チフネの日記
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2004年06月27日(日) 天使不二と王子 24

朝練が終了し、部室へと歩き出そうと僕は足を踏み出した。
「不〜二っ」
がしっと、後ろから肩を掴まれる。
この声は、英二だ。

「ちょっと、聞きたいことあるんだけど。いいかにゃ?」
フザケタ口調だけど、英二の目はまっすぐ僕を見ている。
「いいけど。遅れるのはまずいよね。歩きながら話してくれる?」
「うん」
並んで僕らは、歩き出す。
3年生は片付けをしなくてもいいけれど、それでものんびりしてはいられない時間帯だ。
朝練してたから、では遅刻の言い訳にならない。

「あのさ、気のせいじゃないと思うんだけど。
不二、ここのところおチビのこと避けてるだろ」
「僕が・・・?」
とぼけてみせたが、無駄だろう。
少し前までは会話を交わしてたくせに、今は一切接触が無い。
英二もそれに気付いているようだ。
「そのくせ、おチビのことはよく見てるよね?」
「そう?僕にはそんなつもりは無いんだけど」
これも嘘。
出来るだけ見ないようにしているけど、僕の目は無意識に越前を追っている。
もちろん目が合う前に、さっと逸らすのが常だけど。
「あのさ。もしかして、おチビとケンカでもしてんの?」
「まさか」
「だったらなんで?不二とおチビ・・・結構仲良さそうに見えたのに、最近一言も話してないだろ」
「会ったら挨拶くらいはするよ」
「不二!」
茶化した言い方が気に入らなかったのか、英二は声を上げた。
通り過ぎた部員達が何人か振り返る。
「本当に、なんでもないから」
「・・・・・・・」
「ほら、早く着替えよう。急がないと、後から来る一年生達が入れないよ?」
英二は無言で前を向き、早足で部室へ向かってしまった。

(これは怒らせた、かな)
へそを曲げた、が正しいかもしれない。
教えてもらえないので、拗ねている。
英二とこういうやり取りをするのは珍しくないので、放っておくことにした。
しばらくしたら、何事も無かったように話し掛けて来る。
それまでそっとしておくのが一番だ。

不二は、秘密主義だからなと知り合った頃からよく言われた。
自分の存在自体が秘密を抱えている僕としては、
あまり本音を語ったりしない。
その件で英二と出会った頃はよく衝突をした。
にこにこ笑っているけど、何考えてるかわからないともハッキリ言われた。
実際そうだったから、反論はしなかった。
しばらくしてから英二は、僕にも触れられたくないことがあると察して、
前ほど口出しはしなくなってきたけれど・・・・。

(英二はよく越前に構っているから、今の状況が余計気に入らないんだろうな)

けれど、前と同じように越前に接することは出来ない。
近付いたら、きっと僕はあの美しい魂に惹かれてしまう。
人として生きて14年、こんな気持ちは初めてで、僕は自分を止める自信が無かった。
間違っている気持ちを無理にでも諦めなければ、どうにかなってしまいそうだ。

本当は手塚が羨ましい。
越前に気に掛けてもらえる実力を持ち、人として一緒にいれる権利も持っている。
同じくらい美しい魂を持つ者同士、並んでいるのはとても自然に思える。
手塚が自分の気持ち通り行動して、越前が手塚を選んだら、二人は離れることはないだろう。
それが羨ましくて、妬ましい。
僕には決して叶えられないことなのだから。






「英二。大石には言ってあるけど、委員会へ出るから部活には出られないんだ」
放課後になっても、英二の機嫌は直らないままだ。
僕らは今朝からずっと口を聞いてない。
部活へ向かおうとする英二に声を掛けたけど、返事も無い。

(明日は、英二の好きなお菓子でも持って来ようかな)

このままでいるのも気まずい。
話の切っ掛けを掴むには、英二の好きな物で釣るのが一番だ。
それに二年ちょっとの付き合いから、英二が今何を考えているかわかってる。
今の態度はしまったなと、反省している頃だ。
僕から仲直りするよう働き掛ければ、すぐに元通りになれるはず。いつものパターンだ。

そうしよう、と鞄を掴んで委員会へと向かう。
廊下を歩いている途中、テニスコートが見える場所に差し掛かり、ふっと立ち止まる。
練習はまだ始まっていない時間なので、整備している一年しかいない。
その中に越前の姿は無かった。

つい、無意識に僕の目は帽子を被った彼を探してしまう。
苦笑して、また歩き出す。

遠くから見守る位は、許してもらえるだろうか。
決して、彼の人生に関わることはできないけれど。
彼には幸せになってもらいたいと、心から願っているんだ。

越前のことを考えていたくせに、僕はこの時彼がどうなっているか気付きもしなかった。
もしその場にいたら、越前を守っていた。
怪我させたりなんかしなかった。
翌日の彼を見て、僕はどうしてその日に限って部活に出なかったのだろうと、とても後悔することになる。


チフネ