チフネの日記
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2004年07月12日(月) 天使不二と王子 39



都大会が、幕を閉じた。

青学優勝に皆、はしゃいでいて、
気付けば打ち上げは3次会まで続いていた。

でも、最初からその中に不二先輩はいなかった。
話、したかったんだけどなあ。

今日だけはと皆、勝利を喜んで。
そして、また新しい挑戦が始まる。

この先、関東大会にも勝ち残って全国への切符を手に入れる為に。
また新たにレギュラーの座を賭けて、部員同士で力を凌ぎ合う。

校内ランキング戦。
例えレギュラーといえども、油断の出来ない全力の戦いだ。

集中しなければいけないはずなのに。

俺は他事で頭を一杯にしていた。

「おチビー、今日からランキング戦だけど頑張ろうにゃ!」
「菊丸、先輩・・・」

抱きついてきた先輩を振り払う元気も無い。
そのままにして放置しておくと、「どうかしたの?」と顔を覗きこまれる。

「何か変なんだよねー、不二もおチビも。ねえ、あれから進展あったの?」
「・・・・・・」

進展どころか、悪い方へと転がっている。

都大会の時も、今日だって。
不二先輩が俺を避けているのは、明らかだった。
偶然、校内で会ったとき、先輩はすっと目を逸らしてまるで俺がいないかのように、擦れ違った。
こんなのって、ありだろうか。
都大会で「自意識過剰なんじゃない?」とキツク言われたりしたけど。
もっと前は、普通に話しかけてくれたはず。

どうして、こんなに距離が空いてしまったのか。本当にわからない。

「ねー、おチビってば!困ったことでもあったの?」
心配そうな目をしている菊丸先輩には悪いけど、あんまり騒ぎ立てたくないから。

「先輩」

肩に置かれた菊丸先輩の腕を、外す。

「俺、今はランキング戦に勝つことしか考えていない。他考えてる余裕なんて無いでしょ?」
「そーだけど、さあ」
「先輩も、頑張って下さいね。俺、今から試合だから行って来ます」
「おチビ・・・・・・」

さっと、先輩の側から走って去って行く。


勝つことしか考えてないなんて、よく言う。
頭の中は、そんなことで占められているんじゃない。
本当にどうしようもなく、一つのことだけで。

(不二先輩)
遠くからでも、あの人を簡単に見付けられる。全く重症だ。






今日の試合は2試合とも二年生が相手だったおかげで、こんな状態でも6−0で勝てた。
(明日は大石先輩が相手か・・・)


トーナメント表の結果を遠くから一人で睨んでいると、
「越前」と声を掛けられる。

「部長・・・」
「話がある。少し、いいか」
イヤですなんて、言える空気じゃない。
こくんと頷くと、部員達から離れた場所へと誘導される。


「今日の結果は6−0だったが、試合には集中してなかったようだな」
「・・・・・・」

ああ、やっぱりばれていたか。
気まずさから、目を逸らす。

「お前が何に囚われているのかは、わかってる。悩むな、とは言わない。
だが試合中はテニスだけに集中するくらいの強さを持って欲しい。
口で言うほど、簡単じゃないだろうが」
「・・・はい、わかってます」

部長は俺を責めているんじゃない。
優しい表情に、すぐわかった。
苦しんでるけれど、それでも強くなれと助言してるだけ。

そう言われたら、反発することも出来ない。
むしろ、期待に応えたくなる。
上手いやり方だなあ。
でも部長は天然で言ってるだけだろうけど。


「明日も、時間があれば試合を見るからな。頑張れ」
「ハイ!」
力強く返事すると、部長はわかってくれたかのように頷いた。
本当、部員想いだよね。この人は。

「それから、ここからは個人的な話になるのだが・・・」
「何っすか?」
「不二とは、話出来たのか?」

ゆっくりと、俺は首を横に振った。

「そうか」
「何か、避けられてるみたい。本当に嫌われたのかも」
力なく笑って見せると、部長の眉が寄った。

「それは違うと、言っただろう。あいつは、お前のことを本当に心配してた。
嫌いな奴の世話などするはずがない」
「でも・・・俺の方を見ようともしないし」

そこまで言って、ハッと口を噤む。
べらべらと部長に不満を喋ってしまうなんて、失礼じゃないか。
部長はたまたま都大会で俺の側にいて、巻き込まれただけなのに。
こんな話も興味無いはずだ。

顔、上げられなくて俯いたままの体勢で固まる。

「スイマセン。変な話、して」
ゆっくりと、声を出す。

同時に、帽子越しに軽い重みを感じる。
部長の手だ。

「顔を上げろ」
「部長」
「話すことでお前の気が楽になるのなら、それでいい。
構わないから、どんどん俺に話してみろ」

顔を、上げる。
部長の目は穏やかで。
嘘を言ってるようには見えない。

「ハイ」
「不二と話したいというのなら、なんとかしてやる。
遠慮せず、言ってくれ」

どうしてここまでしてくれるんだろう。
部長、だから?
それだけでここまで出来るのなら、この人は世界一の部長だと思う。
心から。


ありがとうございます、が言葉にならず。

俺は、黙って頭を下げた。


チフネ