チフネの日記
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2004年06月28日(月) 天使不二と王子 25

英二と仲直りする為のお菓子をちゃんと鞄に入れ、朝練へと向かった。
「おはよう」
今日は昨日よりも遅い時間のせいか、部室にいる人数は少なかった。
「不二先輩、おはようございます」
二年生達から挨拶され、適当に返して自分の荷物置き場の前に立つ。
遅刻する時間じゃないけれど、少し急いで着替え始める。

「・・・で、やっぱり先生には・・・・・?」
「・・・・に訴えれば、出場停止確実・・・・」
「・・・・・・・・怪我した越前が転んだとか・・・・・」
「バカだよな・・・・・」

聞こえてきた話に、僕は手を止める。

「今、越前が怪我したって言った?」

くるっと後ろを振り返ると、二年生の子達がびっくりして肩を揺らした。

「え、あ。ハイ」
「どういう話か、聞いてもいいかな?昨日、何かあった?」
「ええ・・・・・・・まあ」

しどろもどろになってる後輩達をじっと見ると、ゆっくりと今の話を説明してくれた。

昨日、僕が部活に出なかった間、越前が怪我をしたということ。
それもただの怪我じゃない。
今度の決勝で当たる山吹中学の阿久津って男に、ラケットで石を投げつけられた。
越前は同じ一年の生徒を庇ったので、怪我の具合もヒドイそうだ。
その場に居合わせた荒井も、その阿久津に注意した為に殴られたらしい。

「そんなの、先生に訴えるべきじゃないか」
大会前の妨害か?と考える。
選手を潰す為とはいえ、あまりにもヒドイ話だ。

「普通はそう思うっすよね。でも越前の奴が」
「訴えたくないって?」
「ええ。ただ転んだとか言い張ってて。誰が見ても不自然なのに」
「自分で決着つけたいってことか」

こくんと頷いた後輩達に、ありがとうと礼を言って背を向ける。

レギュラージャージを羽織りながら、越前のことだけを考えていた。

怪我の具合どの程度なんだろう。
病院に行くほど?

越前に怪我をさせた阿久津とかいう顔もわからない男に対して、
僕はかなり腹を立てていた。
テニスが出来ないような怪我をしたら、どうするんだ。
イヤ、そういう問題じゃない。
他校にやって来て、部員に怪我させるなんてとんでもない奴だ。
さっさと先生に訴えて、出場停止するべきだ。
越前は望まないだろうが、そんな奴を放っておけない。

部室を出て、僕は大きく深呼吸した。
とにかく、越前の具合をまず確認しなければ。
遅刻ギリギリで来るとしたら、もうそろそろ姿を見せてもおかしくない頃だ。


「あ・・・」

走ってくる小柄な姿を、見付ける。

「越前!」
「不二、先輩?」
顔中に貼ってある絆創膏に、頭に巻かれた包帯。
痛々しい姿に、顔を歪める。
「こんな、ヒドイことっ!」
思わず越前の両肩を掴んで、声を上げていた。
「あの・・・」
「阿久津って奴がやったんだろう?一体、何の恨みがあって君をこんな目に合わせたんだ。酷過ぎるよ・・・」
「えっと、先輩?」
「全く、忌々しい。同じ目に合わせても許せるなんてもんじゃないよ!」
怪我をした越前を前にして、それまで抑えていた感情が飛んでいった。
こんな真似してくれた阿久津をどうしてくれようか。
下界に下ろされたとはいえ元・天使が考えるようじゃないことが、浮かんで来る。

「あれ?おチビ、と不二?」

背後から聞こえて来た声に、黒い思考が止まる。
同時に越前はびくっと体を揺らし、僕の体を押し返した。
「俺はただ転んだだけっすからー!」
弾かれたように、越前は走りだし部室へ入ってしまった。
「あらら?お邪魔だったとか?」
「・・・・・英二」
楽しそうに笑いながら、英二は僕の前に立った。
「忘れ物取りに来ただけなのに、良いモン見ちゃったにゃ」
「何、ソレ?」
「不二の、本気顔。他人に対して声を荒げるなんて、珍しいじゃん」
「・・・・・・・」

絶句する。
僕は、今越前の前で・・・。

「さ、そろそろ集合時間だし?部室行って、ついでにおチビ引っ張って来よー」
そこに突っ立ってて遅刻すんなよ、と英二は右肩をぽんと叩き行ってしまう。

彼の前で、思ったままのの感情をぶつけてしまった。
その事実に気付き、僕は手で顔を覆う。

怪我をした越前を前にして、冷静でいられなかった。
自分が何を口走ったかほとんど覚えてないけど、越前はどう思ったのだろう。

「失敗した・・・」

とぼとぼと歩き出し、コートへと向かう。
のんびりしてたら英二と越前が出てくる。
あまり顔を合わせたくない為、端っこで大人しくする。

「あれ?不二、なんだか元気ないね」
いつでも優しいタカさんが、僕の態度にすぐ気付いて声を掛けてきた。
「なんでもないよ。ちょっと寝不足くらいで」
「そうか。無理しちゃだめだぞ」
「うん・・・」
やがて集合の声が掛かり、僕等は列になって並び始める。
当然、出来るだけ越前から遠い位置へと離れて立つ。
情けないけど、彼の前で今、どんな顔をしたら良いかわからない。
あのまま、越前も僕のことなど気に止めなければいいんだけどな。


チフネ