チフネの日記
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2004年07月14日(水) 天使不二と王子 41

シャツを、引っ張られる。
さっきから人の後ろをくっついている堀尾達に。

「おい、越前。お前は桃ちゃん先輩のことが心配じゃねえのか?」
「リョーマ君・・・・」

すがるような目。
話題はずっと桃先輩のことだ。

そりゃ俺だって、気にならないはずが無い。
レギュラージャージを置いた日以来、桃先輩が部活に顔出さないこと。


「仲良くしてたくせに、冷たい奴だな」

冷たいって、なんだよ。
心配を口に出して言えば、それでいいって訳?

堀尾の手を、振り払う。


「俺にどういう行動期待してんの?」
「え?そりゃ・・・」
「心配なら、自分で様子見に行けばいいじゃん。
俺にやらすなよ」
「越前っ!お前は桃ちゃん先輩が部活に来なくても平気なのか?」

俺の気持ちを考えもしないで、そんな事言う。
うんざりだ。

「桃先輩ならその内来るよ。今はやりたい様にさせておいたら?」
「なんだとぉ?」
「ほ、堀尾君やめなよ」
「止めるなー!」
「リョーマ君もリョーマ君なりに考えているんだからさ・・・」

カチロー達が堀尾を羽交い絞めにしているのを幸いに、さっさと部室に行って着替えた。


桃先輩が部活に現れなくなって数日。
ここまで堀尾にからまれたのは初めてだけど、
会話に必ずと言っていいほど桃先輩のことが上がる。

でも、俺は絶対戻ってくると思っているから。
それまでほっといてもいいんじゃないかと、考えてた。
ショックはショックだったろうけど、部活を止めるはずないでしょ。
あれだけテニスを、好きなんだから。

あんまり遅いようだったら、「サボりっすか」とか言って挑発しに行ってもいいけど。

部の雰囲気も暗くなって来ているみたいだし。
皆、桃先輩のこと気にして戸惑っているようだ。



「あれー、桃のやつまだ来てないのー?」

コートに響く声に、皆が顔を上げた。
菊丸先輩だ。

桃先輩がレギュラーしたことを、この人だけが特別に思っていない。
校内ランキングの結果として、受け止めてる。
菊丸先輩に全く悪気は無い。

だから俺は眉を顰めたりしない。

けど。
部のことを人一倍思いやる大石先輩には、通じないんだよね・・・。

「英二!そういう言い方は止めろよ」
「にゃーに、ムキになってんの?」


険悪になっていくゴールデンペア。

大石先輩が菊丸先輩を突き飛ばしたことによって、
更に悪化していく。
関東大会を前にして、皆動揺している。
このままじゃ、まずい。


「何をしている、お前達!」

計ったんじゃないかと思うタイミングで、厳しい声が響く。


「手塚部長!」
「手塚・・・」

さすがの二人も、部長を前にして争いを続けることは無い。
けど、顔はお互い背けたまま。
しょうがないなあ・・・。


(こんなんで初戦は大丈夫なのかな)

コートを見渡して、そんなことを考える。

ふと。
何気なく周囲を見てた視線は、とある人物の前で止まってしまった。

無意識に、その人のこと追い掛けてる自分がイヤになってしまう。

(あ・・・・)

不二先輩は俺の視線に気付いた。
こちらを向く。
けど俺だとわかると、すぐに逸らされてしまう。



そんなに関わりたくないの?
目も合わせたく無い、位に。

(俺も、平気じゃないかも)



桃先輩や大石先輩、菊丸先輩だけじゃない。
俺もこんな状態で大会に出て大丈夫なんだろうか。

「越前」
「は、はい」

突然の部長の声に、慌てて背筋を伸ばす。
ぼやっとしていたのが、ばれて怒られるのかと思った。

「軽く打つのに、付き合ってくれるか」
「え、ハイ」

違ったようだ。
ラケットを持って先を歩く部長を追い掛ける。


「越前」
「はい?」
背中を向けたまま、部長が語り掛ける。
「また・・・一人で考え込んだりするなよ」

びっくりして、一瞬足を止めてしまう。すぐに、前へ進んだけど。

(俺が、落ち込んだのわかったんだ?)

イヤになる程、部長は鋭い。
苦笑、する。

「考え込んだりなんて、してないっす」
「本当か?」
「ハイ。今はいちいち落ち込む暇なんて、無いっす」

まだ部長は何か言いたそうに、「しかし・・・」と呟く。
それを聞こえなかった振りして、俺は反対側のコートへと急いだ。


そうだ。今はテニスに集中すべきで、落ち込んでる場合じゃない。
自分に言い聞かせて、部長が打つボールを待つ為に構えた。









「でもさあ、突き飛ばすことないと思うだろ。大石は神経質すぎるんだよっ」
「はあ」

部長が目を光らせてるおかげで、今日の部活はあれから揉め事は無く終わった。
けど、菊丸先輩は不満を抱えてたようで。
帰りに拉致されて、馴染みのファーストフードへ連れ込まれた。
奢りだから、いいけど。

主な内容は、9割が愚痴だ。

「大体レギュラー落ちしても、次のチャンスだってあるんだからさあ。
実際乾は、そうやって上がった訳だろ?
桃はさぼっているんだからさー、本当はそこを怒るべきだよな」
「先輩。大石先輩が怒ったのはもっと他に言い様があったってことでしょ。
あの雰囲気の中で先輩の発言はまずかったすよ」

だってー、と菊丸先輩は拗ねる。


「下手に気ぃ使う方が桃だって居心地悪いよ。
残念ー、また今度は頑張ってねん位フレンドリーに言った方が、あいつも気が楽だって」
「それはわかりますが、本人の居ない所で発言するのはまずいっす」
「やっぱりー、俺が謝るべき?」
「先にごめんって言うべきっす。大石先輩もきっと悪気は無いってわかってるよ」
「うん」


ちょっとすっきりしたようだ。
菊丸先輩は頷いた後、にかっと笑った。
そして手をつけて無かったハンバーガーにかぶり付く。

「桃の奴、早く顔出さないかな。
後からなんて気まずいだけだぞ。なあ?」
「ですよね・・・」


菊丸先輩と桃先輩と、何回か寄り道したことある。
今ここに居ないことが、ちょっとだけ寂しい。

(明日、桃先輩の所に行ってみるか)

うん、そうしようと頷く。


「桃に会ったら、早く出て来いって言うつもりだったんだけどさー。
教室行ってもつかまらないんだわ」
「教室に行ったんすか?」
「まあね。レギュラージャージ洗濯してから返却しろとも言わないと」
「・・・・・・・」
「冗談だって」
「わかってるっすよ」
「ならそこで黙るな」

はあ、と菊丸先輩は力無く笑う。

「あー、大石は今頃胃を痛めてそう。早く仲直りしよ」
「そっすね」

愚痴大会も区切りもついたので、俺達は店を出た。
途中まで一緒の道を、歩いて行く。


「ねー、おチビ」
「何すか」
「気になってたんだけど」

一旦、言葉を区切って菊丸先輩が頭を掻く。
なんだろ、と思ったら。

「ひょっとして手塚と付き合ってたりする?」

とんでもないことを言われ、がくっと転びそうになった。


「どこからそんな話が湧いて出たんすか!?」
「だって最近なんだか二人一緒にいるじゃん。不二とおチビは全然会話していないのにさ」

それは不二先輩が俺を避けているから、とは言えない。
きっとどうしてだと、菊丸先輩は不二先輩に詰め寄るだろうから。


「もしおチビが手と付き合ってるなら。二人に余計なことしたのかなって、思ってた・・・」
「心配しなくても、部長と付き合って無いっす」
らしくもなくしょげてる菊丸先輩に、笑ってみせた。

「それに不二先輩のことは、もうちょっと自分で考えてみたいんです。
ちゃんと話せる時が来るまで、そっとしてもらえないっすか?」
「おチビ」
「お願いします」

頭を下げると、菊丸先輩は「わかった」とそっと手で俺のつむじ辺りを撫でる。

「何か考えているみたいだね、おチビ」
「うん」
「協力出来ることがあるなら、俺に言ってよ。
いつでも力になるからな」
「お願いします」
「おっ、素直ー!」

今度はぐりぐりと頭全体を撫で回される。
ぐしゃぐしゃにされて、止めてよと逃げたけど。

心はまた少し軽くなってた。

部長、と菊丸先輩。
二人は俺のこと本当に心配してくれてる。

(ありがとう)


俺もいつまでも悩んじゃいけないと思う。
でなきゃ、ずっと二人に気を使わせてしまうから。
それにじっとしているのも、似合わない。

悩みを取り除く為に、行動しよう。
結果的に、傷付いてもいい。


(不二先輩に、告白するんだ)

まだ俺の気持ちはハッキリ伝えて無い。
受け入れてくれる望みは無くても、構わない。
嫌われたと悩むよりも、もう全部言ってしまって拒絶されれば、諦めもつくから。多分。

好きだって、言ってみよう。

関東大会に迷い無く挑む為にも。


チフネ