チフネの日記
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鳩の怪我がきれいに治って、飛び立つなんて。 そんなバカなことあるはずがない。 あれは俺の勘違いだって言い聞かす。 そうだよ。 きっとあんまり眠かったから、夢でもみたんだ。
「こんにちは、越前君」 カウンターに近付いてにこやかに笑う先輩に、俺は眉を顰めた。
「何の用っすか」 「本、返しに来たんだけど」
これ、と一冊の本を先輩を差し出す。
こっちから探りだそうとしていた時は近付けさせてももらえなかったのに、 一体どういうつもりだ? 貸し出しカードを取りだし、乱暴と言える動きで机に叩きつける。
「どうぞ」 「ありがと。越前は毎週この曜日が当番」 「まぁ、大体」 「ふぅん。知らなかった」
それだけ言って、不二先輩は棚の奥へと消えた。
なんなの。 知っていたら来なかったとでも言いたいのかよ!? むかついている俺に、もう一人の当番の先輩がカウンターに戻って来た。
「越前君。あっちの整理終わったから、次お願いね」 「ういーっす」
たまっている本を手に取って、棚の方へ歩く。 カウンターでじっとしているより、返却してる方が楽だ。 次々に元の場所へ本と返していく。 最後に残った一冊を片手でぶらぶらさせながら、洋書コーナーへ移動する。 そういえば、これ。不二先輩が借りてたやつだな。 ふぅん。お勉強ってわけ? そんなことを考えながら角を曲がると、そこに不二が立っていた。
「本を戻しているところ?」 「そうっす」 また洋書を借りるつもりだったのだろう。 だが不二はリョーマの邪魔になると思い、本棚からそっとどいた。
どいたのは良いけど。 あの位置。届かない、かも。 ラベルを見ると、戻さなければいけない位置はかなり高いところだ。 不二だってそんなに背は高くないのに、どうしてこの本を借りたのだろう。 むかむかしながら、近くにあった梯子を持ってくることにする。
「越前、僕がやろうか?」 「いいっす。このくらい」 梯子を使いながら、片手は本を棚へ押しこんでいく。 もう一方の手は本棚を掴んでいたのだけれど。
「えっ?」
不二が後ろから見ている苛立ちからか降りる瞬間、 手が滑った。 同時にバランスを崩す。
「越前!」
ふらつく体を立て直そうとするが、間に合わない。 とっさに受身の態勢を取る。 怪我をして部活に支障をきたすのは避けたい。
どさっと床へ、倒れ込む。
しかし体を受けとめたのは床ではなく、不二の体だった。
「良かった・・・」 「先輩!?」
抱きしめられている態勢で、後ろに振りかえると不二の笑顔が目に入る。
「なっ、危ないじゃないっすか!」
無理に助けに入って不二が怪我でもしたら。 そんな風に思ったのに、逆に注意を受けてしまう。
「危なかったのは君の方。気を付けないとダメだよ」 ね、と体を支えらえた状態で、一緒に立たされる。
「痛いところは無い?」 「無いっす」 そう、と不二が笑う。 今まで見せていた受け流す笑顔ではなく、心からほっとしたようなもの。 「大会を控えて、怪我でもしたら手塚に怒られるよ。注意しなよ」 「・・・っす」 ぺこっと頭を下げ、じりじりと後ろに下がる。 どんな顔をしたら良いかわからず、早くこの場を離れたいと思う。 「先輩」 「ん?」 「アリガトウ」 それだけ言って、早足で本棚の角を曲がる。
いつもあんな笑顔だったら、うさんくさい奴なんて思わないのに。 あれが本当の不二の表情なんだろうか。 いや、まだ信用しちゃいけない。 さっきのは助けられたとしても。本気で・・・心配してたみたいだけど。 まあ、先輩を追求してやるのは、もうやめてあげてもいいかなと思う。 そんなに悪い人じゃないみたいだし。多分。 やっぱりあれは気のせいだったんだ。
離れてしまった越前の熱に、僕は少し寂しい気持ちになっていた。 やっぱり君の魂は心地よい――― 越前の魂を運ぶ時は、僕が運んでやりたいと少し不謹慎なことを思う。 魂を運ぶ、それはその人間の死を意味するのだから。 大体、僕がいつまた天に戻れるかなんてわからない。 人の心を知るまで、人として生きる。 それが僕に課せられたもの。 14年不二周助として経過しても、まだ理解できていないらしい。 地上にいるのがその証拠だ。 このまま人として死んだら、僕の魂を運ぶ天使は来るのだろうか。
図書室の窓から、空の上を見る。 今は届かない、僕のいるべき場所。
チフネ

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