チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2004年06月24日(木) 天使不二と王子 21

弟として生まれた裕太を、
僕は僕なりに大切にしているつもりでいた。
いつか天へ戻っても、
不二家の人達は家族だと胸を張って言える。

だけど。
常に僕と比較され続けていた裕太は、
いつからか僕に対して距離をおくようになっていた。
そして、ルドルフへの転校。
引き止めることすら出来なかった。

もっと、上手いやり方でもあったのか。
余計なことを言って、これ以上裕太に嫌われたくなかった。そう思うのは言い訳だろうか。


越前とコートで向かい合う裕太の顔を見ながら、考える。
最後に、楽しそうな顔をしてる裕太を見たのは、いつだったのか。
それすら、思い出せない。

(ちょっと悔しい、かな)

あっさりと裕太の素顔を引き出した越前に、
少しばかりの嫉妬を感じる。
それと、感謝と。

この後、裕太に声を掛けてみよう。
そして今日の試合のこと、今までのこと。
話したいことは沢山ある。

(その前に、やる事が残っているけどね)

ベンチコーチをしている対戦相手を睨み、
どうするのが一番効果的か考えた。





無事、僕らは関東大会への切符を手に入れた。
まだ大会は続くけれど、今日の勝利を皆、喜んでいる。

「手塚。先に帰っていいかな?」
裕太に声を掛けたら、態度はまだぎこちなかったけれど、
家には帰ると返事をしてくれた。
嬉しくて、自宅へ今から裕太と帰ると連絡したら、
迎えに行くから待っててと、姉さんの返事。
裕太と二人で姉さんの到着を待とうってことになった。
だめだとは言われないだろうけど、一応手塚に断りを入れる。

「もう帰るところだから、構わない」
多分、僕が弟と帰ることに気付いたのだろう。
何の詮索もなく、あっさり承諾された。

ふと、すぐ後ろで越前が大きく欠伸しているのが、目に入る。
今日の試合で、きっと疲れたのだろう。

「ねえ、手塚」
「なんだ」

‘手塚と越前の距離を縮めてやろう’
そんなことを考えていたせいか、僕は自分でも思ってもいないことを口に出した。

「越前のことだけど・・・」
「あいつがどうかしたのか?」
変わらないように装ってて、すぐに越前の名に反応する辺りが面白い。
「ちゃんと見ててあげなよ。随分疲れているようだから」
「そうか?」
「うん。気を付けないと、家に帰る前にその辺で寝てるかもしれない」
部活中でも疲れると、どこでも寝てる越前を思い出したのか、
手塚は神妙に頷いた。
「一人で帰れないようだったら、送ってあげなよ。
部長としての役目なんだから」
「そう、だな」
公私混同を嫌う手塚に、さりげなくこれは部長としてだと念押しする。
後は責任感に駆られて、勝手に越前の面倒を見るだろう。

「それじゃ、お先に」
越前の方を見ないようにして、その場から足早に去る。

「兄貴?なにか、言われたりしたのかよ」
待っていてくれた裕太が、怪訝そうな声を出す。
「え?そうかな」
「いや、別に」
さすが身内をやっているだけあって、僕の微妙な変化に気付いたらしい。
「気遣ってくれてるんだ。裕太は優しいね」
「そ、そんな訳ねえだろ!」
声を上げて否定する裕太に、笑顔を向ける。
裕太とこんな風に会話出来て、すごく嬉しいよ。
その気持は本当。

越前のことは、手塚に任せておけばいい。
そうだ。自分でけしかけておいて、落ち込むなんてバカげてる。
もうあの二人をくっつけようって、決めたんだから。









5−0からの逆転。
わざと相手に屈辱を与える不二先輩に、容赦無いなあ、なんて思ってた。
相手に同情なんてしないけどね。
関東大会へ進めることができるなら、問題無い。

閉会式が終わって、不二先輩は弟と帰るとかで先に帰って。
俺はその後、先輩達とバスに乗り込んだ。


「越前」
名前を呼ぶ声と、揺さぶられる肩に目を開ける。
「あれ?」
目の前には眉間に皺を寄せた部長。
やばい。練習中に寝てた?
慌てて体を起こすと、自分が制服姿だということに気付く。
あ、そうか。
都大会の帰りだったっけ。
バスの中で熟睡して・・・・記憶が飛んでる。

「起きたか」
すぐ前にいる部長の存在を思い出し、こくんと頷く。
ベンチに俺は座っているけど、なんで部長は立ってんの。
それと、同じバス停じゃなかった気がするし。
「部長。桃先輩は?」
俺と同じ方向なのは、桃先輩だけだ。
一緒のバスに乗ってた桃先輩がいないのは、変だよな。
「桃城なら用事があるとかで、先に帰った」
「そうっすか」
なんだ。
腹減ったから、何か奢らせてやろうと思っていたのに。ばれたかな。
「で、部長は?何してるんすか?」
続いて部長に質問すると、溜息が返ってきた。
「お前が起きないから、待っていたんだ」
「そーっすか」
用事があろうが、桃先輩に「起こしておけ」とでも言っておけばいいのに。
部長としての責任感が強いのか、要領悪いだけなのかわからないなあ。
「もう、歩けるな?」
「・・・っす」
そのまま部長はバスに乗っていくものだと、思っていた。
けれど自分の分と、俺のバッグを肩に掛けるのを見て、慌てて引き止める。
「部長、それ俺のっす!」
「そうだな」
「そうだなって・・・。持って帰ってどうする気なんすか!?」
取り返そうと、自分のバッグを掴む。
放っておいたら、返してもらえない気がしたからだ。
「俺の家に持って帰る訳無いだろう」
「だって」
「着いたら、ちゃんと返すから安心しろ」
「え?」
「お前の家へは、どうやって行くんだ?」
瞬きして、今の会話を思い返す。
着いたら、返すって。
俺の家に着いたら?
それまで、バッグを部長が担いでるってことは・・・。

「越前?どうした?」
沈黙した俺に、部長がまた眉間に皺を寄せる。
アレ、跡ついちゃうんじゃないかな。

「あの、俺。一人でも帰れますから!」
どうやら部長は俺を家まで送っていこうとしてるらしい。
それがわかったから、丁重にお断りを申し出る。
こんな所、誰かに見られたら(うるさそうな二年生の連中とか)困る。

「そうはいかない」
なのに部長は、聞き入れてくれない。
送るから、と繰り返す。
部長としての使命感かもしれないけど、ちょっとやり過ぎにも見える。
まっすぐ家に帰るだけなんだから、そんなに心配することないのに。
「本当に大丈夫です」
そう繰り返してもう一度バッグを引っ張るけど、部長は「いや、俺が持つ」と言って譲らない。
いや、じゃないだろ。

「どういうことなんすか」
じれったくなって問い質すと、部長の肩が少し揺れた。
びびってんの?違うか。
「さっき、不二が」
「不二先輩?」
なんであの人の名前が出てくるんだ。
「疲れているようだからって。ちゃんと見てやれと言われた」
「な、んだよ。それ」
不二先輩が部長にそんなこと言った?
俺のこと見ようともしなくせに。
俺の知らないところで、勝手なこと言うな。
「たしかに眠そうにしていたからな。ちゃんと家に帰るか、見届けておくべきかと。
荷物も重そうだから・・・持ってやろうと思っただけだ。」
「そーっすか」
それもよりによって部長に言うか?
真に受けてこんなんになっちゃってるじゃないか!

「越前?」
俺の低い声を不審に思ったのか、部長ははちょっとおろおろしてる。
…部長のせいじゃないんだけどね。
全部、不二先輩が余計なこと言うからだ。
あーあ、と小さく息を吐く。
「平気ですから」じゃ、通じないだろうな。
部長だし。
今も俺のバッグ離そうとしていないし。
「俺の家まで、行くってことっすよね?」
「そうだ」
「遠回りっすよ?」
「わかってる」
・・・・仕方ない。

「それなら、こっち」
家へ歩く方向を指差す。
部長がそっち向いた間に、自分のバッグをくいっと引っ張る。
「一緒に来てもいいけど、これだけは返して下さい」
「だが・・・」
「これ位、平気っすよ。本人が言ってるんだから、もういいじゃないっすか」
でしょ?ともう一度引っ張ると、渋々といった感じで返される。
後輩の鞄を、そんなに持ちたいなんて変なの。

「じゃ、行きましょうか」
ようやく自分の肩にバッグを担いで、歩き出す。
当然、部長も俺のすぐ横についてきた。

「部長って、大変な役割っすね」
しみじみと思う。
部のことを考えるのが部長だからって、これじゃお守みたいなもんだよ。
今回は不二先輩が余計なこと言ったのもあるけど、
誰かが何か言う度これじゃ身がもたないんじゃないの。
「そうか・・・?」
とぼけている風でもなく、部長はわずかに首を傾げた。
そうだな。この人なら苦労も苦労と思わないかもしれない。
「そうっすよ。こんな面倒なこと、誰かに押し付ければいいのにさー。部長権限とかで」
「面倒だとは、思っていないんだがな」
苦笑する部長に、そうですかーなんて思う。
ほら、この人は後輩の世話をやくことなんて面倒じゃないんだ。
「部長にしたら、当たり前のことっすか」
「そうでも無い」
「え?」
顔を上げて、横顔を見詰める。
どこかバツが悪そうに視線を逸らした部長は、口の中で何かもごもご言っている。
「あまり・・こういうことには慣れていない、と思う」
「そうなんすか?」
「ああ。どちらかというと、大石の方が手馴れている」
さすが青学の母ってとこか。
あれ?でもだったら、今日に限って何故部長が俺の面倒みているんだろ。
・・・もしかして、柱なんて言ったから?
期待の後輩は俺が面倒みる、なんて思いこんでいるのかもしれない。
有り得る。

ご苦労様だね。
責任感の強い部長に、内心で労いの言葉を掛けた。


チフネ