チフネの日記
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2004年06月25日(金) 天使不二と王子 22




都大会決勝で毎日の練習は更に厳しくなっているが、
きちんと休息ことも必要だと竜崎先生は日曜の部活を無しにした。
そう言っても、自主練に励む奴もいるだろうけど。

僕は予定も無く、外を歩いていた。
欲しかった写真集が発売されているから、本屋には寄ろうと考えているくらい。

(少し前に、越前と会ったことがあったな・・・)

あの時も特にやることもなく、景色を眺めながら歩いていた。
愛猫のカルピンを必死で探している越前に出会って、一緒に行動を共にした。

今の僕は、あの時みたいに彼に手を伸べることは無い。
もう必要以上、関わらないと決めたのだから。

(そうすることが、越前の為でも、僕の為でもあるんだ)

いつか帰る場所を見上げる。
大丈夫。僕は特定の誰かに恋なんかしない。
僕は越前に相応しい人を、後押しすることを考えている。
だから安心して見ていれば良い。
自分の痛みに鈍くて、危なっかしいあの子を、見守っていきたいんだ。

「あれ・・・・?」

考え事をしていたら、いつの間にか本屋に到着していた。
そのまま店内に入って、お目当てのコーナーへ移動する。
と、そこに見知った人物が立っていた。

「不二?」
「手塚。・・・偶然だね」

手塚は、どこかの山の風景が表紙になってる写真集を手に持っている。
ずっと前に登山が趣味だって聞いたことを思い出した。

「君のことだから、てっきり休みをもらっても練習してるかと思ったよ」
自主練をしそうだと思っていたのは、手塚と海堂と、乾と・・・越前だ。

もしかして手塚が今日の休日、越前を誘っているんじゃないかって密かに思っていた。
手塚のやるだから、もちろんデートにって意味じゃない。
この男にそんな甲斐性があるくらいなら、僕がけし掛ける必要は無いんだけど。
随分な評価だが、本当のことだから仕方ない。
けれど最低限、「一緒に打ち合いしないか?」くらい、出て来てもいいんじゃないか。

昨日の帰り際、手塚が越前を呼び止めたのを、僕は見ていた。
どんなことを話しているかまでは聞くつもりは無かったので、勿論すぐに立ち去った。

これで何か進展するかもしれない。
そんな風に考えていた。

けれど、手塚は今ここに一人で立っている。
周囲にも越前がいる様子は無い。
もしかして手塚は越前に、誘いを断られてしまったのだろうか?
デートの誘いならまだわからない、手塚にテニスをしようと言われ、越前が断るなんてあるのか?

その答えは、すぐに判明した。

「竜崎先生が休息しろと言っていただろう。
今日は自主練習もしないことに決めた」
「あ・・・・そう」
真面目に答える手塚を前にして、一瞬僕の思考が固まった。

「不二?」

しかし怪訝そうな顔で僕を覗き込む様子に、すぐに持ち直す。
何でもないと答え、小さく咳払いして誤魔化す。

自主練習しないって決めたって・・・?
だったら、一体?

「昨日、越前を呼び止めたのは、練習に誘ったからじゃないんだ?」

見ていたのか、とも聞かずに手塚は答えを返す。
余計なお世話だが、少しは相手が何故こんなことを聞くのか考えた方がいいんじゃないだろうか。

「竜崎先生が話している間、越前は欠伸をしていたんだ。
だから今日はちゃんと休むようにと、俺から先生の意向を伝えたのだが・・・その時も眠そうにしていたな」
全く、と手塚は溜息をつく。

こっちが溜息をつきたいくらいだ。

それだけか。
休日を前にして、言うことはそれだけなのか。
疎過ぎるにも程があると、僕は頭を抱えたくなってきた。


「あのさ、手塚。越前にはそういうやり方は通じないよ?」
「どういう意味だ?」
「だから眠い時の越前は、人の話なんて半分も聞いていないんだって」
眉間に皺を寄せた手塚に、僕は小声で言い聞かせる。
「本当に休ませたいと思ってるなら、練習しないように見張っておくしかないよ」
「見張る?」
「そう。例えば気分転換にどこか連れ出すとか。
適当なこと言って、約束すれば良かったのに」
何故そんな必要がと、ますます手塚は皺を増やす。

この鈍感野郎は、それを切っ掛けに外で会おうとか思わないのか。
・・・・思わない、だろうな。

竜崎先生の横で、越前に視線を向けてた自分にすら気付かない。
手塚らしいっちゃ、らしいか。

だからわざとらしく、僕は肩を竦めてみせた。

「君ね、青学の部長だろう?そして越前は青学の大事なルーキー。
そこの所わかってる?」
「不二、何が言いたい?」
「だから、その大事な一年生を管理するのは君の役目だろう?それ、ちゃんと理解してる?」
「どうして、俺が」
うろたえる手塚に、僕はずいっと顔を近付けた。
もうちょっと押す必要がありそうだ。
手塚は責任とか、義務とかそういう言葉に弱い。
その辺を突ついて、丸め込めば越前に近付くようになるだろう。
「越前は部長の君には一目おいてるようだし。目の前で見張ってたら、無茶もしないと思うよ」
「そうか・・?」
「あーあ、でも今日は一緒にいない訳だし・・・越前、ちゃんと休息を取っているのかなあ?」
目を見開いた手塚が可笑しかったけれど、僕は真面目な顔を作って肩に手を置いた。
「電話してみたら?気になるんでしょ」
「あ、ああ・・・」
手に持っていた写真集を、手塚は慌てて元へ戻した。
「全く、ちゃんと部員の面倒くらいみなよ」
「そうだな」
あーあ、電話はするけれど、「今日は休んだか?」の一言で終わりそうかな。
それでも、構わない。
ちょっとでも二人が接点持つことが大事なのだから。

じゃあな、と手塚は足早に本屋を出て行った。
背中を見送りながら、僕は小さく苦笑した。

わかってる。僕は自分の感情を振り切る為に、手塚を利用しようとしてる。
だって越前が手塚とくっついてしまえば、もう何も考える必要はなくなる。

ただ黙って見守るだけに、なれそうだ。
多分。


写真集を見る気にもなれず、僕もすぐ本屋を出た。
そしてそのまま家へと帰ると、「早かったわね」と母の声が僕を迎えた。


チフネ