チフネの日記
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「不二先輩」 つんっと僕のシャツを引っ張られた。
「何?」
越前に話し掛けられたのは、初めてだ。 僕も彼とは必要なことしか話したことはない。 昼休みの屋上での会話を除けば。
「一緒に帰りません?」 にやっと越前は笑った。 さぐるような目に、やっぱりまだ気にしているのだと理解する。
天使の力。 決して人には見られてはいけないもの。 失敗したなぁと内心で苦笑する。
風に当りたくて屋上へ足を向けたら、怪我をした鳩がいた。 誰もいないし良いだろうと判断したのが甘かった。 まさか越前が先に鳩を見つけていたとはね。 持っていた箱は鳩を保護するためだったのだろう。 優しいところあるね、と感心している場合じゃない。 怪我をしていたはずの鳩が元気に空を飛び回ったら誰だって不審に思うだろう。
一緒に帰ろうと言ったのは、きっと追求の為。 さてどうしようか。
適当に断るべきか考えていると、 「何、なにー。おチビと不二って寄り道してくの?」 すぐ側にいた英二が声を掛けてきた。
英二は越前のことを気に入っている。 よく構っているが、越前の方では鬱陶しい思っているらしく態度も冷たい。 まだなついてくれないと泣きついて来ることもある。 その越前が今までに接点がなさそうな僕を誘って来た。 何故という好奇心と、ちょっとばかり面白くない気持ちを抱えてるようだ。
「寄り道じゃなくて、そこまで一緒に帰ろうって言っただけっす」 「えー、そんなハズ無い。俺に内緒で美味しい物食べようって考えているんだ!」 俺も行くーと英二は騒ぎ始める。 こうなった英二を止められるはずもない。 英二を交えてならいいか。 越前が英二の前であの話しをすることは無さそうだし。
しかし、 「もう、いいっす。だったら二人で行けば」
ふいっと越前は僕らから離れて、自分のロッカーの方へ行ってしまう。
「え?おチビってば。一緒に行こうよー」 「面倒だからパス」 「なんでー!?」 纏わりつく英二を無視して、越前はバッグをひょいっと肩に担いだ。 「お先にっす」 「こら、おチビー!」
バタンと、扉が閉まる。
「ねぇねぇ、俺っておチビに嫌われてんのかなぁ?」 速攻大石に飛びついて、英二は目をうるうるさせている。 「そんなこと、無いさ。越前は・・・しつこくされるのが嫌みたいなようだな」 「え、俺ってしつこい!?」 ますます泣きそうな英二を慰めようと、大石はおろおろしながら必死で声を掛けている。 「お先に」 それを横目に、僕も部室を出た。
越前リョ―マの魂はとても綺麗だ。 もう一人、綺麗な魂を持つ人間がいる。 手塚だ。 癒しの力以外、もう僕には天使としての能力は持っていないと思っていたけれど、 二人の魂の色だけは見ることができた。 まさか同じテニス部にこんなに強い輝きを持つ人間が二人もそろうなんて。 偶然かな?と考える。 僕ら天使は魂を天に運ぶのが役目だけど、全部が全部天に運べるものじゃない。 運べられない魂を穢れと呼んでいる。 僕らは穢れに触れることが出来ない。 穢れかどうかは見ればすぐにわかる。 生きている内からも。 でも不二周助という人間に生まれ変わってから、魂の見分け方もわからなくなっていた。 だから手塚と出会った時は本当に驚いたよ。 ほぼ普通の人間になってしまった僕がわかるくらい、綺麗な魂。 まさか二度目はないと思っていたけれど・・・・
鳩が飛び立った時の越前の顔。 普段見られない新鮮なものだったな。 思い返して、笑いを堪えた。
チフネ
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