チフネの日記
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人の魂を運ぶ時、僕らは歌を歌う。 その人間だけの歌を、魂から読み取って歌にする。 歌によって、地上での死の苦しみや悲しみから魂は解放されるんだ。 だけど僕は歌を歌うことを止めてしまった天使だ。 つまらない歌を読み取っても、歌う気にはなれないからだ。 人間ってなんて小さな生き物なんだろう! これが君の人生?君の歌?こんなもの歌えやしない! もがき苦しむ魂を救うことなく、出てくるのを待つだけ。 機械的に天に運ぶだけの仕事。 当然、天使としての自覚が無いと僕は糾弾された。 なりたくて天使に生まれた訳じゃない。 内心で不満を抱えいた僕は、とうとう神様から勅命を下されることになる。 人を理解する為、人として生きなさい。 僕は天から降ろされ、今ここにいる。
一応、ノックをしてドアを開ける。 「不二か」 目を通していた書面から一瞬、顔を上げすぐにまた手塚は目線を下に下げた。 「休憩しても、いいかい?」 「好きにしろ」 断りを入れたのは、挨拶みたいなものだ。 イヤだと言っても、手塚は僕が引かないのを知っているから、もう諦めている。
生徒会が使っている執務室で、僕は時々休憩をしていた。 ここは静かでいい。 手塚以外、昼休みは誰も入って来ない。 早速僕は、日当たりの良い椅子に腰掛けた。 手塚は黙ったまま、机に向かって何か書いている。 昼休みなのに、ご苦労なことだ。
「あ・・・」 この部屋の窓からは、テニスコートが見える。 何度か大石や英二、桃が使っているのも目撃していた。 昼休みにまで、体力余っているなあと少し感心もする。 今日、コートに入っているのは越前と桃だった。 越前か・・・。 そういえば朝練で、桃が昼休みにコートに来いだと、越前の近くで騒いでいたのを思い出す。 肘をついて二人がテニスしているところを観戦する。 さすがに足は速いよね・・・ 生き生きとボールを追う越前の表情に、僕は釘付けになっていた。 テニスしている時の越前の魂は、ここから見てもはっきり輝いている。 本当にテニスが好きなんだな。
ふと、気が付くと結構な時間が経過していた。 なんか越前だけを見ていた気がする。 苦笑いして何気なく手塚の方へ視線を向けると、手を止めてじっと窓の外を見ていた。 「手塚?」 「・・・何だ」 もしかしたら手塚も越前のことを見ていた? 「今年は頼もしい一年が入ったね」 僕がそう言うと、 「ああ」とだけ返し、また手を動かし始めた。 だけど、その表情は今まで見たことのない位優しいものだった。
「桃先輩、お昼の分とさっきのでバーガー2つっすよ」 「わかってるわー!お前、念押しするよ」 「全く、無謀な賭けするから」 「先輩に対しての態度を少しは改めようとか思わねぇのか?」 「思わない」 「即答か!」 コートから出てきた桃と越前が、会話をしている。 この二人は割と仲が良い。 越前に積極的に構うのは、桃と後一人いる。 「面白そうな話してるじゃんー」 ぴょんって桃の背中に、英二が乗っかった。 「おチビと賭けてんの?俺もやるー!良いよね、おチビっ」 「良いけど、今日の分は確保したんで明日にして下さい」 「ほー。桃、全敗?」 「塩、塗る気ですか・・・」 しょげてしまった桃に、英二はまぁまぁと肩を叩く。 「でもどっか寄っていくんだよね?俺も一緒で良い?」 「英二先輩、ごちそうさまです」 「馬鹿。お前の分は、お前で払えよ。後、おチビのも」 「そうっすよ」 「この世には神も仏も無いんすか?」 くぅっと桃は泣き真似をする。 「んじゃー、帰りはマックに直行な」 そこで英二は、少し離れたフェンスで立っていた僕に声を掛けた。 「ねーねー、不二も行く?」 「え、僕は・・・」 越前が僕を見ている。 図書室での一件以来、越前は僕に探るようなことは一切しなくなった。 会話も当然無く、以前と同じ関係に戻っていた。 それでいい。 余計なことに触れたら、秘密が漏れる可能性がある。 このまま越前とは部活の間だけ、関わっていれば良い。
「行ってみようかな」 それなのに、思っていることと逆の言葉が出た。 「決まりっ。4人で行こうね、おチビ!」 「はぁ」 英二に抱きこまれた体勢のまま、越前はこっちをまだ見ている。 あれだけ避けてたくせに、どうしてだって訴えているようだ。
どうしてかな。 僕にもわからない。 ただ二年少しと近くにいて、手塚のあんな顔始めて見た。 目の錯覚なんかじゃない。 手塚の魂が揺らいだのを、僕ははっきりと感じた。 その原因である越前を、もう少し知りたくなったのかもしれない。
チフネ

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