チフネの日記
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2004年06月22日(火) 天使不二と王子19

越前の言葉から、手塚と試合したことを確信する。
そうか・・・やっぱり手塚を見る目が変わったのは、本当の実力を見たからなんだね。

全力から程遠い、手塚の今大会初の公式試合。
越前は釘付けになっている。

こうなるのは、わかっていたはずじゃないか。

手塚と越前と。
どちらも同じ位に輝く美しい魂。

少し切っ掛けを与えてやれば、傾いて行くのは当然。
二人がくっつけば良い。
そう思っていた。

なのに、どうして。

手塚の勝利に皆が沸きあがる中、僕はそっと後ろへと下がった。

どうしてか、今の越前の顔を見たくない。
手塚を迎える彼の眼差しを避ける為、横を向く。

越前と手塚が一緒の道を歩んだとしても、僕には関係ない。
いずれ僕は天に帰るのだから。

何度言い聞かせても、心に開いた小さな穴は塞がりそうになかった。









次の試合のオーダーを、隅っこで聞いた。
ふーん。不二先輩はダブルスか。
・・・・俺には関係無いけどね。

「越前」
ふと気付いたら、部長が目の前に立っていた。
いよいよ説教か?なんて思って部長を見ていたら、
やや目を逸らして小さく咳払いをした。

「さっきの試合は調子良かったようだな」
「はあ」
「次の試合でも期待している」
「・・・・ハイ」

それきり部長は黙ってしまった。
話はこれだけなんだろうか?
だけど俺の前から去ろうとしない。
一体、なんだろ。

「もう、話は終わったんすか?」
こっちから部長に話しかけると、慌ててるみたいに頷いた。
「・・・ああ」
「なんだ。てっきり説教されるかと思ったのに」

ぽろっと出た本音に、慌てて口を噤む。
が、遅かったようだ。
ひくっと頬を引き攣らせた部長が、俺を凝視している。
どうしようかと顔を隠すべく、帽子を深く被り直した。
自分の所為とはいえ、まずったな。

「越前」
「何すか」
始まる説教を覚悟して、顔を上げる。
この時ばかりは、ハッキリと物を言う自分の口が恨めしかった。
帰ったらグラウンド何周させられるんだろう。

そんなことを考えていたのに、
部長の口からは全く予期しない言葉が飛び出した。

「俺は・・・いつも怒っているイメージなのか?」
「え?」
ちょっと大きい声を出したようで、周囲が何事かと俺達に注目した。
それに部長も気付いたようで、「少しいいか」と、この場から離れようと促して来た。
断る理由も無かったので頷くと、ゆっくり部長は歩き始める。
俺もその後ろへ続く。
広くて大きな背中を眺めながら、俺はさっきのわけわからない質問の意味を考えた。

何かのアンケート?
怒ってるとでも苦情来たのかな。

ぴたっと足を止めた部長を見て、大変だねなんてぼんやり考える。


「越前。さっきの質問だが・・・・。俺はそんなに怒っているように見えるのか?」
「えーっと、確かに表情硬いし、かなり年上に見えるとは思いますけど」
部員の意見を聞きたいのであれば、真面目に答えてやるか。
そう思って一生懸命話したのだけれど、部長の肩がどんどん下がっていく。
またまずいこと言ったかな?

「でも怒ってるとは、思ってないっすよ。
部長がテニスに対して真面目に取り組んでいるとは思いますけど」
「そうか・・・」
複雑そうな顔して、部長が頷く。
少しは参考になったかな。

「誤解が無いようなら良いんだ」
「誤解って?」
何が?って首を傾けると、部長が俺の帽子に手を置いた。

「説教はしたくてしてる訳じゃない。
けれど他の部員の前、黙認するには示しが付かない」
「そっすね」
「それを人の顔を見て、条件反射のように‘説教されるかと思った’なんて思われたらたまらない」

あ、さっきの俺の一言か。
部長は気にしていたんだと、ようやっとわかった。
そんなことさらっと流しそうなのに。
わからないものだ。
それとも皆からそういうイメージに取られて、嫌になったかもしれない。
気に障ったことを言ったのは俺なのだから、謝罪はしとくべきだよな。

「スミマセン」
ぺこっと頭を下げると、部長は「いや、もういい」と言ってくれた。

「今回の件では、俺も注意しておくべきだったからな」
「注意?」
「ここの所、遅刻がなかったからうっかり忘れていた。
今日は念の為、迎えに行くべきだったな」
「そこまでしなくていいっすよ!」
真面目に考えている部長に、思い直すよう声を上げる。
部長の手をこれ以上煩わせたくない。
大体、いずれ抜かしてやる!って思ってる相手に、遅刻の面倒を見てもらうなんて。
格好悪過ぎる。

「だが次から遅刻はしないって、言えるのか?」
「・・・努力するっす」
「努力だけで結果が遅刻ではダメだ。やはり当日の朝は」
「わかりました!今度はちゃんと来ます!」

よし、と部長が軽く頭を撫でる。
確信犯か、あんたは。

だけど、思ってもみない優しい目に。
反論できずに、黙っていてあげた。



部長と一緒に戻ってみると、もうちょっとで試合が始まるところだった。

不二先輩に、菊丸先輩が楽しそうに話し掛けている。
それに応える不二先輩の顔は、いつもと同じような笑顔だ。

最近、俺には向けられないあの笑顔。

「越前?」
足を止めた俺を、部長が不審そうに振り返る。
「集合だ、行くぞ」
「ハイ」


今は、考えない。
試合に勝つことだけに集中しよう。

不二先輩を見ないようにする為、視線を下に向けた。


チフネ