チフネの日記
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| 2004年07月10日(土) |
天使不二と王子 37 |
越前の試合が始まった。
早速、挑発的な亜久津の態度に、会場が騒然とする。 その亜久津の目の前に立っている越前は、冷静だ。 怪我のお礼も出来ると考えているのか、ニヤっと笑う。
「おい。今から小僧を潰すからな。黙って見てろ」
不意に亜久津が青学側を向いて、ラケットを振り下ろした。
「にゃんだよ、あの言い方!おチビを潰すってヒドクない? 何かしたらただじゃおかないからなー!」 「英二、あまりそういう野次もどうかと」 興奮気味の英二に、大石がおろおろと宥める。 「越前、簡単に潰されるなよ。助っ人ならいつでも入るぜ!」 「バカか。んなことして反則負けになったらどうする」 「んだよ、マムシ!越前が潰されても構わないのか!?」 「誰もそんなコト一言も言ってねえだろうが」 「二人とも、こんな時にケンカしてないで、越前の応援しようよ」 桃城と海堂の間に、タカさんがこれ以上口論しない為間に入る。
やれやれ。亜久津の発言のおかげで、青学側はちょっとした騒ぎになってる。
「興味深い発言だな」
少し離れた所で、乾がノートに何か書き込みながらぽつっと呟く。
あえて無視してコートを見ていたら、 「不二、聞こえているんだろ。その確率99パーセント」という非常に鬱陶しい声が聞こえた。
「あのさ、乾。意味ありげに何か呟いていれば、いつも誰かから話し掛けてもらえると思ってたら大間違いだよ」 「不二、厳しいー。仕方ないだろう。俺は普通に人と会話出来ないからな」 「一般人との会話出来るするよう努力すれば?」 「しかし謎のデータマンという地位を捨てるのも、ちょっとな」 「どの辺が謎?」
呆れた声を出すと、乾は「まあ、そう言うな」とノートを閉じた。
「亜久津のさっきの発言。あれは特定の人物に向けて言われたと俺はみている」 「確率は?データマン」 「不二にデータマン呼ばわりされるのは微妙なものだな。確率は86パーセント」 「ふーん」 「そうやって、流そうとしてるが。お前も気付いているんだろう」
試合はもう始まっている。 越前と亜久津。 体格差のある二人だが、越前は上手く返している。 しかも。
「至近距離からのドライブボレー 強烈だ」 「やっちゃったね・・・」
亜久津の顔面にボールを叩き込んでしまった。 この事態に、荒井達が「よっしゃー!」と声を上げている。 よっしゃ、って喜ぶ所じゃないと思う。 だって亜久津がこれで越前君にもっと攻撃的になるかもしれないじゃないか。 そう思うと、この先の展開が心配だ。 また越前が怪我だらけになるんじゃないかと、怖くもなる。
「越前が心配?」 乾が僕を見て、言う。
「それもデータを取る為に必要なのかな?」 「まあね。不二の中では最重要事項みたいだから」 「憶測だけで物を言わないで欲しいな」
キッパリと告げて、僕は乾から離れようと背を向ける。
「これ位のこと、別に普段なら受け流していただろう。 それも出来ない位、余裕を無くしているのか?」
僕は答えなかった。
英二も気付いている。乾にも、感付いている。 そんなに僕の気持ちはわかりやすく、顔に出ていたのか?
なんてことだと、項垂れる。 これだけ僕の感情をを揺らしたのは、越前しかいない。 きっと、この先も。
「うあああーネットの下から現れたー!」
亜久津の動きが変化して、試合はまた雲行きが怪しくなってきた。
越前の勝利を疑っている訳じゃない。 今でも光輝く越前の魂。 亜久津の緩急をつけた動きに苦戦しつつも、越前は諦めない。 まだ挑戦し続ける目をしている。
(キレイだ・・・)
その輝きに、目が釘付けになる。 僕が惹かれた強い魂だ。
「不二」
また声を掛けられる。 今度は、手塚だった。
正直、今は話したくない相手だ。
「何?」 手塚はコートに目を向けたまま、言った。
「越前はきっと勝つだろう」
確信している手塚の声。 「だから?いちいち僕に言う必要ないんじゃないの」 僕もコートに目を向けたまま、言う。
亜久津の動きに、越前ですら精一杯のようだ。 でも諦めない。 一歩も引かずに戦っている。
「そうかな。今、越前を一番気にしてるのはお前だろう」 「手塚、何言って」
まさか手塚も気付いている? そっと横目で手塚の様子を伺うと、手塚もこちらを見ていた。
「不二。俺は試合が始まる前に、越前に本当のこと話した」 「本当、のこと?」 「ああ。今までお前が俺に、越前のことを頼んだ話。全部だ」 「全部って・・・」
言葉を失うって、こういう状態を言うんだ。
全身どこもかしこも動かない僕に、手塚は「そうだ」と頷く。
「越前のことを一番に考えているのは、不二。お前だ」 「・・・・・・・」 「俺よりも先に越前を見て、気遣っている。 どういう訳か自分で直接守ろうとしないが、越前を見守ってる気持ちに偽りは無い。 なあ、不二。そうだろ?」
目を逸らして、僕はフェンスをぎゅっと握り締める。
「不二。何か理由があって越前の側にいかないのか? だが越前はお前といることを望んでいるぞ。叶えてやってくれないか?」 「どうして・・・」
マッチポイントまで来ていた。 これを決めれば、この試合の気合いが決まる。
「叶えてやってくれなんて、頼まれてすることじゃないよ。 それに僕は越前なんか、別にどうとも思っていない」 「不二。嘘を付いてどうするんだ。何の得にもならない」 「嘘じゃないよ。本当に、越前はただの後輩だから・・・」
どうして、手塚は僕と越前を結ぶようなことを言えるんだろう。 好きなくせに。 自分だって越前のことを好きなのに。
理解出来ない。 好きな人の幸せだけを考えて、背中を押す。 自分だって悲しい気持ちになるはずなのに。 手塚は、それが出来るんだ。
そんな奇麗事が、本当にあるなんて。
「ゲームセット ウォンバイ青学越前。6−4!」
審判がコールを告げる。 試合は、越前の勝ちだ。
「頼む。越前と話をしてやって欲しい」 「しつこいね。僕は話をすることなんか何も無い。 付き合ってられないよ」
都大会優勝が決まった中、皆が歓声を上げる。
その中で、僕と手塚だけが黙って睨み合っていた。
「一体、お前を縛り付けるものは何だ。 そんな苦しい顔してまで嘘を付く必要がどこにある」 「手塚にはわからないよ。絶対に」
「不二ー、手塚ー!おチビちゃんが勝ちを決めたっていうのに、テンション低いぞー!」 「どうしたの、不二と手塚。何かあった?」 やって来た英二とタカさんに、手塚は「何でもない」と告げる。
「整列だな。皆、行くぞ」 「ほいほーい」 「やったな、俺達!都大会優勝だぜー!」
皆がコートへ歩いて行く中、僕は一番最後に付いて行った。
越前の方は見ないまま。
(手塚・・・君の方が僕なんかよりも、よっぽど天使らしいよ)
あんなキレイな魂には敵わない。 そしてやはり越前は、手塚と一緒にいるべきだと確信する。
僕なんかの存在に引っ張られるよりも。 手塚といる方が何倍も彼のためになる。
ただ、問題は越前の心が今間違った方へ向かっているだけ。
どうしたら手塚へ向けされることが、出来る?
チフネ

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