チフネの日記
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久し振りに屋上へ足を運んでみた。 ここに来たのは、あの時以来だ。 不二先輩と、会話するようになったきっかけの場所。
少し重い扉を開ける。 (良い天気・・・・) あの日と同じように、青い空が広がっていた。 周りを見渡しても、誰もいない。 ――――――怪我をして、飛べない鳩もいない。
今でもあの鳩に、先輩が何かしたんじゃないかって疑問はある。 魔法みたいに傷を治した?なんて自分でも笑ってしまいそうなこと、 少しだけ考えていた。 そんなの映画や本の中の話だってわかっているから、誰にも話したりしない。 笑われるか、見間違いだろと言われるだけだろう。 誰か別な人が話してきたら、俺だってそんな風に答える。 この件は、納得いかないけれど俺の勘違いってことで片付けようと思う。 しつこく先輩に問い詰めても、答えは返ってこないだろうし。
だからもう、先輩に近付く必要はない。 知りたいことは、もう無くなったのだから。 俺の中で一区切りついたのに。
今は、違う意味で先輩のこと知りたいと思ってる。
『良かったら抱っこさせてもらえる?』 カルピンの様子を見ると、暢気に尻尾を揺らしていた。 良いらしいと判断して、先輩に渡す。 『どうぞ』 『ありがと。うわ・・・ふわふわだね』 機嫌良さげに、カルピンは喉を鳴らしている。 『可愛い』 そう言って俺に笑いかける先輩に、俺は動けなくなっていた。 いつも見てる笑顔なのに。 今まで一番優しく見えて、どきっとした。
変な人なんだけど。 嫌いじゃない。
カルピンを探すことに、先輩は一生懸命付き合ってくれた。 そして二度も、受け止めてくれた。 自分も怪我するかもしれないのに。 なんでもないように笑っていた。
嫌いじゃない。
むしろどっちかというと・・・。
そこまで考えて、ハッと我に返る。 なんだかまずい方向に進んでいきそうだった。
昼寝する気分にもなれず、フェンスに近付き裏庭を見下ろす。 (部長?) ちらっと見えたけど、あの横顔はたしかに部長だ。 もう一人、知らない女子生徒と一緒に歩いている。
(もしかしたら、この状況って) 桃先輩から(別に興味も無かったんだけど)聞いたことある。 部長はそりゃ校内・校外問わずもてるんだって。 でも全部「今は部活に専念したいから」と断っているらしい。 さすが部長だよなと、桃先輩は感心したように悦に入っていた。 その時は、ふーんで済ませたんだけど。
人気の無い裏庭。 俯いている女子生徒。表情を崩さない部長。 ・・・告白の場面なんだろうな。 当然ここからは、二人が何を言っているかさっぱり聞こえない。 向こうが顔を上げない限り、見えないのを良い事に俺は二人の様子をじっと伺った。 あの部長が女の子から告白されて、どんな顔するのかちょっと見てみたいじゃないか。 照れたりするのかな・・・。 自分の想像に有り得ないとツッコミ入れながら、部長の表情が良く見える角度へとそっと移動をしてみる。
しかし下に気を取られていたおかげで、背後の気配に全く気付かなかった。「越前君」 「・・・っ!?」 不意に肩に手を乗せられ、飛び上がりそうになる。 「そんなに驚かなくても。こっちがびっくりしたよ」 「不二先輩・・・・・」 目を瞬かせて、先輩は首を傾げた。 「何、見てたの?知られちゃまずいこと、かな?」 「そんなんじゃないっすよ」 覗き見していたのは、ちょっとばつが悪いかもしれないけど。 否定すると、先輩も下を覗き込んだ。 「なんだ手塚か」 ふーんと、先輩は面白そうな声を出した。 「気になる?」 「え?いえ・・・」 気になるって告白が受け入れられるかどうか? それなら多分、ダメなんじゃないかなと思う。 あの女子生徒が部長の片思いの相手だったというオチなら、別だけど。 「うーん、それじゃ質問を変えてみようか。あの子と手塚が付き合うってことになったら、どう思う?」 「はい?」 言ってる意味がわからなくて、しばし考える。 部長が女の人と付き合う、か。 「どんな会話するかちょっと聞いてみたいかも」 思ったことを口にしてみた。 すると先輩は、俺の顔をまじまじと凝視した。 何か、おかしなこと言っただろうか。 「これは・・・困難かもしれない」 ハァと呆れたような溜息までついてる。 「不二先輩?俺、変なこと言ったっすか?」 「いや、いいよ。答えてくれてありがとう」 「はあ」 俺達が噛合わない会話をしている間に、下の二人は話を終えてしまったみたいだ。 女の子が俯いて、顔に手を当ててる。 「あー、だめだったみたいだね」 「・・・・そうっすね」 走って去っていく女の子を、部長は引き止めもせずその場に突っ立っている。 遠くからしか見えないけど、あまり表情に変わりは無い。 グラウンド10周。 そう言ってる時と、ほとんど同じだ。 女の子の姿が見えなくなってから部長も歩き出し、誰もいなくなった。
「手塚に告白しても、無駄なのにな」 呟いた不二先輩に、俺は思わず尋ねてみた。 「部長って誰か好きな人でもいるんすか?」 「いや、知らないけど?」 「でも今、無駄って・・・」 そういう意味じゃないのだろうか? 「ああ、好きな人とかじゃなくって、手塚はテニス一筋だからね。 大会を控えて、誰かが告白しても結果は一緒じゃないかなって思っているんだ」 「例え部長の好きな人が告白してきても?」 「そうだね・・・。せめて全国大会が終わるまで、保留にしてくれないかと言うんじゃないかな」 それはありえそうだ。 俺は納得して頷いた。 「あ、じゃあ。不二先輩は?」 「僕?」 桃先輩情報によると、不二先輩も部長に劣らずもてるって聞いてた。 ま、三年の先輩はほとんどもてるみたいらしいけど。 「誰か告白してきたら、やっぱりテニスのことだけ考えたいなんて言うんすか?」 これもちょっとした好奇心だった。 部長と違い、不二先輩には女の子と付き合っているイメージはある。 ・・・・・・でも部活の無い日に、ふらふら一人で散歩している時点でフリーかなと思うけど。
「僕は手塚みたいにテニスに操立ててるわけじゃないから。 その言い方はちょっと無理だよ」 「だったら?」 「普通に、断るよ。誰とも付き合う気はないって」 「誰とも!?」 意外、だった。 それなりの女の子とだったら、付き合いをOKしそうな感じなのに。
「うん。誰とも、付き合う気は無いから」
どうしてっすか。 聞こうとしたけれど、出来ずに黙った。
先輩が言いたくなさそうだから。 横顔が、寂しそうにみえて。 何か人に言えない理由を抱えているんだって、思ったから。
「・・・良い天気。今日はこのままさぼりたい気分だね」 「そうっすね」
昼休みの終了のチャイムが鳴るまで、 俺達は空だけを眺めていた。
チフネ

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