チフネの日記
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2004年06月16日(水) 天使不二と王子  14


「越前、練習は無理だと言っただろう」
あーあ。見付かった。
素早く近付いて来た大石先輩が、持っていたラケットを取り上げる。
こっそり自主練習しようとした目論見もこれでパアだ。
「完全回復するまで、球拾い。それは先生とも約束したはずだな?」
「・・・・・ハイ」
頷いてみたものの、そんなのやってられるかと内心で思っていた。
忌々しい左眼の傷。
これくらい大したことないのに。

「どうかしたのか」
背後から聞こえた声に、まずい人物が来たと俺は心の中で舌打ちした。
「イヤ、なんでもないよ」
すっと俺の横に立った手塚部長に、大石先輩は片手で否定した。
良かった。自主練しようとしたことは、黙ってくれるらしい。
部長に知られたら、話が大きくなるだろう。
何より説教がこれ以上長くなるのは勘弁して欲しい。

大石先輩の顔と手に持ってるラケットと俺の顔を見て、部長は「そうか」とだけ呟いた。

「手塚、ちょっといいかい?」
少し離れたところから乾先輩の声が聞こえて、部長はそちらを向いた。
「ああ、今行く」
返事をして、またこっちを向く。
何だろう?って部長の顔を見上げると、聞こえない位小さな声でもごもご呟き、結局歩き出してしまった。
内容、耳にまで届かなかったけど、いいのか・・・?
「手塚もあれで心配しているみたいだぞ」
ぽんって肩に大石先輩の手が置かれる。
「はあ・・・」
あれが心配している態度?
よくわからない。大石先輩はなんでわかるんだろう。
俺よりも長い付き合いだからか。
「さ、手塚も来たことだし、今度は抜け出そうなんて考えるなよ」
「ハイ」
もう一度釘を差されて、大石先輩から開放される。

「越前ー、こっちの籠よろしくな」
バカでかい声の堀尾を無視して、仕方なく黄色いボールを拾い始める。

球拾いなんてやってたのは、本当に最初の頃だったっけ。
すぐにランキング戦始まって、俺はレギュラー入りしたけど。
他の皆は未だに球拾い・基礎トレばっかりのメニューなんだよね。
きっと夏までこんなことやらされていたとしたら、俺は部活止めていたかもしれない。
怪我が治るまでの短い期間でも、ラケット握りたくてうずうずしてんのに。

やる気なく、転がってきたボールを拾う。
あーあ。面倒くさー。
腰を上げた瞬間、向こう側で腕組している部長と目が合った。
だけどすぐに視線は外される。
不自然なくらいに顔を逸らして。

何あれ。俺のこと見張ってんの?
抜け出そうとしたら、また「グラウンド10周」とか言う為に?

その後、何回か部長と目が合ったので、
仕方なくやる気も起きない球拾いを終了時間までこなしつづけた。

・・・・・早く怪我、治らないかなあ。


チフネ