チフネの日記
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2004年06月08日(火) 天使不二と王子 8 

着替え終わって、英二と一緒にコートに出ようとしたところだった。
ドアに手を伸ばしかけた瞬間、勢い良くそれが開かれる。
「あ、いけね。不二先輩、大丈夫だったすか?」
どうやら向こう側から開けたのは、桃だったらしい。
急いで来たのか、額にうっすらと汗を浮かべている。
「大丈夫だよ。でも気を付けてね」
「はいっ」
「そうだぞ、桃ー。こんな時期に怪我したら大変だろ」
英二にまで注意されて、桃は申し訳無さそうに身を縮めた。
やれやれ。
こんな事に時間を取られている場合じゃないだろう。
「早く着替えなよ。もう少しで遅刻になるよ?」
桃を助けるつもりで言った台詞ではない。
後ろにいるであろう、越前の為だ。
さっきから見え隠れしている魂の輝きを、僕はとっくに気付いていた。
「おっと。おら、越前。お前も急げよ」
「桃先輩が入り口塞いでるんじゃないっすか」
ようやく入って来た越前は、僕の方を見て一瞬足を止める。
そして少しだけ、頭を下げた。
「おはよう、越前」
「おはようっす」
僕らのやり取りを見て、英二も越前に声を掛けた。
「おチビ、おはよっ!」
「・・・・・おはようっす」
少しめんどうくさそうに答え、越前はさっさと自分のロッカーへ向かってしまった。
「なーんか、不二と俺とじゃ態度違うくない?」
うるうるした目でこちらを向いた英二に、「さあね」とだけ返事して今度こそコートへと向かった。
「おチビと何かあったの?」
「何もないよ」
「嘘ー。じゃあ、なんでおチビは不二に対してだけ、あんな素直なんだよ」
「普通だと思うけど。英二がそう見えるなら、人徳の差って奴じゃない?」
「なんだよ、それー。おチビの奴、この間から不二のことやけに気にしてるし・・・一体、どうなっちゃってるんだよ」
ストレッチ中もしつこく食い下がる英二に、知らん顔で通す。
大したことじゃないけど、誰かにぺらぺら話すつもりは無い。

「どうしたんだ、英二。騒がしいな」
「うー、大石〜。不二が意地悪する〜」
英二があんまり騒ぐから、大石が声を掛けてきた。
それにしても意地悪だなんて、人聞き悪いな。
ただ聞かれたことを黙っていただけなのに。
「別になんでもないよ。英二が勝手に騒いでるだけ」
「そうやって肝心なところ隠すつもりなんだろう。
ずるい、俺だっておチビと仲良くしたいのに」
「え、英二」
足踏みしてだだをこねる英二を、大石は宥めるようと必至だ。
「不二もなんとか言ってやってくれよ。一体、どういう状態なのか俺には見当つかないんだし」
「・・・・・・・・」
相手する気もなく、僕は明後日の方向を向いた。
ずるいずるいと言われようが、話す義理はない。
越前だって、他の人に昨日の件をあれこれ話をされるのは、好きでもないだろう。
「あれ・・・?」
余所見した方向に、ちょうど手塚が立っていて目が合った。
しかし彼は途端にふいっと目を逸らしてしまう。
不自然な動きに、何だろうと首を傾げる。
ひょっとして僕達の会話が聞こえた・・・・?
英二の言い方は、越前と僕が隠れて仲良くしているように取れるかもしれない。
それで気になって、こっちを見ていたのか。
わかりやすい態度だなと、僕はこっそり笑った。
「ほら、英二。その位にしておこう。もう集合時間になるぞ」
「うーん、でもー」
「でもじゃない。部活の時は部活のことだけを考えろ」
「不二ー」
「ほら、行くぞ」
まだ愚図っている英二を、大石は引きずって行ってしまった。
なんだかんだと、大石って言う事聞かせているよね・・・。

英二はその後、越前に直接詮索していたけれど、思った通り無視されていた。
「何があったんだよー!ねぇ、おチビってば!」
「英二先輩、今部活中っすよ?静かにして下さい」
あんまり騒ぐものだから、英二は手塚に「グラウンド20周してこい!」と言われてしまった。
すごすごとグラウンドに歩く英二を見て、こればかりは仕方ないなと思う。
越前の方を見ると、英二の追及から逃れてあからさまにほっとしている様子だ。
「越前」
声を掛けると、彼はタオルで汗を拭いながらこちらを向いた。
「英二に絡まれて、災難だったね」
「まあね。全く、あの人少し静かにして欲しいっすよ」
英二がこれを聞いたら、また騒ぐんだろうなと思い、少し笑ってしまう。
「何すか?」
怪訝そうな顔をして、越前は眉を寄せた。
「いや。英二は君がお気に入りだから。構いたくてしょうがないんだよ」
「ふうん?」
「特にいつの間にか僕と仲良くしているのが、どうしてだか知りたいんじゃないかな?」
目を見開き、越前は僕をまじまじと見た。
「越前?どうかしたのかい?」
「俺と先輩って・・・」
「え?」
「仲良いんすかね」
帽子を被り直し、目線を合わさないまま、越前が問い掛ける。
その問いに、彼自身も戸惑っているかのようだ。

「僕は、仲良くしてるつもりだけど」

昨日からいつも素っ気無い越前の色んな表情が見れて、
僕はとても嬉しかった。
だからこの言葉は、本当のことだ。

「そう・・っすか」
越前はなにやら考え込んでしまったようだ。

どうしたのか聞こうとする前に、
「不二っ、次コートに入れ!」
手塚の声が響いてしまった。

「ハイハイ。じゃ、越前また後で」
「・・・・」
返事は無いけれど、僕はラケットを持ってコートへと歩いた。
いつもより眉間の皺を増やして、手塚はこちらを睨んでいた。
後、もう少し無駄話が多かったら、英二みたいに走らされていたかもしれない。
私情を交える手塚じゃないけど、今日はこれ以上刺激しない方が賢明だ。

朝練の最中、手塚はいつも以上に越前を目で追っていた。
そんなに気になるなら、さっさと行動に起こすなりすればいいのに。

自分の気持ちを自覚しているかどうかも危うい手塚に、歯痒くなった。


チフネ