チフネの日記
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着替え終わって、英二と一緒にコートに出ようとしたところだった。 ドアに手を伸ばしかけた瞬間、勢い良くそれが開かれる。 「あ、いけね。不二先輩、大丈夫だったすか?」 どうやら向こう側から開けたのは、桃だったらしい。 急いで来たのか、額にうっすらと汗を浮かべている。 「大丈夫だよ。でも気を付けてね」 「はいっ」 「そうだぞ、桃ー。こんな時期に怪我したら大変だろ」 英二にまで注意されて、桃は申し訳無さそうに身を縮めた。 やれやれ。 こんな事に時間を取られている場合じゃないだろう。 「早く着替えなよ。もう少しで遅刻になるよ?」 桃を助けるつもりで言った台詞ではない。 後ろにいるであろう、越前の為だ。 さっきから見え隠れしている魂の輝きを、僕はとっくに気付いていた。 「おっと。おら、越前。お前も急げよ」 「桃先輩が入り口塞いでるんじゃないっすか」 ようやく入って来た越前は、僕の方を見て一瞬足を止める。 そして少しだけ、頭を下げた。 「おはよう、越前」 「おはようっす」 僕らのやり取りを見て、英二も越前に声を掛けた。 「おチビ、おはよっ!」 「・・・・・おはようっす」 少しめんどうくさそうに答え、越前はさっさと自分のロッカーへ向かってしまった。 「なーんか、不二と俺とじゃ態度違うくない?」 うるうるした目でこちらを向いた英二に、「さあね」とだけ返事して今度こそコートへと向かった。 「おチビと何かあったの?」 「何もないよ」 「嘘ー。じゃあ、なんでおチビは不二に対してだけ、あんな素直なんだよ」 「普通だと思うけど。英二がそう見えるなら、人徳の差って奴じゃない?」 「なんだよ、それー。おチビの奴、この間から不二のことやけに気にしてるし・・・一体、どうなっちゃってるんだよ」 ストレッチ中もしつこく食い下がる英二に、知らん顔で通す。 大したことじゃないけど、誰かにぺらぺら話すつもりは無い。
「どうしたんだ、英二。騒がしいな」 「うー、大石〜。不二が意地悪する〜」 英二があんまり騒ぐから、大石が声を掛けてきた。 それにしても意地悪だなんて、人聞き悪いな。 ただ聞かれたことを黙っていただけなのに。 「別になんでもないよ。英二が勝手に騒いでるだけ」 「そうやって肝心なところ隠すつもりなんだろう。 ずるい、俺だっておチビと仲良くしたいのに」 「え、英二」 足踏みしてだだをこねる英二を、大石は宥めるようと必至だ。 「不二もなんとか言ってやってくれよ。一体、どういう状態なのか俺には見当つかないんだし」 「・・・・・・・・」 相手する気もなく、僕は明後日の方向を向いた。 ずるいずるいと言われようが、話す義理はない。 越前だって、他の人に昨日の件をあれこれ話をされるのは、好きでもないだろう。 「あれ・・・?」 余所見した方向に、ちょうど手塚が立っていて目が合った。 しかし彼は途端にふいっと目を逸らしてしまう。 不自然な動きに、何だろうと首を傾げる。 ひょっとして僕達の会話が聞こえた・・・・? 英二の言い方は、越前と僕が隠れて仲良くしているように取れるかもしれない。 それで気になって、こっちを見ていたのか。 わかりやすい態度だなと、僕はこっそり笑った。 「ほら、英二。その位にしておこう。もう集合時間になるぞ」 「うーん、でもー」 「でもじゃない。部活の時は部活のことだけを考えろ」 「不二ー」 「ほら、行くぞ」 まだ愚図っている英二を、大石は引きずって行ってしまった。 なんだかんだと、大石って言う事聞かせているよね・・・。
英二はその後、越前に直接詮索していたけれど、思った通り無視されていた。 「何があったんだよー!ねぇ、おチビってば!」 「英二先輩、今部活中っすよ?静かにして下さい」 あんまり騒ぐものだから、英二は手塚に「グラウンド20周してこい!」と言われてしまった。 すごすごとグラウンドに歩く英二を見て、こればかりは仕方ないなと思う。 越前の方を見ると、英二の追及から逃れてあからさまにほっとしている様子だ。 「越前」 声を掛けると、彼はタオルで汗を拭いながらこちらを向いた。 「英二に絡まれて、災難だったね」 「まあね。全く、あの人少し静かにして欲しいっすよ」 英二がこれを聞いたら、また騒ぐんだろうなと思い、少し笑ってしまう。 「何すか?」 怪訝そうな顔をして、越前は眉を寄せた。 「いや。英二は君がお気に入りだから。構いたくてしょうがないんだよ」 「ふうん?」 「特にいつの間にか僕と仲良くしているのが、どうしてだか知りたいんじゃないかな?」 目を見開き、越前は僕をまじまじと見た。 「越前?どうかしたのかい?」 「俺と先輩って・・・」 「え?」 「仲良いんすかね」 帽子を被り直し、目線を合わさないまま、越前が問い掛ける。 その問いに、彼自身も戸惑っているかのようだ。
「僕は、仲良くしてるつもりだけど」
昨日からいつも素っ気無い越前の色んな表情が見れて、 僕はとても嬉しかった。 だからこの言葉は、本当のことだ。
「そう・・っすか」 越前はなにやら考え込んでしまったようだ。
どうしたのか聞こうとする前に、 「不二っ、次コートに入れ!」 手塚の声が響いてしまった。
「ハイハイ。じゃ、越前また後で」 「・・・・」 返事は無いけれど、僕はラケットを持ってコートへと歩いた。 いつもより眉間の皺を増やして、手塚はこちらを睨んでいた。 後、もう少し無駄話が多かったら、英二みたいに走らされていたかもしれない。 私情を交える手塚じゃないけど、今日はこれ以上刺激しない方が賢明だ。
朝練の最中、手塚はいつも以上に越前を目で追っていた。 そんなに気になるなら、さっさと行動に起こすなりすればいいのに。
自分の気持ちを自覚しているかどうかも危うい手塚に、歯痒くなった。
チフネ

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