チフネの日記
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2004年06月23日(水) 天使不二と王子20

予想通り、6−0で、越前は勝った。
S3の彼が勝ったことにより、青学は準々決勝へとコマを進めることになる。


「よくやった、おチビー!」
両校の挨拶が終わり、さっそく英二は越前に抱き付こうとした。
だけどさっとかわされる。
「なんで避けるんだよ!」
「重いから」
むっとしたような越前と、どうしてと騒ぐ英二。
いつもの光景に苦笑する。
と、そこへ電信柱のような人影が近付く。
手塚だ。
何か越前に一言だけ行って、すぐに立ち去ってしまう。
多分、「よくやった」と声を掛けたに違いない。
たったそれだけしか会話(にもなっていないんだけど)出来ないのか。
どこへ行くのか、歩き続ける手塚の後を追う。

「手塚」
振り向いた手塚に、早足で追い付く。
「試合前に、どこへ行くつもり?」
「・・・・・飲物を買うついでに、他校の試合を見ておこうと思って」
「へぇ」
越前に声を掛けた直後だからか、手塚がわずかに動揺していることに気付く。
最も変化に気付くのは僕か、データ収集家の乾くらいか。

「他校の試合なら、僕も見ておこうかな」
手塚は何も言わず、歩いている。
好きにしろってところか。
そのままお互い黙って歩いていると、すぐ前に見覚えのある光景が広がっていた。

「相変わらずのようだね」
「そうだな」
フェンスをぐるっと囲む応援。
氷帝学園だ。遠くからでもすぐにわかる。
ちょうどそこに休憩所があったので、手塚と一緒に座って試合の様子を眺めることにした。
騒がしい雰囲気の中、氷帝の選手は臆することなく試合に臨んでいる。
対して相手校の選手は落ち着かなさそうに、周りをちらちら見ていた。
これは勝負あったな。

「次は準々決勝だね」
コートを見ている手塚に話し掛けると、視線はそのままで頷いた。
「決まれば、関東に行ける。重要な試合だよね?」
「そうだな」
「竜崎先生がどんなオーダーにするか楽しみだな。
まさかとは思うけど、越前がダブルスを組んだりして」
けほっと、手塚はむせてしまう。
越前の名前を出されただけで、この動揺っぷり。
・・・・面白過ぎるよ。
「あいつにはダブルスは無理だ。そのオーダーだけはあり得ない」
「そうかなあ」
「そうだ」
きっぱりと告げる。
わかっているのかな。
そんなムキになって否定することは、今まで無かったって。
『それは無いだろう』位で、終わっていたはずだ。
変わったなあ、と思うのがこんな時だ。
「越前は面白い存在だね」
「は?」
「彼の影響は大きい。そう思わない?」
「そうだな。たしかに越前が入部してから、士気は上がっている」
そういう意味だけじゃないんだけどな。
まあ、いいかと僕は試合を見ているふりをした。

さっきの試合が始まる前、手塚と越前はほんの少しの間席を外していた。
戻ってきた二人に、隠すようなことは無かったってすぐにわかったけれど。

なにか嫌な気持ちが、僕の心を支配していた。
そんな感情は、間違っているのに。

人間の姿をしている僕が、気付いてしまうほど美しい魂の二人。
手塚は越前を。
越前だっていずれ手塚に惹かれるに決まっている。

それなのに何故、僕は二人の距離が縮まっていくのを、素直に喜べないのだ。
間違ってると、もう一度考え、僕はある決意を固めた。


さっさと手塚と越前をくっつけてしまおう。
二人が一緒にいることが当たり前になれば、きっとこんな感傷に似た気持ちは消えるに違いない。
誰にも・・・僕にも邪魔出来ないくらい、二人がくっついてしまえば良いんだ。

湧き上がる氷帝のコールに、試合が終わったと知らされる。

「予想通り、氷帝は勝ち上がって来たね」
「ああ」

氷帝の勝ちが確定して、手塚は立ち上がった。
「そろそろオーダーが決まる頃だな。戻るぞ」
「そうだね」

一日でも早く、手塚の隣に越前がいるようになるようにと。
自分勝手に、そんなことを考えた。






発表されたオーダーに、桃と海堂がお互い視線を一瞬だけ合わせ、
ふんと横を向いた。
ケンカばっかりの二人だけど、息は合っているよね。こっそり笑う。

「おチビ、俺の応援してよねー!」
懲りもせず、英二は越前に絡んでいた。
本当に彼のこと、気に入っているんだな。
気まぐれ猫が子猫に絡んでいる図、ってところか。
「ハイハイ、わかりました」
「気合い入ってないぞー!」
「どうすればいいんすか」
あーあ、と越前は溜息ついている。
「大きな声で応援しろよー。これに勝てれば関東大会だから、頑張ろうにゃ!」
「やるからには全力で行きますけどね」
「おー、やる気十分?」
「まあね」
「おチビの時もちゃーんと応援してあげるかんな!ねー、不二!」
「え・・・」
急に話を振られて、僕はびくっと体を揺らした。
「不二?」
「あ、っと・・・なんの話だっけ?」
「もう、聞いてなかった!?おチビちゃんの試合、張り切って応援しようねってこと!」
「そう、だね」
越前は黙って僕と英二の顔を交互に見ていた。
そしてすっと英二の手から逃げ出してしまう。
「おチビ?」
「ちょっとトイレ」
「試合までには戻ってくるんだぞー!」
駆け出した越前の背に、英二が声を掛ける。
振り向きもせず、越前は行ってしまった。

「なーんか、おチビ。変じゃね?」
「そう?」
「不二、心当たりは?」
「無いけど」
疑ってくる英二の目線に、もう一度否定する。

もしかしたら、ここの所の僕の態度に腹を立てているかもしれない。
急に突き放し、彼を避け続けていたから、当然かも。

寂しいけれど、これで良い。

これからは手塚と一緒の道を歩むことになるから。
僕のことなんて、見向きもしなくなるだろう。










あの場に居たくなくて、逃げ出した。
不二先輩は、俺のことで何か怒っているのか。
あんなにぎこちなく、返事するなんて。
さっきまで菊丸先輩達と会話してた時は、普通と変わらないように見えたのに。
俺がいると、あんなに余所余所しい。
原因は俺なんだって、嫌でも気付くよ。

もう振り回されたくないって思ったばかりなのに、
やっぱり気になってしまう。
なにか不二先輩の気に障ることしたのかって、一生懸命考えた。
けど、思い浮かばない。
鳩のことはもう言及をやめている。
避けられる理由は、他に考えられない。
それとも気付かないうちに、先輩を怒らせるようなこと言ったのか。

人にどう思われようと、今まで何の関心も持たなかった。
けれど不二先輩のことは気になって仕方ない。
どうしてだかは、わからないけど。
先輩に嫌われるのは、イヤだ。

ハッキリと。
その気持ちを自覚した。


チフネ