チフネの日記
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2004年07月08日(木) 天使不二と王子 35

勝手に勘違いして、バカみたいだ。
ちょっとでも希望があるなんて考えて、行動してしまった。

結果は、完璧な否定で。

『少し、自意識過剰なんじゃないかな』

そうだよ!
全くもってその通り。

先輩がちょっとでも俺のことを気に掛けてくれてるんじゃないかって・・・。
そんな期待してた自分が、本当に惨めだった。

擦っても勝手に流れてくる涙に、
(止まれ、止まれ、止まれ)と何度も命じる。
でも、また溢れて来て。

ああ、もうイヤだ。


先輩の視界から消える為走って走って走り続けて、
気付いたら会場の外れまで移動していた。

(そういえば、決勝・・・・)

やっと少し頭が冷えて、これから大事な試合があるってことを思い出した。
まだ時間は間に合うはずだけど、ここからどっちの方角に戻れば良いんだろう。

きょろきょろと辺りを見渡して、帰り道を探す。

不二先輩と顔を合わすのは、避けられない。
正直気まずいけれど、逃げ出す真似は出来ない。

元々、俺の勝手な勘違いだったんだ。

部活とこのことは関係ない。
割り切れ、と自分に言い聞かせる。

たとえ不二先輩が俺のこと、自意識過剰な奴って思ってたとしても・・・。

あ、ダメだ。
考えるとまた落ち込みそうになる。


とにかく次コートへの道を探さなくちゃって周りを見渡していると、
見知った人物が背を向けて立っていることに気付いた。


「部長?」

背を向けているけど、部長の後ろ姿だってわかってる。

「越前か・・・」
「はあ」

くるっと振り返った部長は、何か言いたそうな複雑な顔をしていた。

越前かって言われても見たままなんですけど。
それにしても、こんなところで何やってんの?
考え事しに人気のいないところまで来たにしては、おかしいよな。

首を捻りながら、部長へと近付く。

「そろそろ決勝だな」
「そうっすね」
「集合場所へ、戻るのか?」
「そのつもりですけど・・・」
「なら、行くか」

噛み合わない会話をして、部長は歩き始める。

何なの。
付いて来いってことか?
これで迷うことは無いからいいんだけど、
釈然としない。

「あの、部長」
「どうした」
「部長はあの場所で、何してたんすか?」

人気のいないところで、ぼんやりと立ってたようだけど。
しかも集合場所から離れた場所で、わざわざ。

いつもそんな風に時間潰しているんだろうか?

部長の横顔を見ると、「別に何もしていない」と答えられる。

「何もしてないって・・・会場の外れまでわざわざ来るのが趣味なんすか?」
「別にそういう訳じゃない」

はあ、と溜息をつかれる。
本当、何なの。

と、そこまで考えて、不意に思い出す。


『俺は青学部長として、今日はお前の側にいることに決めた』

今朝、そんなこと言ってたよな・・・。


「あのー、部長。聞いてもいいっすか?」
「俺が答えられることなら、いいぞ」
「ひょっとして俺のことを追い掛けて来た、が正解?」

まさかね。
だって不二先輩のところへ行って来ますと言った時、
部長は送り出してくれたんだから、その後の行動は知らないはず。

なのに、部長は「そうだ」とあっさり肯定した。

「なんでそんなコトするんすか!」

カッとなって、大声を出してしまう。

全部、見てたってこと?どこから?
不二先輩の言葉に悲しんでいた俺の表情とか、見てたんだ!?

最悪、と部長を睨みつける。

「何故って、今日はお前の側にいると言ったはずだ」
「でも、だからってこそこそと後付けることないでしょう!」

ほとんどが八つ当たりだと自分でもわかっているけど、止められない。
不二先輩との個人的な会話を聞く権利は、部長といえども無いはずだ。

しかもよりによってあんな場面を見られてたなんて。
頭に血が昇っていくのが、わかる。

「越前、ひとつ勘違いしているようだから言うが」
「何が!?」
「お前と不二が一緒にいるなら、問題無いと思っていた。
あいつがいれば、亜久津が来ても上手く対処出来るようだしな」

まだ睨んでいる俺の視線なんか、気にしない風に部長は続ける。

「だが、俺がお前を目撃した時には、一人だった。
一人でどんどん走ってしまって、周りには不二もいない。
だから追い掛けた」
「それって、えっと不二先輩と俺が一緒だった所は見てない・・・?」
「当たり前だ。何故、お前が大丈夫だとわかっていて側にいる必要がある」

自分が早とちりしたんだと、やっとわかった。

部長が追い掛けて来たのは、本当に偶然だったんだ。

「あの、スミマセン。なんか誤解したみたいで」

ぼそぼそと謝ると、部長は「気にするな」と言ってくれた。
しかも爽やかな笑顔付きで、だ。

「どうした?越前」
怪訝そうな顔に変わった部長に、慌てて目を逸らす。

「いや、あの。今の部長ってなんだか」
「なんだか?」
「若く見えました」

俺の言葉と同時に、部長はつまずきそうになる。

「部長!?」
「いや、大丈夫だ。なんともない」

たしかに転ばなかったけれど、額に汗かいてる・・・。
本当、大丈夫かな?

咳払いして、部長は何事もなかったように歩いてる。
だから俺も、それ以上ツッコミは入れない。

そのまま、再び集合場所へと歩く。


「普段の調子に戻ってきたか」
「え?」
「試合は、出れるな?」
「勿論っす!」

力強く答えると、「そうか」と部長は頷いている。

ひょっとして不二先輩とのことで、何かあったと察して気にしてたのかも。

「・・・何も聞かないんすか?」

思い切って、部長に尋ねてみる。
部員思いの部長のことだ。揉め事起こしたんじゃないかって、内心で動揺してるかもしれない。

「聞くとは、何をだ」
「さっき、不二先輩を追い掛けてったこと。とか」

そんなことか、と部長は首を振った。

「話したいのなら、聞く。そうでないのなら、当事者の問題だ。
俺に踏み込む権利は無い」
「はあ」
「いよいよ抱えきれなくなったら、放ってはおかないが。
そうじゃないんだろう?」

要するに、部長なりにそっとしてくれてるって意味?

つくづく良く出来た人だなあと、感心する。
普通、何があったかって気になって詮索してくるものなのにね。

「部長、アリガトウゴザイマス」

ちょっとした気遣いに、心が軽くなった。

さっきまで不二先輩と顔を合わせたらどうしようおかと、
混乱で一杯だったけど。
少し気が紛れたかな。

「・・・礼なんか、言わなくていい。俺がしたいから、行動してるだけだ」

そう。
肩に触れる大きな手に。
癒されるようで、心地良い。












全部、僕が決断して行動したことだ。
後悔など無い。
彼に正しい道を歩ませる為に、傷付けたことも。

・・・・いくら誤魔化しても、虚しい。
越前の涙に、まだ動揺している自分がいえる。


「不二ー、なんか元気ないね?」
「そんなことないけど?」
「手塚とおチビが一緒だったの、みたからだろ。
だから言ったじゃん。手塚は油断ならないって」

いつそんなこと言ったと、英二に反論する気力も無く、黙って項垂れる。

これから試合だというのに、僕の心は越前に気を取られたままだ。


集合場所に現れた越前は、僕を見てもいつもと変わらない顔をした。
些細な変化はあったが、事情を知らない人から見たら普段通りだろう。

僕が彼の心を、傷付けた。
もう二度と、前のようには戻れない。


視線に気付き、横を向く。
僕を見ている手塚と、目が合う。

特に睨んでいるワケじゃないけれど。
非難されてる気がして、すぐに僕は顔を背けてしまった。

(手塚と越前が一緒だったってことは。
さっきのやり取りの後、追い掛けたんだろうな・・・)

あれからずっと側にいて、越前を慰めてたの?

責めることなんて、出来やしない。

そうして二人の距離が近づいていくのを、望んでいるはずだから。
手塚と越前と。



「不二?試合、始まるよ?」

行こうかと、タカさんが顔を覗き込む。

そういえば、D2だったような。
重要な決勝が始まることを、やっと思い出す。

こんな状態で、試合出来るのか。

今まで一番不安定な状態の中、決勝が始まろうとしていた。


チフネ