チフネの日記
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2004年06月06日(日) 天使不二と王子 6

委員会でテニス部に行くのが遅れた僕の前を、見慣れた背中が歩いていた。

「手塚、今から?」
「ああ」

大股で手塚の隣に追いつく。
特に話がある訳じゃないけど、一緒に部室へと向かう。

「毎日大変だね、部活を生徒会との両立」
「そうだな」
疲れたという顔をして、手塚は頷いた。
生徒会も大変らしい。
毎日、手塚は部活の始まる時間に顔を出した試しがなかった。
「本当ならこの大切な時期、テニス部の方だけに専念したいのだが・・」
そう言って、息を吐く。
彼が愚痴を零すのは珍しい。

そんなに忙しいのだろうかと、僕は少し心配になった。
手塚も真面目過ぎるからな・・・。
そこが彼の美点でもあるが、気を抜けない性格っていうのは厄介なものでもある。
少しくらい手を抜けば楽になれるのに。
言っても手塚はそうはしないだろう。
呆れる程に真面目で、一本気な性格。
彼の魂が曇りないものなのも、頷ける。

「生徒会、そんなに忙しいんだ?」
「出来るだけ、分担してやっている。それでも追いつかない」
「そっか。でもほどほどにしておきなよ。根を詰めて体を壊したりしたら、元も子もない」
「ああ。今年が最後の大会だからな。その辺りは気を付ける」
「最後の大会か・・・・」

そこで一旦話を終え、僕らは部室に入った。
手早く着替えて、コートに向かう。
隣を歩く手塚の視線が、コートのある一点に集中していることに気付く。
越前がそこでストロークの練習をしていた。
正確なラケットさばきで、ボールを相手コートに返している。
無駄の無い綺麗なフォームだ。
手塚でなくても、見惚れてしまう。
「ねぇ、手塚」
「何だ」
「僕らは、全国に行けると思う?」
そこで手塚は僕の方へ顔を向けた。
「ああ。このメンバーで必ず」
力強く頷く手塚の魂が、一際輝いて見えた。



手塚と越前か。
コートの端で言葉を交わしている二人を観察する。
うん、悪くない組み合わせだ。
手塚が越前を気にしているのは、一目瞭然だ。
同性同士だからとかそんなのはどうでも良かった。
手塚が越前に引かれるのは、自然にも思える。
この二人の魂は他の人間と明らかに違う。
天使じゃなくなった僕にさえ見えるくらいの、強い綺麗な魂。
案外、越前の方でも手塚を気にする日がその内やって来るかもしれない。
何事か話をする手塚に、越前は頷いている。
手塚はいつもの無表情だが、越前を見ている目は優しいと感じる。
少し手を貸してやることにするか。
手塚はあんなだから、気持ちを自覚しているのも怪しい。
越前はテニスの事しか考えていないお子様だし、この調子でいったらいつまでも進展しそうにないだろう。
ちょっとだけ後押しが必要だよね。
天使の使命とかそういうものではなく、個人的な楽しみだ。
上手く二人がくっついたら、からかってやろう。








なんだか今日の不二先輩の視線は、露骨だ。

「何か用っすか?」

ベンチに座っている俺を、少し離れた場所で立って見ている。
空いているんだから、勝手に座ればいいのに。
探るような視線は、苦手だ。

「用って訳じゃないんだけどね」
苦笑しながら、先輩はようやく隣に腰を降ろした。

「越前って家でもトレーニングしている?」
「・・・・・まぁ、ちょっと」

何を聞いてくるんだと、身構える。
しかし全く予期せぬ言葉が飛び出す。

「そっか、練習熱心だね。ところでテニス以外ではどんな事して過ごしている?」
「は?」
「休みの日とか。まさか一日中テニスだけってことじゃないんだろう?」
「・・・・・・」

一体、この人何。
そんな目で睨むと、両手を振って言い訳をしてきた。

「別にデータ取るとかじゃないから」
「だったら聞く必要も無いんじゃないの?」
「それはちょっと・・・理由があるんだ」
「理由?」
「うん。そうだな、越前の事が知りたいから。これじゃだめ?」

だめに・・・決まっている。
俺が知りたいことは答えてくれなかったくせに、自分ばっかりなんだよ。
調子良過ぎ。
そう思っていたけど、屈託の無い綺麗な笑顔を間近にして、口篭もってしまう。

「なんで知りたいんすか・・・」
きっぱり断ってやるつもりだったのに、俺はそんな言葉を口にしていた。
「色々と大切なことなんだよ。その内わかるから」

またはぐらかす。
だけど何か楽しいことを企んでいる先輩の顔を見て、
文句を言う気は失せていた。


チフネ