チフネの日記
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予想通り、6−0で、越前は勝った。 S3の彼が勝ったことにより、青学は準々決勝へとコマを進めることになる。
「よくやった、おチビー!」 両校の挨拶が終わり、さっそく英二は越前に抱き付こうとした。 だけどさっとかわされる。 「なんで避けるんだよ!」 「重いから」 むっとしたような越前と、どうしてと騒ぐ英二。 いつもの光景に苦笑する。 と、そこへ電信柱のような人影が近付く。 手塚だ。 何か越前に一言だけ行って、すぐに立ち去ってしまう。 多分、「よくやった」と声を掛けたに違いない。 たったそれだけしか会話(にもなっていないんだけど)出来ないのか。 どこへ行くのか、歩き続ける手塚の後を追う。
「手塚」 振り向いた手塚に、早足で追い付く。 「試合前に、どこへ行くつもり?」 「・・・・・飲物を買うついでに、他校の試合を見ておこうと思って」 「へぇ」 越前に声を掛けた直後だからか、手塚がわずかに動揺していることに気付く。 最も変化に気付くのは僕か、データ収集家の乾くらいか。
「他校の試合なら、僕も見ておこうかな」 手塚は何も言わず、歩いている。 好きにしろってところか。 そのままお互い黙って歩いていると、すぐ前に見覚えのある光景が広がっていた。
「相変わらずのようだね」 「そうだな」 フェンスをぐるっと囲む応援。 氷帝学園だ。遠くからでもすぐにわかる。 ちょうどそこに休憩所があったので、手塚と一緒に座って試合の様子を眺めることにした。 騒がしい雰囲気の中、氷帝の選手は臆することなく試合に臨んでいる。 対して相手校の選手は落ち着かなさそうに、周りをちらちら見ていた。 これは勝負あったな。
「次は準々決勝だね」 コートを見ている手塚に話し掛けると、視線はそのままで頷いた。 「決まれば、関東に行ける。重要な試合だよね?」 「そうだな」 「竜崎先生がどんなオーダーにするか楽しみだな。 まさかとは思うけど、越前がダブルスを組んだりして」 けほっと、手塚はむせてしまう。 越前の名前を出されただけで、この動揺っぷり。 ・・・・面白過ぎるよ。 「あいつにはダブルスは無理だ。そのオーダーだけはあり得ない」 「そうかなあ」 「そうだ」 きっぱりと告げる。 わかっているのかな。 そんなムキになって否定することは、今まで無かったって。 『それは無いだろう』位で、終わっていたはずだ。 変わったなあ、と思うのがこんな時だ。 「越前は面白い存在だね」 「は?」 「彼の影響は大きい。そう思わない?」 「そうだな。たしかに越前が入部してから、士気は上がっている」 そういう意味だけじゃないんだけどな。 まあ、いいかと僕は試合を見ているふりをした。
さっきの試合が始まる前、手塚と越前はほんの少しの間席を外していた。 戻ってきた二人に、隠すようなことは無かったってすぐにわかったけれど。
なにか嫌な気持ちが、僕の心を支配していた。 そんな感情は、間違っているのに。
人間の姿をしている僕が、気付いてしまうほど美しい魂の二人。 手塚は越前を。 越前だっていずれ手塚に惹かれるに決まっている。
それなのに何故、僕は二人の距離が縮まっていくのを、素直に喜べないのだ。 間違ってると、もう一度考え、僕はある決意を固めた。
さっさと手塚と越前をくっつけてしまおう。 二人が一緒にいることが当たり前になれば、きっとこんな感傷に似た気持ちは消えるに違いない。 誰にも・・・僕にも邪魔出来ないくらい、二人がくっついてしまえば良いんだ。
湧き上がる氷帝のコールに、試合が終わったと知らされる。
「予想通り、氷帝は勝ち上がって来たね」 「ああ」
氷帝の勝ちが確定して、手塚は立ち上がった。 「そろそろオーダーが決まる頃だな。戻るぞ」 「そうだね」
一日でも早く、手塚の隣に越前がいるようになるようにと。 自分勝手に、そんなことを考えた。
発表されたオーダーに、桃と海堂がお互い視線を一瞬だけ合わせ、 ふんと横を向いた。 ケンカばっかりの二人だけど、息は合っているよね。こっそり笑う。
「おチビ、俺の応援してよねー!」 懲りもせず、英二は越前に絡んでいた。 本当に彼のこと、気に入っているんだな。 気まぐれ猫が子猫に絡んでいる図、ってところか。 「ハイハイ、わかりました」 「気合い入ってないぞー!」 「どうすればいいんすか」 あーあ、と越前は溜息ついている。 「大きな声で応援しろよー。これに勝てれば関東大会だから、頑張ろうにゃ!」 「やるからには全力で行きますけどね」 「おー、やる気十分?」 「まあね」 「おチビの時もちゃーんと応援してあげるかんな!ねー、不二!」 「え・・・」 急に話を振られて、僕はびくっと体を揺らした。 「不二?」 「あ、っと・・・なんの話だっけ?」 「もう、聞いてなかった!?おチビちゃんの試合、張り切って応援しようねってこと!」 「そう、だね」 越前は黙って僕と英二の顔を交互に見ていた。 そしてすっと英二の手から逃げ出してしまう。 「おチビ?」 「ちょっとトイレ」 「試合までには戻ってくるんだぞー!」 駆け出した越前の背に、英二が声を掛ける。 振り向きもせず、越前は行ってしまった。
「なーんか、おチビ。変じゃね?」 「そう?」 「不二、心当たりは?」 「無いけど」 疑ってくる英二の目線に、もう一度否定する。
もしかしたら、ここの所の僕の態度に腹を立てているかもしれない。 急に突き放し、彼を避け続けていたから、当然かも。
寂しいけれど、これで良い。
これからは手塚と一緒の道を歩むことになるから。 僕のことなんて、見向きもしなくなるだろう。
あの場に居たくなくて、逃げ出した。 不二先輩は、俺のことで何か怒っているのか。 あんなにぎこちなく、返事するなんて。 さっきまで菊丸先輩達と会話してた時は、普通と変わらないように見えたのに。 俺がいると、あんなに余所余所しい。 原因は俺なんだって、嫌でも気付くよ。
もう振り回されたくないって思ったばかりなのに、 やっぱり気になってしまう。 なにか不二先輩の気に障ることしたのかって、一生懸命考えた。 けど、思い浮かばない。 鳩のことはもう言及をやめている。 避けられる理由は、他に考えられない。 それとも気付かないうちに、先輩を怒らせるようなこと言ったのか。
人にどう思われようと、今まで何の関心も持たなかった。 けれど不二先輩のことは気になって仕方ない。 どうしてだかは、わからないけど。 先輩に嫌われるのは、イヤだ。
ハッキリと。 その気持ちを自覚した。
チフネ

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