チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2004年07月06日(火) 天使不二と王子 33



勝つ、つもりだった。
この先もどんな技を先輩が出そうが、破ってみせるつもりだった。
そして俺のこと、認めてもらうんだ。

雨がどれだけ降ろうと。
決着を着けようと、高くボールを上げたのに。


「同じ部内の者同士、いつでも出来るだろうが」

ばあさんからのストップに、俺は不満たっぷりの顔をした。

何故かわからないけど、今やらなくちゃいけない気がしたからだ。

「残念だけど、この勝負おあずけだね」
笑って、先輩がラケットを下へと下ろす。
さっきまで俺のボールを返した人と違うみたいな穏やかな笑顔。
もう試合続行の意志は無いんだと、察する。

「ずるいっすよ。自分が4−3で勝ってるからって・・・」

勝ち逃げされるのは、嫌いだ。

「いい加減にしないか!」
ばあさんに頬を抓られ、仕方なく俺も中断を認めた。
ものすごく、不本意だけど。

「ほれ、さっさと着替えんかい」
そのまま追い立てられ、ばあさんの手に寄って部室に放り込まれてしまう。

しかし何故か先輩は、まだ部室に来ない。
雨の中、何やってんだ?
着替えなきゃ風邪引くっていうのを、不二先輩にも言ってやって欲しいよ。

でも顔を合わさない方が良かったのかもしれない。

「越前ー!雨が止んでるみたいだから、今の内に帰るぞ!」
「ういーっす」

送ってくれるらしい桃先輩に返事して、さっさと着替える。


4−3だから、逆転の可能性はあるけど。
負けてたのは、事実で。

正直、悔しい。

技を破った時、少しは俺のこと認めてくれたのかなとは思った。
でも、また余裕の笑みを浮かべる先輩を見て、まだまだだと悟った。

もっと、追い上げなくっちゃ。
そうでなきゃ、俺のこと認めてくれない気がして、本気を出した。

なのに、結果は4−3で。

情けない、と軽く手で頬を叩いた。


でも、まだこれからだよな・・・?












都大会当日の朝。

さすがに遅刻はまずいと思い、目覚ましを二つセットして寝た。
なのに、いつの間にか止めていたみたい。

俺を起こしたのは、部屋へ入って来た菜々子さんの声だった。

「リョーマさん、起きて下さい!」
「・・・・・菜々子、だん?」
「部長さんがお迎えに来てますよ!」
「え!」

部長、の単語に反応して布団を跳ね除ける。

「部長って!?」
カルピンがびっくりして、開いてたドアから逃げて行く。
菜々子さんは少し慌てた口調で、「急いで下さい」と言った。
「今、下で待っています。早く着替えて、降りて来て下さい」
「部長が?」
「そうです。手塚さん、と名乗っていましたけれど」

間違いない。
手塚部長だ。

大急ぎで用意していたレギュラージャージに着替え始める。

そういえばこの間送って貰ったんだ。
俺の家、知ってて当たり前か。
その前にも遅刻しないように迎えに来ようとかも、言ってた気がする。
でも、俺は断ったような・・・。

って、今はそんなのどうでもいいか。とにかく急ぐのみ!



荷物を肩に掛け、勢い良く階段を降りると、
椅子に座ってた部長と目が合った。

「おはよう、越前」
「・・・っす」

遅刻しそうな時間まで寝ていたことが気まずくて、ちゃんと顔が見れない。

「リョーマさん、朝ご飯を食べる時間はありますか?」
どうしようかと聞いてきた菜々子さんの方へ、体を向ける。
「無理、かも」

空腹なままで試合っていうのはキツイけど、途中で何か買えばいいし。
そう思っていたら、急に部長が立ち上がった。

「ゆっくりは無理だが、急いで食べれば問題ない。
朝食はきちんと、取った方がいい」
「ですって。リョーマさん、早く、早く」
「え・・・・っと」

菜々子さんに手を掴まれ、食卓に座らされる。

和食じゃないと文句言ってる場合じゃない。
トーストを大口開けて頬張り、牛乳で流し込む。
デザートに出たキウイも一口だ。

「部長、終わりました」
「・・・・いくらなんでも、早過ぎるぞ」

俺の食事風景を見ていた部長が、眉間に皺を寄せる。

だってしょうがないじゃん。
もうぎりぎりの時間なんだから。
まあ、起きれなかった俺のせい、だけど。



「行って来ます!」

頑張って下さいと言う菜々子さんに、軽く手を上げて玄関を出る。

先に出た部長に、小走りで追いつく。

「間に合いそうっすか」
「大丈夫だ。のんびりしなければ、間に合う」

それでもちょっと早足で、バス停へと歩く。

「部長」
「なんだ」
「その、アリガトウゴザイマス。
部長が迎えに来なかったら、遅刻していたかもしれない・・・」

少しずつ声を小さくして行きながら、言葉を探す。

グラウンド50周かな、これも。
結局起きられなかったのは、事実だし。

だけど部長は俺が考えと、全く違うことを口にした。

「別に礼を言われる程じゃない」
「え?」
「俺がそうしたいと思ったから行動したまでだ。
お前が気にすることは、無い」
「・・・そーっすか」

要するにこれも部長としての努めの一つってこと?

わざわざ家の近くでもない後輩を起こしにくることが・・・?
でも、部長だからなあ。
自分で何かの使命に燃えちゃったのかも。

あり得ると、俺は心の中で頷く。

で、結局お咎めはあるんだろうかと考え始めていると、
ずっと前を向いたままだった部長がこっちに視線を向けた。
斜め下なのが、微妙にムカつくけど、まあそれはいい。

「迎えに来ようと思ったのは、
お前が会場を入る時にトラブルに巻き込まれないようにする為でもある」
「はあ?」
「また、転んだりしたら大変だろう」
「俺、そんな鈍くないっすけど」

はあ、と部長が溜息を付く。

「つい最近、’転んだ’ばかりなのを、忘れたのか」


それで、思い出した。

亜久津のこと。
あの凶悪な面構え。
絶対、試合中に叩きのめしてやると誓ったんだった。

亜久津が青学に来て、俺やカチローに石を投げたことは内緒になってて。
表向きには、転んだことになってる。
勿論、部長はそんな下手なウソわかってるんだろうけど。

もしかして、会場前で亜久津と鉢合わせすることを懸念して、
家に来てくれたとか?
そりゃ、遅刻の心配も入っているだろうけど。
たしかにまた問題起こされたら、大会どころじゃなくなるもんね。


「覚えてるっす」

そうだろ、と部長は頷く。

「大会へは、ベストな状態で望む。
その為に迎えに来た。今日は、一日俺の側についてろ」
「でも、部長」

なんかこそこそしてるみたいだ。
そんなのイヤだったから抗議をしようとするけど、
部長の声に遮られる。

「頼む。今日一日言う通りにしてくれ。
それに、これは不二の提案でもある」
「不二先輩が!?」

意外な名前に、俺は目を見開く。

そうだ、と部長は続けた。

「昨日の帰り、不二が言ったんだ。
亜久津と接触して、またコトが起きたらまずいと。
だから俺は青学部長として、今日はお前の側にいることに決めた」
「なんで、不二先輩がそんなこと言うんすか。
部長の人が良い所に付け込んで、面倒押し付けたりして・・・。」

わけわかんない。

忙しい部長に頼むよりも、自分でやればいいのに。

面倒だから、人に任せようと思ったの?
やっぱり俺のことなんて、好きでもなんでも無いのかもしれない。

がっかりしながら顔を伏せていると、部長が俺の頭に手を置いた。

「部長?」

くしゃくしゃっと髪を撫でられる。

「不二の考えてることは、俺にはよくわからんが・・・。
あいつはちゃんとお前のことを、見てると思う」
「え?」
「今回の件だって、俺にはそこまで気が回らなかった。
お前を気にしてたのはあいつだけだ。その点はわかってやれ」

もう一度髪を撫でて、部長の手が離れる。

ひょっとして、慰めてくれたんだろうか?

部長の顔を横目で見ると、なんだか複雑そうな顔をしていた。

「一つだけ言っておくが、俺は面倒を押し付けられたなんて思っていないからな」
「わかってるっす。部長が後輩のことを、面倒なんて思うわけないでしょ。
それくらいは、俺でもわかりますよ」

責任感の強い部長を一生懸命褒めたつもりだったけど、部長の眉間の皺は増える一方だった。

なんか、言葉を間違えたかな?

「なかなか、フェアにっていうのは難しいものだな」
「なんの話っすか?」
「イヤ、こっちの話だ」

試合が始まる前から疲れ気味の部長と、もう少しスピードを上げて会場へ向かった。


チフネ