チフネの日記
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| 2004年07月01日(木) |
天使不二と王子 28 |
授業が終わってすぐに、部室まで早足で駆けつけた。
目的は、一つ。
早くから来て、不二先輩を捉まえる機会を伺う為だ。 さりげなく一人の時を狙って、今日一緒に帰れないか誘うつもりで急いで来た。
今日こそは、先輩に聞いてみよう。 ここ最近俺のこと、避けていないかどうか。 きちんと問いただすつもりでいた。
なのに・・・こういう時に限って、現れないんだ。 まさか、気付かれてる? 思い立ってのは今日だから、そんな訳ないと思うけど。 不二先輩のことだからなあ。
桃先輩との打ち合いも断って、俺はひたすらストレッチをしていた。 もうすぐ、部活が始まる。
なのに、やっぱり不二先輩は現れない。 また委員会なのだろうか? あーあ、折角声を掛けようって決意したのに。 どうして、こんなすれ違ったりするんだろ。
「おチビちゃんー!」
不二先輩が来ることばかり気にしてた俺は、 背後からの存在に全く無防備でいた。 結果、抱きつかれてそのまま潰れそうになる。
こんな風に抱き付いて、「おチビちゃん」呼ばわりするのは一人しかいない。
「菊丸先輩、重いっす!」 「なんだと、失礼な奴め」 「ホントに!本当に重いから!」
じたばたもがくと、やっと菊丸先輩はどいてくれた。 全く、潰されるところだったよ。
ごめんにゃーと、英二先輩は全く反省の無い顔している。 睨みつけても、効果無し。 もう、どうでもいいけどね。
「ところでー、おチビちゃん」 「何すか」 馴れ馴れしく肩を抱いた手から、ついっと逃れようとする。 けど、先に菊丸先輩が封じるように手に力を込めた。そして、囁く。
「さっきからキョロキョロしているようだけど、お目当ての人は来たのかにゃ?」 「は?」
びっくりして、思わず声を上げてしまう。
そんな俺の反応を見て、菊丸先輩はニヤニヤ笑ってる。 ・・・・過剰反応しちゃダメだ。面白がらせるだけになる。
「何言ってるんすか?」 「おチビー、とぼけなくってもいいよ。わかってるんだから、さ」 「勝手にわかった風にいわないで下さい」
ぱしっと、今度こそ菊丸先輩の手から抜け出す。 これで走って行ってしまえば・・・と考えた時。
「あーあ。折角、不二がおチビのこと、どう思ってるか教えてあげようと思ったのにー」 ふーんだ、と拗ねたような菊丸先輩の声が、耳に届いた。
「え?」 「おチビは知りたくないようだし?もういいよ・・・」 「ちょ、ちょっと菊丸先輩?」
あー、なんで俺、呼び止めたりしたんだろう。 不二先輩が、俺のことをどうとなんて、 そんなの人の口から聞くべきじゃない。 はっきりと本人から聞けば済む話だ。 そんなの自分でもわかりきってることなのに。 今日の俺は本当にどうかしてる。
「教えて欲しい?」
菊丸先輩が楽しそうな顔してても、大きく頷いてしまった。
「それじゃあー、今日の帰りはおチビの奢りに決定ー!」 わーいと右腕を空に上げた先輩に、俺はぎょっとして目を見開いた。 「それ、どういうことっすか!?」 「にゃに言ってんのー、情報料に決まってるじゃん」 「後輩にたかるつもりっすか?」 「ふーん、じゃあ教えてあげない。俺はどっちでもいいんだけどー。 あ、ちなみに不二、今日は家の用事で休みだよ。本人に聞きたくても聞けないねー。」
家の用事で、休み? その事実に、一気に力が抜けていく。
今朝の、不二先輩の心配そうな声と表情。 あんな風に取り乱して俺のことを心配してくれたから、 今日なら聞けると思ったのに。 タイミング悪過ぎ。
「どうする?おチビちゃん」 「言っておきますが、俺そんなに金持って無いけど」 「いいよー、ハンバーガーで手を打とう」
よろしい、と菊丸先輩が帽子越しに俺の頭を撫でる。
不二先輩が休みと聞いて、俺はもうどうにでもなれって気分になっていた。 それに、先輩が俺のことを何て言ってたのか気になるのは本当だし。
「その代わり、情報がでたらめだったら怒りますよ」 「疑ってんのか!?その点は大丈夫ー」
にこにこ笑う菊丸先輩に、不安になってくる。 かわかわれてるだけだったら、どうしよう。
「全員集合!」
部長の声が響き、「じゃ、話はまた後で。行こう」と菊丸先輩は俺の手を引っ張る。
今日は部活どころじゃないかもしれないと、こっそり思った。
長い、と感じた部活がようやく終わった。 やっぱりちょっと上の空になりかけた俺は、 部長に「グラウンド10周だ!」と言われたり散々な感じ。 まあ、もうどうでもいい。とにかく終わったんだ。
桃先輩には先に帰ってもらうことにした。 だって、菊丸先輩だけに奢るってばれたら、俺も俺もとごねるに違いないし。 念には念を入れて、菊丸先輩とは落ち合う店を決めて、それぞればらばらに集合した。 いつものところとはちょっと遠いファーストフードでだ。
「奢りだからって、セットメニュー頼みますか?普通・・・」 「なんだよ!お前らにはいっつも奢ってやってるのに、こういう時は文句言うんだ」 「だって、先輩じゃん」 「うわっ、おチビそういうこと言うんだ?追加しちゃおうかなー、俺」 「追加って、どんだけ食うつもりなんすか!」 「だってこんな時でもないと、おチビの奢りなんてなさそうだもんねー」
結局俺の説得により、追加は無いまま。・・・・良かった。
隅っこの席に、菊丸先輩と正面に向かい合わせで座る。
まずは冷める前にと、お互い注文したものにかぶり付く。
「あーあ。後輩の奢りで食べてる所為か、いつもより美味しく感じる」 美味い美味いと頬張る先輩に、きっちり釘を刺す。 「それ食べたら、ちゃんと話はしてもらいますからね」 「勿論。逃げたりしないって」
イマイチ信用しきれないまま、菊丸先輩の顔をじろじろ見ながら食べ続ける。 そんな俺を、全く気にしないまま満足そうに食べている菊丸先輩。 いい気なもんだよね・・・・。
「んー、まあまあ満足したかにゃ」 ハンバーガーを包んでいた紙をぽいっとトレイに放って、 菊丸先輩はジュースを一口飲む。
「それじゃ、おチビの聞きたいこと。言うことにするか」
表情が少し真面目なものに変わり、俺も背筋を伸ばす。 なんか改まって言うものだから、少し戸惑う。
「その前に。 今朝の不二の件について、話してもいい?」 「・・・どうぞ」 聞きたいことを誤魔化すようなことでも無いってわかったから、承諾する。 菊丸先輩は頷いて、続きを話し始めた。
「あのね、おチビは不二と知り合ってからそんなに経ってないから知らないと思うけど。 不二があんな風に誰かのことで取り乱すのって、初めてなんだよ」 「え?」
確かに、不二先輩はいつも冷静な態度だけど。 いざ不測なことが起こったら、今朝みたいになるんだって位にしか思ってなかった。 初めてだって?
「一年の時から、不二のこと知ってる俺が言うから本当だって。 だから、今朝の不二の態度は俺も驚いた。 誰かが怪我したら、確かに怒ったりはするだろうけど。もう少し冷静に対処するよ、きっと」 「そう、っすか?」
半信半疑の俺に、菊丸先輩は「そうだよ」と断言する。
「不二ってさ、にこにこ笑ってて人当たり良いけど、実は他人との間に距離置いてる。 避けてるんじゃないかって、思えるくらい。まあ、気付くのはそういないんだけど。 不二に告白する女の子なんて、全くわかってないもんなー。断られるって、結果は決まってるのにね」 「あの・・・不二先輩って今まで誰かと付き合ったこと、あるんすか?」 「無いよ」
即座に否定される。
「誰かと付き合ってみたらって言ったこともある。 けど『そんないい加減な気持ちじゃ無理だよ』って笑うんだ。 本当は、関わりを避けてるだけなのに。」 「どうして、不二先輩はそんなこと・・・?」
いつかの先輩を思い出す。 誰とも付き合わないよと、寂しそうな顔してた不二先輩。 望めば簡単に恋人を作ることが出来るのに。どうして?
「さあ?俺にも不二のことはよくわかんない」 ちょっと眉を寄せて、菊丸先輩は溜息をついた。 「肝心なところは見せないんだよなあ」 「あ、それわかる気がする」 「だろ?」 お互い、ちょっとだけ笑った。
「でさ、ここからが本題。 昨日の不二は、俺からみても違和感あったんだ。 おチビの肩掴んで、傷つけた奴を許せないってかなり頭きてただろ」 「まあ・・・そんな感じだったかな?」 「そうだよ。間違いないって」 断言されても。まあ、たしかに俺もそんな風には思った。
「おチビはね、きっと不二にとって特別な存在だと思う。 今までの自分を変えちゃうくらいの、な」 「特別・・・・?」
言ってる意味をよく、考える。 そんなモノのはずない。 だって不二先輩は、俺を避けてるようだった。
「違うと思うけど」 「そんなハズ無いって。おチビと同じように、不二も思ってくれてる。 今日、話した感じで確信したもんね」 「ちょっと待って下さい」
聞き逃せない言葉に、思わず菊丸先輩の袖を掴む。
「同じって、何すか?」 「え?だっておチビも不二のこと好きなんでしょ? だから同じって」 「違っ!」
ガタン、と椅子を引いて立ち上がる。 声も大きかったようで、店内の何人かがこっちに視線を送っていた。
「おチビ、静かに」 「ハイ」
慌ててもう一度、椅子に座る。 けど、心の中はパニック状態だ。 俺が不二先輩を好き? 何、言ってるのかさっぱりわかんない。 好きって、likeの意味じゃないってこと位、察している。 でも、なんでそんな話になるんだろ。 あれ?でもそういや、同じとかって、言ってたけど。 それって不二先輩も、俺をってこと? ちょっと冗談でしょ?
「おーチービー。大丈夫?かなり混乱してるみたいだけど」 「まあまあっす」 「・・・ホントかよ。とりあえずそれ飲んで、落ち着け」
言われた通り、自分の飲物に手を伸ばして一口飲む。
「もしかして、俺悪いこと言った?」 「えっと・・・そうでも無いとは思います」 「でも、今の様子だとおチビって、自分の気持ちすら気付いていないように見えたけど」
確かにそうだ。 というより、まだ認めてないし。
「なんで俺が不二先輩を、って思うんすか?」 俺の言葉に、菊丸先輩はのけぞって驚いてくれた。 「ここまで来て、そういうこと言う?」 「言いますよ。本気で驚いたんだから」 「ふーん・・・まあ、なら言うけど。 おチビってある日を境に、不二のことばっか見るようになったよな?」
あの屋上の日から。 たしかに、俺は不二先輩のことが気になっていた。 怪我していた鳩がどうして飛べるようになったのか。 それすら抜きで、先輩のことを確かに見てた気がする。
「まるで恋してるみたいだなあって、おチビの目を見てそう思った。 それだけだよ」 「俺・・・そんな目してました?」 「うん、まあ。不二にこっち見てよって訴えかけてるところが、そんな感じ」
そんなところ見られてたのかと、恥ずかしくなる。 俺、一体どんな顔して不二先輩のこと、目で追ってたんだよ。
「あ、だけど気付いてるのは俺か・・・乾はどうだろ。 それくらいだから大丈夫だよ」 「慰めになってない・・・」 「本当、大丈夫だって。不二だって、おチビの気持ちに気付いていなかったんだから」 「不二先輩?」
にやっと、菊丸先輩が笑う。 「知ってた?不二ってね、おチビに気付かれないように、おチビのこと見てんの。 おチビが不二のこと見てる間は、絶対顔向けないようにしてこっそりとね」
素直に驚く。 不二先輩が、俺のこと見てたって? 全然気付かなかった・・・・。
「不二の目も、おチビと同じ。 好きですーって訴えてるんだよ。今度ちゃんと気付いてあげなよ」 「って、言われても」
大体、自分が不二先輩を好きなのかどうかもわからず。 そんなこと言われて、驚いてる最中なのに。
そして、不二先輩は俺のこと好きなんだろうか? もしそれが本当なら、どうなるんだ? 『越前、好きだよ』 って、言われたら?
それを想像して、自分の鼓動が早くなるのを感じる。
イヤ、じゃない。
それどころか、そうであって欲しいと思ってることに気付く。
先輩が好きだって言ったら。 きっと俺は、迷わず頷く。
何を迷わないかって考えたら、それは・・・・。
「おーい、おチビ?また考え事か?」
俺の顔の前で、菊丸先輩が手を振る。
でも、もう聞いちゃいなかった。
頭の中にあるのは、不二先輩のことだけ。
先輩が俺を好きなら、すごく嬉しい。 嬉しいんだ。
その気持ちが恋というなら、すぐにでも認めるよ。
俺が、不二先輩を好きだってこと。
チフネ

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