チフネの日記
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2004年07月04日(日) 天使不二と王子 31


驚いた。
朝一番に不二先輩と会ってしまうなんて。
そりゃ部活に出れば顔を合わすのは普通なんだけど、そんないきなり過ぎる。
もっと心の準備が必要なのに。
どんな顔してたっけ?全くわからない。
ドキドキする心臓を煩いと思いながら、手早く着替える。
また遅刻したら怒られてしまう。
あんまりそういうみっともない所、不二先輩に見られたくないと今更そんなことを考える。
・・・・・・・・・重症、みたい。
昨日から、ううんもうずっと前から不二先輩のことで頭が一杯なんだ。

あ、そうだ。
一つ大事なことに気付く
菊丸先輩には口止めしとかないと。
昨日はパニックになっちゃって、あの後ろくな会話出来なかったんだった。
とりあえず自分でどうにかするから、黙ってて下さいって言っておくべきだ。
騒がれて、不二先輩と気まずくなるの、嫌だし。

本当に菊丸先輩が言ったように、不二先輩が俺のこと好きなのかなあ。
気になる。不二先輩がどう思ってるのか、ものすごく気になる。
聞きたいような、怖いような。
それでいて、好きでいて欲しいと願ってる。

こんなの初めてだ。






朝練では、なるべく不二先輩の方を見ないようにした。

『不二の目も、おチビと同じ。
好きですーって訴えてるんだよ。今度ちゃんと気付いてあげなよ』
うん、気付きたいよ。
でも今そんなの見たら、思わず声上げそうだ。
自分の気持ちを静める為にも、思い切りテニスに集中してた。

「越前、気合い入ってるよなあ」
相手してくれた桃先輩が、感心したように呟く。

「やっぱり、亜久津の件があるからか?」
「え、っと。そうっす!それそれ」
怪訝な顔をする桃先輩に、慌てて取り繕った。

亜久津って?とすっかり忘れてたことを思い出す。
ダメだな。
こんな調子で奴を叩きのめせるのか?
イヤ、やらなくちゃ。
この傷の借りは、必ず返してやらないと。

よっし、と気合いを入れなおす。

「桃先輩、もう一回打ちましょうよ」
「おいおい、時間見ろよ。朝練終わるところだぞ」
「あ」

気合い入り過ぎと、桃先輩に笑われてしまう。
いいけどね。
変に勘繰られるより笑われてる方がマシだ。

「おチビっ、今日も頑張ってるじゃん」
「菊丸先輩!」
急に抱きついてきた菊丸先輩に、目を見開く。

そうだ、口止めしなきゃいけなかった。
って、近くに不二先輩は、いないな。

ちょっと、と桃先輩から離れて、菊丸先輩に小声で訴える。
「昨日の件っすけど」
「なーに。もしかして余計なことするな、何も言うなって?」
「その通りっす」
言いたいこと全部わかっていたようだ。
ちょっと安心する。
「・・・同じ反応だにゃー」
「え?何が?」
「ううんっ。わかってるよん。おチビが不二をって、絶対言わないからね」
普通位の声で言われて、慌てて俺は周りを見渡す。
良かった、誰もいない。
「お願いしますよ」
「うん。今度は何奢ってもらおうかな」
「・・・マジっすか」

集合の声に反応して、走り出す。

まずは一つの不安は、解消したな。


けど、これからどうしよう。
いつまでも不二先輩のこと見ないようにしている訳にもいかない。
見ちゃうと意識するからって避け続けてたら、嫌われることだって有り得る。
そんなの、絶対ヤダ。

だったら、さっさと気持ちを伝えるとか?
勿論、動かなきゃ今の事態変えられないのはわかってる。

なら、いつそうしようか。
さすがに都大会前の今はまずいよな。

あれこれ考え過ぎて、熱が出そうだなんて思った。







けれどそんな俺の悩みなんかおかまいなしに、物事は動いていく。

意識しまくってパニックしてるというのに、
不二先輩と向き合わなくちゃいけない事態になるなんて、嘘だろ・・・。



「これから紅白戦を行う」

放課後の部活。
乾先輩のとんでもない汁から逃れたくて、全力で走ってすぐのこと。
部長が俺達の方を向いて告げる。

「不二・・・それと越前!まずはお前達からだ」
「「え」」

不二先輩も予測してなかったのだろう。
お互い思わず出した声が、ハモった。

不二先輩と、試合?

後ろを向くと、珍しく驚いた顔した先輩が見えた。
俺の視線に気付いて、すぐにいつもの表情になったけど。


「お手やわらかに」

先にコートに入ってしまって、涼しげにそんな風に言う。


なんだよ、余裕あるじゃんか。

悔しいと、思いながら俺もコートに入る。
気持ちは隠したまま、先輩と向き合う。

その余裕な表情を壊してしまいたいよ。
全部。

俺にはそんなもん最初から無いよ。
だから全力でやってやる、と息を吐いた。

「越前のステップ・・・スプリットステップだ!」
「どこにそんな体力残ってんだよ」

聞こえてくる外野の声に、当然だよと思う。
最初からこの位の気合いでいかなきゃ、敵わないだろう。

「不二先輩」
俺がステップするのを見て、嬉しそうな顔するのに気付いてた。
向こうも、少しはやる気になったみたいだ。
そう来なくっちゃ。
「倒しちゃってもいーんすよね?」

返事は無い。
少し唇を上げて笑っただけ。

やれるものなら、やってみろってことか。
ふん、絶対本気を引き出してやるよ。

「不二  サービスプレイ!」

サーブをする先輩の一挙一動を見ながら、俺も次の動きに備える。

この試合、負けられない。


チフネ