チフネの日記
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2004年06月04日(金) 天使不二と王子 4 

人の魂を運ぶ時、僕らは歌を歌う。
その人間だけの歌を、魂から読み取って歌にする。
歌によって、地上での死の苦しみや悲しみから魂は解放されるんだ。
だけど僕は歌を歌うことを止めてしまった天使だ。
つまらない歌を読み取っても、歌う気にはなれないからだ。
人間ってなんて小さな生き物なんだろう!
これが君の人生?君の歌?こんなもの歌えやしない!
もがき苦しむ魂を救うことなく、出てくるのを待つだけ。
機械的に天に運ぶだけの仕事。
当然、天使としての自覚が無いと僕は糾弾された。
なりたくて天使に生まれた訳じゃない。
内心で不満を抱えいた僕は、とうとう神様から勅命を下されることになる。
人を理解する為、人として生きなさい。
僕は天から降ろされ、今ここにいる。


一応、ノックをしてドアを開ける。
「不二か」
目を通していた書面から一瞬、顔を上げすぐにまた手塚は目線を下に下げた。
「休憩しても、いいかい?」
「好きにしろ」
断りを入れたのは、挨拶みたいなものだ。
イヤだと言っても、手塚は僕が引かないのを知っているから、もう諦めている。

生徒会が使っている執務室で、僕は時々休憩をしていた。
ここは静かでいい。
手塚以外、昼休みは誰も入って来ない。
早速僕は、日当たりの良い椅子に腰掛けた。
手塚は黙ったまま、机に向かって何か書いている。
昼休みなのに、ご苦労なことだ。

「あ・・・」
この部屋の窓からは、テニスコートが見える。
何度か大石や英二、桃が使っているのも目撃していた。
昼休みにまで、体力余っているなあと少し感心もする。
今日、コートに入っているのは越前と桃だった。
越前か・・・。
そういえば朝練で、桃が昼休みにコートに来いだと、越前の近くで騒いでいたのを思い出す。
肘をついて二人がテニスしているところを観戦する。
さすがに足は速いよね・・・
生き生きとボールを追う越前の表情に、僕は釘付けになっていた。
テニスしている時の越前の魂は、ここから見てもはっきり輝いている。
本当にテニスが好きなんだな。

ふと、気が付くと結構な時間が経過していた。
なんか越前だけを見ていた気がする。
苦笑いして何気なく手塚の方へ視線を向けると、手を止めてじっと窓の外を見ていた。
「手塚?」
「・・・何だ」
もしかしたら手塚も越前のことを見ていた?
「今年は頼もしい一年が入ったね」
僕がそう言うと、
「ああ」とだけ返し、また手を動かし始めた。
だけど、その表情は今まで見たことのない位優しいものだった。


「桃先輩、お昼の分とさっきのでバーガー2つっすよ」
「わかってるわー!お前、念押しするよ」
「全く、無謀な賭けするから」
「先輩に対しての態度を少しは改めようとか思わねぇのか?」
「思わない」
「即答か!」
コートから出てきた桃と越前が、会話をしている。
この二人は割と仲が良い。
越前に積極的に構うのは、桃と後一人いる。
「面白そうな話してるじゃんー」
ぴょんって桃の背中に、英二が乗っかった。
「おチビと賭けてんの?俺もやるー!良いよね、おチビっ」
「良いけど、今日の分は確保したんで明日にして下さい」
「ほー。桃、全敗?」
「塩、塗る気ですか・・・」
しょげてしまった桃に、英二はまぁまぁと肩を叩く。
「でもどっか寄っていくんだよね?俺も一緒で良い?」
「英二先輩、ごちそうさまです」
「馬鹿。お前の分は、お前で払えよ。後、おチビのも」
「そうっすよ」
「この世には神も仏も無いんすか?」
くぅっと桃は泣き真似をする。
「んじゃー、帰りはマックに直行な」
そこで英二は、少し離れたフェンスで立っていた僕に声を掛けた。
「ねーねー、不二も行く?」
「え、僕は・・・」
越前が僕を見ている。
図書室での一件以来、越前は僕に探るようなことは一切しなくなった。
会話も当然無く、以前と同じ関係に戻っていた。
それでいい。
余計なことに触れたら、秘密が漏れる可能性がある。
このまま越前とは部活の間だけ、関わっていれば良い。

「行ってみようかな」
それなのに、思っていることと逆の言葉が出た。
「決まりっ。4人で行こうね、おチビ!」
「はぁ」
英二に抱きこまれた体勢のまま、越前はこっちをまだ見ている。
あれだけ避けてたくせに、どうしてだって訴えているようだ。

どうしてかな。
僕にもわからない。
ただ二年少しと近くにいて、手塚のあんな顔始めて見た。
目の錯覚なんかじゃない。
手塚の魂が揺らいだのを、僕ははっきりと感じた。
その原因である越前を、もう少し知りたくなったのかもしれない。


チフネ