チフネの日記
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2004年07月19日(月) 天使不二と王子 46


さっきから鳴り続けるお腹を、ぎゅっと手で押さえる。

(情け無い)

人生最初の失恋をして落ち込んでいるというのに、
体は食べ物を欲求している。
その事実に、余計落ち込みそうになる。
自分が情けない。

(こんな時は、食べ物も喉が通らないのかと思ったのに)

そう思ったのに空腹感は収まらず、またお腹がぐぅと鳴る。

(もう、いい)

やけくそ気味に、立ち上がる。
どうせもう帰るつもりだったんだ。
家に帰れば晩御飯が待っている。
ヤケ食いでもしてやろうじゃないと、思考を切り替えた。


不二先輩に振られた後、俺はすぐに部室から荷物を引き上げた。
荷物が残っていたら、鍵を掛けて帰る人が迷惑だろうと、ぎりぎりの配慮。
でも出来るだけ人と顔を合わさないようにしたので、部室で着替えることもしてない。
未だレギュラージャージのまま。

それから、一人になれる場所を探した。
すぐに家に帰ったら、母さんに心配されて、親父にからかわれそうだから。
こんな、泣きそうな表情・・・見せられない。

そして無意識に歩いている内に、屋上に辿り着いた。

ここは、不二先輩がどういう人か知りたいと思った始まりの場所。
想いを断ち切るのに一番相応しい。


「二度とそんなこと、口にしないと約束して。
いいね、僕と君はただのチームメイト。それだけだ」

予想はしていたけど、ダメージは大きかった。

この恋は、決して実らないものだと宣言されたのだから。


明日からは、この悲しみも吹っ切って普通に先輩の前に立たなきゃいけない。
そして大会のことだけを考えて、部活動に専念するんだ。


でも、今日だけは。
悲しんでいてもいいかな、と思う。

完全に平気でいられるようになるには時間が掛かるけど、
出来るだけ普通の顔して部活に出るから。

今だけ思い切り、先輩のこと想っていていいんじゃないかって。

我ながら女々しいと思うけど、止まらない。
そんな風に先輩のことを考えていたら、いつの間にか疲れてしまって、
気付いたら壁に体を凭れさせて眠っていた。


幸いにも屋上への入り口の鍵は、閉められていなかった。
見回りの時間は、もう少し後かもしれない。
今の内にさっさと出た方が良さそうだ。
こんな所で何をやっているかと咎められたら、答えようが無い。
足音を殺して、夜の校舎の中を移動する。

他に動く者の気配が無いか探り、一気に階段を駆け下りる。

もう少しで、外だ。

帰る時間をかなりオーバーしていた。
かなり眠っていたみたい。
親父はともかく、母さんは心配しているに違いない。

校舎の外に出て、校門まで突っ切ろうかと身構えるが、
すぐ側に誰か立ってることに気付く。
先生だったらまずい。
そう思って身を小さくするが、

「越前?」

それは、今一番会いたくない人だった。


間違えるはずのない、声。
不二先輩だ。


なんで、先輩がこんな所に?

目を見開く俺の所へ、不二先輩は小走りで駆け寄って来た。

「良かった、ここで会えて。校舎に入っても、入れ違いになるんじゃないかって迷っていたんだ」
「・・・・どういう、意味っすか?」

まるで俺を探していたかのような。
そんな言い方に、眉を寄せる。

だって、俺を探すはず無い。
ついさっき、振られたばっかだよ?
その先輩がなんで俺を探すの?

そう思って俯く俺の肩に、先輩の手が触れる。

「君を探してた。家に帰って無いと聞いて心配したよ。・・・一緒に、帰ろう?」

その瞬間、俺は不二先輩の手を振り払った。

「越前?」

そして走り出す。
外へと。
不二先輩から少しでも遠ざかる為に・・・!



「越前、待って!」

追って来る気配に、走ったまま小さく首を振る。


待たない。
追って来ないで。
先輩の顔を、見たくない。

明日からはあんたの言う通りに、ただのチームメイトとして振舞うつもりだよ。
だから今は放っておいて。
優しくなんかしないで。

まだ気持ちの整理もついてない。
だからひょっとしてなんて、希望を持たせることしないで。


「越前、ちょっと待ってよ!」
「ヤダ!追って来るな。もう帰れよ!」


振り向きもせず、先輩の声に答える。

撒いてしまおうと全速力で走っているのに、なかなか先輩は諦めない。
焦ってきて、表通りでなく細い道へと入り込む。
ここで、振り切ってやる・・・!


「越前、お願い。君と話がしたいんだ」

聞きたく無い。耳を塞いで走る。
もうヤダ、こんなの。
心配して探しに来ただって?
中途半端に優しくした後で、どうせ突き放すつもりなんでしょ。
なら、もう何も言って欲しく無い。

走って走って、路地を抜けて行く。
周囲が当然目に入るはずも無く、ただ走っていた。


「越前、前っ!危ないー!」

先輩の叫び声に、ようやく前を向く。
でも、もう遅かった。

正面に、車が迫っている・・・・。

認識した瞬間、激痛と共に体が宙に飛んでいた。



チフネ