チフネの日記
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| 2004年07月02日(金) |
天使不二と王子 29 |
用事があると断って、今日の部活を休むことに決めた。 皆、まさか僕が山吹中に向かっているなんて思いもしないだろう。 英二ですら、今日休むと言っても何も疑わなかった。 そうだよね。僕がこんな行動起こすなんて、きっと誰も考えもしない。 僕だって、自分自身に驚いているくらいだ。
越前を傷つけられたこと。
それが今、僕を動かしている。
亜久津って奴は、危険だ。 もう二度と彼に近付けさせたくない。
試合前に、亜久津にはしっかり忠告してやろうと考えている。 勿論ケンカするのが目的ではないが、向こうの出方次第では止むを得ないことだって起きるだろう。
(負けるつもりは無いけどね・・・・)
亜久津が強かろうが、どうでもいいことだ。 ただ大会前だから、人前で殴りあうことだけは避けなければならない。 問題はそこなんだよなと考えていたら、あっという間に山吹中の前にバスは止っていた。
まずは、テニスコートを探すことにした。 真面目に練習しているとは考え難いけど、最初の手掛かりとしては妥当な線だろう。 その辺りを歩いていた生徒に、テニスコートの場所を聞いて、歩き始める。
「いない、か・・・」
山吹中の練習風景は、青学と違って和気藹々としているように見えた。 それでも都大会の最中だから、真面目にやっている感じだ。 その中に亜久津の姿を探してみたが、英二が言っていた特徴のある男はいない。 (がたいの良い長身で銀色の髪を立ててる奴は、いないよな)
まさか今日もどこかの中学を襲撃しているとか。 ありえることか、と僕は眉を顰める。 とりあえず、今日の練習に出るかどうか誰かに聞いてみるか。
ちょうど出入り口から越前とそう変わらない身長の子が出てきたので、 慌てて捉まえてみることにことに決めた。
「あの、ちょっといいかな?」 「はい?なんですか?」
山吹中と違う制服が珍しかったのか、その子は僕の全身を目を瞬かせながら何事かと見ている。
「ここに、亜久津って選手いるでしょう。彼、今日は休みなのかな?」 「亜久津先輩に御用、なんですか?」 不審な目を向けてくる彼に、笑顔を向けて話す。 「用って程じゃないけど。ちょっと、話したいことがあるから来たんだ。昨日の件で、ね」 「はあ・・・そうですか」 知り合いか?という目を向けたので、あえて否定せずにもう一度「いないの?」と尋ねる。 「たぶん、どこかで昼寝してるんだと思います。練習はいつも来たり来なかったりだから、今日も来るかどうかはわかりません」 「そう・・・。一応、その辺りを探してみるよ。また戻ってくるから、もし亜久津が来たら引き止めてくれないかな?」 「良いですけど・・・。あの、お名前は?」 「青学の生徒、と言ってもらえばわかるよ」
これで亜久津が来たら、会えるかもしれない。 まだ何か言いたそうな彼に背を向けて、その辺りを探し始める。
大会前に、昼寝か。 随分余裕があるらしい。 ケンカは強いかもしれないが、テニスの腕とは別だ。 全く、なんて奴に越前は因縁つけられたのだろうかと、眉を顰める。
「おい。てめえ、そこで何してる」 「え?」
亜久津を探して、10分程過ぎた。 さすがに校舎内まで入っていく訳にはいかず、もう一度テニスコートに行こうかと思っていた時だった。
低い声に振り向くと、機嫌の悪そうな男がこっちを睨んでいた。
「他校の生徒が何してる」 「何って」
瞬時に、僕は気付く。
今、目の前にいる男が、英二と言ってた特徴と当て嵌まることに。
「ひょっとして、キミが亜久津・・・?」 「なんだ、てめえは。俺の名前知ってんのか?」
拳を握り締めた亜久津が、こちらへゆっくり歩いて来る。
まだ、手を出しちゃだめだ。 相手が殴りかかってこない限り、手は出さないと決めて来たのだから。
「うん。僕は青学のテニス部レギュラーなんだ。昨日の件でキミに話しておきたいことがあって、ここに来た」 「文句でも言いに来たのか?」 低い唸り声を上げて、亜久津は僕をじろじろ睨みつける。 それに怯まず、僕は顔を上げてはっきりとした声を出す。 「越前に怪我させたこと、僕は許すつもりはない。例え本人が転んだって言い張って、キミの仕業だと言わないとしてもね」 「だから、どうした」 「金輪際、越前に近づかくな。もちろん、今度の大会でも」 「なんだと。てめえが決めることじゃないだろ」 亜久津の声に、怒気が含まれる。 今にも殴りかかりそうな、表情もしている。 「指図するな。小僧にはもう言ってある。決勝まで来たら、遊んでやるってな」 「だから、その決勝でも近付いて欲しくないって言ってるんだ」
言うなり、亜久津の拳が僕に向かってくる。 そう来るだろうとわかっていたので、瞬時に交わし、さっと亜久津から距離を取った。
「指図するなと言っただろうが。小僧と俺の遊びに入ってくるんじゃねーよ」 「そう。どうしても聞いてくれないってことのようだね。でも僕も引く訳にはいかないんだ」 「しつこい。すぐに失せろ」
また亜久津が拳を繰り出す。 上段、下段。左右に二発ずつ。 全部を交わし、懐に飛び込もうとするとすかさず蹴りが来る。 持っていたバッグでガードし、その間に横に回りお返しにと蹴ろうとうするが、流石に素早くかわされてしまう。
「なんだよ、テニス部員じゃねえのか」
くっ、と面白そうに亜久津が笑う。
「テニス部員だよ。でもキミにはこっちのやり方が効果的だろう?」 「フン。面白ぇな」 構え直し、亜久津が身構える。 今度は本気で殴りに掛かってくるだろう。 ならば僕も本気で立ち向かおうと、防御の構えを取る。
「亜久津先輩ー!!何、やってんですかあああああー!!」
緊迫した空気を破ったのは、甲高い声だった。 身構えていた亜久津が、ちっと舌打ちして振り返る。
「お前こそなにやってんだ。今は練習中だろうが」 「それを言うなら亜久津先輩もじゃないですか!って、今何やろうとしてたんですか? ケンカですか?ケンカはだめですよ!」 わたわたしながら騒ぐその子は、さっき亜久津への伝言を頼んだ子だった。
「おーい、壇君ー!亜久津、見付かったぁー?」 そこへ、またのんびりした声が響く。 「・・・またうるせえのが、きやがった」 「あー、いたいた亜久津ー!伴爺がお待ちかねなんだよー。行ってやってよ!お願い!」 亜久津の前で手を組んでお願いのポーズを取っているのは、 山吹中のエース、千石だった。 「行くかよ、爺なんて知るか」 「だって行かないと、また追い掛け回されるよー?亜久津はそれでもいいの? 今行った方が後々楽だと思うんだけどなあ」 溜息交じりの千石の声に、亜久津はぐっと眉を寄せて、「しかたねえ」と呟いた。
一体、山吹中の練習ってどうなってるんだ・・・・?
「おい、てめえ」 亜久津が僕の方を振り返る。 「何だい」 「小僧がてめえをけしかけた訳じゃないんだろ?今日来たのは、てめえの判断なんだよな?」 「そう、だけど」 何々?って顔して千石が亜久津の周りをうろうろしてる。 それを顔面に手を押し当てて制して、亜久津は僕をバカにするように笑った。 「小僧が聞いたら、何て言うだろうな。あいつなら、自分の手で昨日の件着けるって言うだろ? 余計なお節介はやめといた方がいいんじゃねえのか?」 「そんなの、わかってる!でもキミを越前に近付けさせたくないから、ここに来た。 今、ここで約束させる。もう、二度と越前に手出ししない、と」 「でも残念だったな。さすがにギャラリーがいたんじゃ、それ以上手も出せないだろ」 「・・・・・・・」
たしかに、これ以上騒ぎを起こしたら青学が出場停止になる危機になる。
「小僧のことは、小僧が決めるだろ。 それともてめえは、何か口出し出来る権限でも持っているのか?」
ぐっと奥歯を噛んだ僕を全く見ないで、亜久津はさっさと行ってしまった。 「亜久津先輩ー!待って下さいですー!」 それを追い掛けて、小柄な彼も走っていく。 意外な感じだが、どうも今の彼は亜久津を怖がっていないようだ。
「ねえねえ、天才不二君だよね?亜久津と何話してたの?」 残された千石が、興味深々といった感じで僕に話しかけてきた。 「別に」 言うつもりがなかったので、僕は素っ気無い言葉を返し、バッグについた汚れを払う。 「なんか揉め事みたいだったけどー。人の学校でそれは困るんだけどなあ」 ね?っと千石は笑う。けど、目は笑っていない。 好奇心で聞かれるのもうざかったので、僕は強い口調で牽制する。
「それはそっちも同じだろ。昨日、亜久津が何をしたか聞いてみるといい」
半分脅しみたいなように言うと、千石は焦ったように口をぱくぱくさせた。 それに構わず歩き始めると、何故か追っ掛けて来られてしまう。
「ちょ、ちょっと今の話聞かせてくれない?まさか亜久津の奴、青学で何かやらかしたの?」 「さあ。そういうのは本人に聞いてよ」 「亜久津が言う訳ないじゃん!なあ、頼むよ。俺達も大会前に、揉め事あるとなったら本当にまずいし。 教えて下さい。お願いします!」 鬱陶しい程拝み倒され、渋々といった感じに僕は昨日の件を簡単に伝える。 亜久津を押さえ込んでもらえる、良い機会かもしれないからだ。
「え、越前君に怪我・・・亜久津の奴〜。昨日さぼってたと思ってたら、そんなことしてたなんて」 うわあ、と話を聞き終えて、千石は頭を抱えた。 「とにかくこれ以上厄介なことにならないように、亜久津は見張っといた方がいいんじゃない?」 「そうかも。でも俺達の言うこと聞くような奴じゃないし」 「それじゃ困るんだよ!」 声を荒げて、僕は千石に詰め寄る。 「亜久津がまた越前に怪我させるようなことがあったら、今度は誰が見ていようと黙っていないから。 その前に奴がちょっかい出してこないようにロープででも縛っといてよ」 「そんな無茶苦茶な」 「無茶苦茶でもやってもらわないと、そっちだって困るだろう。 都大会では絶対に、越前に近付かないように万全の体制を整えておいてよ」 「はは・・・まあ、部長に相談しておくから。とにかく、この件は内緒でお願いします」 スミマセン、と千石は苦笑する。 そんな謝って済む話じゃないよ、全く。
「でもさ。不二君って、本当に越前君のことが心配なんだねえ」 ふと話題を変わり、千石が感心したように呟く。 「当たり前だろ。青学の大事なルーキーなんだから」 「でもー。だったら手塚君辺りが動くのが普通じゃないの? もしかして、不二君一人の判断でここに来た?」 なかなか鋭い千石に、「さあ」と曖昧に返す。
「あー、やっぱりそうなんだ。だろうと思った」 「僕、否定も肯定もしてないんだけど・・・」 「だって、さっきの不二君の顔。すっごく怖かったもん。 俺、本気でびびってた。亜久津は平気みたいだったけどさあ。許さない!ってオーラ出しまくりだった」 「・・・・・・・・・・・・」 「越前君が怪我したから、怒ったんでしょ。 不二君って、すごい後輩思いなんだね」 「言ってれば」
僕の言葉を照れ隠しと勘違いしたのか、千石は「そうだよ!」となんて言いながら笑ってる。 これ以上相手にしないと決めて、今度こそ僕は千石に背を向けて歩き出した。
「今日の件は、昨日と同様に、内密に。亜久津のこともよろしく」 「不二君ー!?そんな無茶なこと、俺一人じゃ無理だよー!」 「よろしく」 「ちょっとー!」
後ろを向かずに、片手を上げる。
この分だと亜久津を説得するのは、難しそうだ。 下手したら、越前に僕がやってることをばらしかねない。 大会の間は、越前の側にいて亜久津が近付いてこないようにと、 手塚に言っておくか。
勿論、僕も気付かれないように側にいて、見張っておくつもりだけれど。
亜久津は危険だから、もう近付かないで欲しい。 そんなこと願っていても、口出しする権限なんて無い。
わかってるよ、それ位。
本当むかつく奴だと内心で亜久津を罵り、山吹中を後にした。
チフネ

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