チフネの日記
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| 2004年07月09日(金) |
天使不二と王子 36 |
目の前の試合結果が信じられずに、呆然とする。
つい先日。 強い選手と認めたばかりの不二先輩が、山吹の選手相手に敗北していた。 ダブルスとはいえ、負けるなんて無いと思っていたのに。
(嘘・・・・)
何度瞬きしても、状況は変わらない。
青褪めている不二先輩と、心配そうに見ている河村先輩。 山吹サイドでは一勝を得たことに、大層盛り上がっている。
本当に不二先輩は、負けちゃったんだ。
「越前」 不意に部長が俺の右隣に立ち、声を掛けてきた。 「部長・・・」 「今の試合結果で、D2まで廻ることが確定した。 覚悟は出来ているか?」
何で今更、覚悟って? 首を傾けつつも、「ハイ」と答える。
「わかっているだろうが、お前の相手はあの亜久津だ。決して油断するなよ」 「そんなこと」 するかと、不満に思ったのが顔に出たらしい。
部長は腕を組んで、厳しく言い放った。 「しかし俺が見たところ、いつもより集中力が欠けてるようだが。違うか?」 「・・・・・・・・・・・」
即座に否定出来ないことが悔しくて、俯く。 どうせ誤魔化したって、部長にはばれている。
気にしないように振舞っても、さっきからずっと不二先輩を気にしている。 だって、しょうがないじゃないか。 不二先輩がいる所で、どんな顔したら良いかわからないのだから。 いつも通りって、どうしていたんだっけ? それもわからない。
俯いたままの俺に、部長はコホンと咳払いして、俺の肩に手を置いた。
「越前」 「何すか?」 「一つお前に言っておくことがある」
そう言いながらも、部長は中々続きを言ってくれない。 「その・・・」とか「どう言ったものか」ともごもご呟いている。
いい加減早く喋ってくれないかなと、欠伸が出そうになってくる。 ようやく喋りたいことが纏まったのか、部長は大きく息を吸った。
「大会が始まる前に、俺はお前のことをちゃんと見てるように頼まれた。 亜久津に怪我させられたこともあったから、会場で絡まれたりしないようにとも」 「これ、転んだだけっす」
それより頼まれたって、誰にだよ。 主語が抜けてる・・・。 部長って、言葉足らずの人だなと思う。
「転んだ傷ではないことくらい、皆知っている。 イヤ、今はそういう話をしたいのでは無い」 「はあ」 「俺が言いたいのは・・」
そこで言葉を区切って、部長はごくんと唾を呑み込んだ。 そして何か決断するかのように、もう一方の手も俺の肩に置いていった。
「全部不二に頼まれたことだ。 今までのことも、今回のことも。 あいつはお前のことを良く見ていて、心配している。とっても」 「・・・・・・・・・・・」
必死になって不二を弁明しているかのような部長に、 (なんでそんなことしてるんだ)と疑問を覚えながらも。 言われたことを、頭で繰り返す。
「そ、んなハズ無い」
出てきた声は、自分でも頼りないようなものだった。
「いや。間違いない。不二はお前のことを気にしている」 「その根拠は?」 「俺の主観だ」 「・・・・・・・・・・」
自信満々で言っても、あまり説得力は無い。 しかし堂々としている部長に、否定の言葉を投げかけるのも気が引ける。
「俺が見たところ、どうも不二は表立ってお前を守ろうとしているのを避けてる節がある。 しかしそのくせ、お前に気付かれないよう見守ってるな。一体何故かはわからないが」 妙だよな、と部長は眉を寄せる。 同意も出来ずに、俺は曖昧な表情をした。
「とにかく不二が何を言っても、本心ではお前のことを想っているというのを忘れないで欲しい」 「あの、部長」 「何だ」 「なんで俺にそんな話をするの?」
しかもやけに唐突だったし。 何目的なの、これって。
部長の目をじっと見ると、何でもないようにいつもの冷静な表情で言われる。
「このことを伝えれば、越前が喜ぶだろうと思ったからだ」 「は?」 「大事な試合前だ。このことを知れば、気落ちしたお前が元気を取り戻すと判断した」 「・・・・・・」
やっぱりわからない。 部長の思考ってどうなってるの。
「あのー、不二先輩が俺を気にしてると仮定して」 「仮定じゃない。事実だ」 「それは置いといて、なんでそれで俺が元気になるって思ったんすか?」
なんだ、と部長は目を瞬かせる。
「それは、当然だろう。お前が不二を好きだからだ」 「俺が、不二先輩を・・・・って、ええ!?」
声を上げると、部長がびくっと後退りした。
「急に大きな声を出すから、驚いたじゃないか」 「そんなことよりも!なんで俺が」 静かにと、口を塞がれる。
一応距離は空いてるけど、他の部員達がどうしたのかと俺達を見ている。
「スミマセン、取り乱したりして」 「俺の方こそ、動揺させたりして済まない」
ちょっとばかり沈黙が流れた後、部長が口を開いた。
「お前の気持ちは、何気なく見てた時ふと気付いた。それだけだ。 しかし俺以外は気付いているかどうかわからないから、安心しろ」 「そう、っすか」
もう菊丸先輩にばれてるとは言わずにいた。
「本当に不二はお前のことを、考えている。 俺には、よくわかる」 「はあ・・・・」
いまいち信じられずにいる俺の頭を安心させるように撫でて、 「心配するな」と部長は言った。
「あいつが何を考えてるか、今度聞き出すつもりでいる。 そうしたら報告してやるからな」
聞き出すと言っても、不二先輩の方が上手だと思う。 きっとのらりくらりと交わされるだろうとわかってても、 「はい」と素直に頷いた。
「あの、部長」 「どうした」 「心配掛けてスミマセンっ」
帽子を取って、軽くおじぎをすると部長は笑顔を向けた。
「俺が勝手にやってることだと言っただろう」 「でも」 「試合、負けるなよ」
そうだ。これだけ気に掛けてくれた部長の気持ちに、応えなければならない。
「ハイっ」 「その調子だ」
去って行く部長に、少し感動する。
本当部員思いだよなー、あの人。 皆に慕われるのも、当然か。
試合終った後、早速竜崎先生に呼ばれた。 「何やってんだい、不二。今回の試合の反省点を言ってみな」 「あの、先生。不二はなんだか調子悪そうだったから」 「河村は引っ込んでいな。私は不二に聞いてるんだからね」
全部わかっている。 試合が負けたのは、僕のせいだってこと。
「・・・・僕のせいです。もっと周りを見てやるべきだったと、反省してます」 項垂れる僕の肩を、竜崎先生が叩いた。 「わかっているじゃないか。なのにあんな試合するなんて、不二らしくないねえ」 「申し訳ありません」 「なら、次はもっとちゃんとやりな」 「ハイ」 「返事は大きく!」 「ハイっ!」
情けなくって、どうしようもない気持ちになる。
「不二、本当に大丈夫?」 「うん。ごめんねタカさん。足引っ張っちゃって」 「そんな、俺の方こそフォローが遅れて悪かったと思ってるよ」 優しいタカさんの言葉が余計辛くて、「ちょっと休憩するから」とその場を離れた。
手塚と越前が一緒にいるところを見ているのも、辛かったからだ。
きっと、越前は僕に失望したよね。 あんな負け試合を見せて、どうしようも無い奴と思ったかも。
それならそれでいいと自虐的に思う反面、それでも彼の失望が怖くもある。
あんな拒絶までしておいて、なんて勝手なこと考えてるんだろう。
こんなのが天使か。 結局僕は今も昔も何も変わってない。 天使としても、人間としてもダメなままだ。
チフネ

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