・・・・・・・・」

瞬きして俺の顔を見た後、先輩はくすっと笑った。


「そんな事言っていいの?
君を一生放さないかもしれないよ?」
「いい。先輩なら、なんだって許す」
「君って子は、本当に・・・」

溜息の後、先輩が顔を近付けて来る。

何されるかわかったから、目を閉じた。



「好きだよ。ずっと君と一緒にいる。約束する」

誓いのキスは一回だけじゃ足りなくて、
何度も何度もお昼休み終了のチャイムが聞こえるまで、唇を合わせた。

































一年生の彼をサボらせる訳には行かない。

「行こうか」

離れたくないと目で訴える彼に、手を差し延べる。

「ねえ、越前。今日から一緒に帰らない?」
「え?」
「用事がある時は我慢するけど。
出来るだけ君といたいから。ダメかな?」

越前は小さく首を振った。

「俺も、先輩と帰りたいっす」
「なら、君が着替え終わるまで部室で待ってるから」
「ハイ!」

手を繋いだまま、入り口へと歩く。
部活の時間まで、しばしのお別れだけど寂しくなんかない。
これからはもうずっと一緒だと、約束したのだから。

・・・手塚にも念を押された。

『もうあいつが苦しむ事は、無いんだな?』

彼が許すかどうかわからないよと言った僕に、手塚は笑っていた。
そんなの、あるはず無いと。

手塚の予言通り、越前は僕の手を取ってくれた。

何から何まで、手塚には世話になりっぱなしだ。
礼をしたくても、きっと首を振ってこう言うだろう。

『それより、あいつを幸せにすることだけを考えろって』
きっと手塚なら・・・そう言うに違いない。









ドアを閉める直前、振り返って空を見る。
二度と帰ることの無い場所。
後悔はしていない。

ここで人として生きていく。
彼と共に。

「越前」
「何?」

下の階に着く直前、唇を掠め取る。


「ふ、不意打ちは卑怯っすよ」
「人に見られるまで、もう一回しておきたかったんだ」
「・・・次は、予告して下さい」
「予告したら、いいの?」
「・・・っす」

照れたように笑う越前を見て、目を細める。

光り輝く美しい魂を持つ、君。

天使としての道を捨てた僕だけど、君の魂の輝きだけはまだ見える。
僕を導く、眩しい光。

「急ごうか、走らないと遅刻するかもしれない」
「先輩が足を止めるようなことするから」
「ごめん、ごめん」



空にはもう戻らない。

君の手を取って、これからの人生を歩いて行く。
この先も、もう離れたりしない。



チフネ