チフネの日記
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2004年07月15日(木) 天使不二と王子 42

放課後の部活動が始まっても、越前は姿を現さない。

(どうして・・・?)

越前と同じクラスメイトの堀尾は、コートで球拾いしている。
ついこの間委員の仕事で遅れてたから、今日は当番では無いはず。

どうしたんだろうと考えたところで、首を軽く振った。

部員の管理は手塚がやればいい。
僕には関係の無いことだ。

気持ちを切り替えようとラケットを握り締めた瞬間、
すぐ近くから大きな溜息が聞こえた。

「あー、どうしよー、困ったにゃー」
「英二。まだ大石と仲直りしてないの?」
「だって中々タイミングが・・・」

英二は朝からこんな調子だ。
大石も英二のことを気にしてちらちら見ているんだけど、
わかっているのかな。
二人共ごめんの一言で済むだろうに。

「話しかけ辛いなら、僕が大石を呼ぼうか?」
「いいよ!俺、頑張ってみるから」
とは言うものの、またすぐに「どうしよう」と情け無い声を上げている。

早く仲直りが出来るといいねと、英二の丸まった背中に呟く。

未だに部の空気はギクシャクとしたままだ。
手塚がいるおかげで、皆ちゃんと練習は続けているがただそれだけ。

桃は不在で。
大石と英二は仲違いしたまま。
タカさんはそんなメンバーを見て、オロオロとしてる。
海堂もライバル不在で張り合いが無いのか、いつもの迫力に欠ける。

―――こんな調子で関東大会は大丈夫なのだろうか。
一年も二年も、レギュラーもそう思っているだろう。

手塚はこの状況を改善する気あるのかな?
ちらっと手塚を見るけど、何をどこまで考えているか読めない。

(大会のことで不安なのは…僕も同じだけど)

このところまた天使が現れるのではと、気が気じゃない。
こんな気持ちで試合に集中出来るか怪しいものだ。

天使が現れないようにする為にも、越前との距離は絶対縮めてはいけない。
辛いが、仕方ないこと。

「あれ・・・・?」

ふっと目を向けたその先。
皆が待っていた人物が、コートへと走ってくる。

「今までサボってスミマセン!」

響き渡る桃の声。

皆驚いて、すぐに笑顔へと変わる。

「何やってんだよ、桃城ー!」
「一体今までどうしてたんだ」


どうやら部の方はなんとかなりそうだ。
そんな風が吹いてきた。


「大石、ごめん」
騒ぎの中、英二はさりげなく言いたかった一言を告げる。
「俺の方も言いすぎた。ごめんな、英二」
ほら、すぐに仲直り出来た。

「ふん、桃城。てめーは人騒がせなんだよ」
「なんだと、マムシ!」

海堂の言動は素っ気無いものでも、表情はわずかにほっとしたものになってる。
桃も文句を言いながらも、いつものやり取りを楽しんでるようだ。

タカさんは周囲を見て「良かったな」と優しく笑っている。


しかし戻ったからといって、無条件に迎えられることは無い。
部を理由も無くさぼっていたことに、当然ペナルティは下される。
勿論桃は当然だというように、手塚の前でじっと言われる言葉を待っていた。

「桃城、グラウンド100周だ!」

手塚の声に、ほぼ全員が「えーっ」と声を上げる。
100周なんて、無理だよと囁き合ってるがどうしようも無い。

「はい、100周っすね。わかりました!」
桃はそれでまた部に戻れるものなら簡単だと笑う。
あのまま戻れなかった方が、辛かったのだろう。


「そういや、越前はどこに行った?」

ふと周囲を見渡して、手塚が声を上げる。
こんな時に不在しているのかと、不審に思ったのだろう。

「誰か遅刻の理由を聞いているか?」
「あの、部長。それが」


背を小さくして桃が恐る恐る手を上げた。

「どうした、桃城」
「越前のことでー、ちょっと」
「何か知ってるのか?」

彼の名前を出され、手塚は早く言うようにと続きを促す。
小さなことでも聞き逃さないってことか。
手塚も大概わかりやすいよな。
常ならば桃に早く走って来いと言うだろうに。


「実は、越前が迎えに来てくれたんす。その、ストリートテニスにいた俺へ発破掛けに」
「そうか。だが、部活動の時間に抜け出したのは変わらない」

眉を寄せ、手塚はどうしたものかと考えているようだ。

「ちーっす」
そこへ越前がやって来た。
ちょうど今自分の話をされてるとも知らずに。

「越前」
「何すか?」

手塚に呼ばれ、てくてくと近くへ歩いて行く。

「遅刻したな。グラウンド100周してこい」
「えっ、何で!?」

ぽかんと越前は口を開ける。
当たり前だ。僕だって驚いた。

今日の練習に遅れただけで、桃と同等の罰。
二年生達でさえ、唖然としてる。

「無断で遅刻した罰だ」
「・・・・・・・わかったっす」

桃が横で、越前の脇腹を突付き、「おい、早く弁明しろ」と囁いている。
自分を迎えに来た所為で、走ること無い。
そう言ってるようだ。

しかし越前は手塚に対して、一切言い訳を言おうとしない。
黙ったままラケットをおいて、グラウンドへ行こうとする。


「ちょっと待て、越前」
「え?」
「100周と言いたい所だが、お前は50周だ。
全く部に関係ないサボりでは無いからな」

越前の後ろを追い掛けて、手塚が肩を掴む。

・・・50周なら、最初からそう言えばいいのに。
越前があっさり100周走ろうとしたから焦ったんだな。
桃を迎えに行ったことを感謝しているから、罰走を減らすと言いたかったのかもしれないが、
回りくどいんだよと僕は思った。

「さっさと走って来い。練習は始まってる。桃城もだ」
「はい」
「っす!」

手塚の声に、二人は力強く返事をした。
そしてグラウンドへと一目散へ走って行く。

「おっチビー!桃ー!とっととコートに戻って来いよー!」
英二が明るい声で、二人に声を掛ける。
前を向いたまま、越前が返事をした。
「ハイハイ、わかってるっすよ」
「ハイは一回だろ!」

そのやり取りに、皆が苦笑する。
生意気な態度はいつまでも変わらないが。
桃を迎えに行った越前を、少し見直しているみたいだ。


桃と走ってる越前の後姿を、眺める。

正面から見詰めることはもう出来ないが、こっそり見る位は許されるだろう。
一生、向き合うことは出来ないから、これ位。



僕はもう越前が二度と近付いてこないものと、決め付けてた。
手痛い言葉を返して、更に無視する。
普通なら離れていくところだ。


だけど僕はまだ越前のことを、よく理解していなかったのだ。
例え振られるとわかっていても、自分の気持ちをぶつけても構わない。
そんな強さも持っているんだって。

告白されるまで、気付いていなかった。



チフネ