チフネの日記
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委員会でテニス部に行くのが遅れた僕の前を、見慣れた背中が歩いていた。
「手塚、今から?」 「ああ」
大股で手塚の隣に追いつく。 特に話がある訳じゃないけど、一緒に部室へと向かう。
「毎日大変だね、部活を生徒会との両立」 「そうだな」 疲れたという顔をして、手塚は頷いた。 生徒会も大変らしい。 毎日、手塚は部活の始まる時間に顔を出した試しがなかった。 「本当ならこの大切な時期、テニス部の方だけに専念したいのだが・・」 そう言って、息を吐く。 彼が愚痴を零すのは珍しい。
そんなに忙しいのだろうかと、僕は少し心配になった。 手塚も真面目過ぎるからな・・・。 そこが彼の美点でもあるが、気を抜けない性格っていうのは厄介なものでもある。 少しくらい手を抜けば楽になれるのに。 言っても手塚はそうはしないだろう。 呆れる程に真面目で、一本気な性格。 彼の魂が曇りないものなのも、頷ける。
「生徒会、そんなに忙しいんだ?」 「出来るだけ、分担してやっている。それでも追いつかない」 「そっか。でもほどほどにしておきなよ。根を詰めて体を壊したりしたら、元も子もない」 「ああ。今年が最後の大会だからな。その辺りは気を付ける」 「最後の大会か・・・・」
そこで一旦話を終え、僕らは部室に入った。 手早く着替えて、コートに向かう。 隣を歩く手塚の視線が、コートのある一点に集中していることに気付く。 越前がそこでストロークの練習をしていた。 正確なラケットさばきで、ボールを相手コートに返している。 無駄の無い綺麗なフォームだ。 手塚でなくても、見惚れてしまう。 「ねぇ、手塚」 「何だ」 「僕らは、全国に行けると思う?」 そこで手塚は僕の方へ顔を向けた。 「ああ。このメンバーで必ず」 力強く頷く手塚の魂が、一際輝いて見えた。
手塚と越前か。 コートの端で言葉を交わしている二人を観察する。 うん、悪くない組み合わせだ。 手塚が越前を気にしているのは、一目瞭然だ。 同性同士だからとかそんなのはどうでも良かった。 手塚が越前に引かれるのは、自然にも思える。 この二人の魂は他の人間と明らかに違う。 天使じゃなくなった僕にさえ見えるくらいの、強い綺麗な魂。 案外、越前の方でも手塚を気にする日がその内やって来るかもしれない。 何事か話をする手塚に、越前は頷いている。 手塚はいつもの無表情だが、越前を見ている目は優しいと感じる。 少し手を貸してやることにするか。 手塚はあんなだから、気持ちを自覚しているのも怪しい。 越前はテニスの事しか考えていないお子様だし、この調子でいったらいつまでも進展しそうにないだろう。 ちょっとだけ後押しが必要だよね。 天使の使命とかそういうものではなく、個人的な楽しみだ。 上手く二人がくっついたら、からかってやろう。
なんだか今日の不二先輩の視線は、露骨だ。
「何か用っすか?」
ベンチに座っている俺を、少し離れた場所で立って見ている。 空いているんだから、勝手に座ればいいのに。 探るような視線は、苦手だ。
「用って訳じゃないんだけどね」 苦笑しながら、先輩はようやく隣に腰を降ろした。
「越前って家でもトレーニングしている?」 「・・・・・まぁ、ちょっと」
何を聞いてくるんだと、身構える。 しかし全く予期せぬ言葉が飛び出す。
「そっか、練習熱心だね。ところでテニス以外ではどんな事して過ごしている?」 「は?」 「休みの日とか。まさか一日中テニスだけってことじゃないんだろう?」 「・・・・・・」
一体、この人何。 そんな目で睨むと、両手を振って言い訳をしてきた。
「別にデータ取るとかじゃないから」 「だったら聞く必要も無いんじゃないの?」 「それはちょっと・・・理由があるんだ」 「理由?」 「うん。そうだな、越前の事が知りたいから。これじゃだめ?」
だめに・・・決まっている。 俺が知りたいことは答えてくれなかったくせに、自分ばっかりなんだよ。 調子良過ぎ。 そう思っていたけど、屈託の無い綺麗な笑顔を間近にして、口篭もってしまう。
「なんで知りたいんすか・・・」 きっぱり断ってやるつもりだったのに、俺はそんな言葉を口にしていた。 「色々と大切なことなんだよ。その内わかるから」
またはぐらかす。 だけど何か楽しいことを企んでいる先輩の顔を見て、 文句を言う気は失せていた。
チフネ

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