チフネの日記
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2004年06月01日(火) 天使不二と王子 1 

昼寝をする為、俺はいつものように屋上に来ていた。
ぽかぽかした陽射しの中での昼寝は、至福の時間といっていい。
ここのところ、ほぼ毎日俺は屋上に足を運んでいた。
テニスバッグを枕代わりにして、体を横たえる。
時間にしてコンマ二秒で眠りにつけるが、今日は違っていた。

ばさっばさっと羽音がどこからか聞える。
音はどうやらここから死角になってみえないところから、聞えているようだ。
無視を決めて眠ろうかと思ったが、ずっとあんな音がしていたら気になってしかたない。
立ちあがって、それに近付く。

「鳩か」

懸命に羽を動かす鳩が、そこにいた。
「どうしたんだ?」
動かすだけで飛び立とうとしない鳩の体を捕まえてみる。
逃れようと暴れるが、慎重に押さえ込む。
よく注意すると羽のところに枝のようなものがささっていた。

これ、抜いちゃってもいいかな。
鳥を飼った経験がないから、どうしたら良いのかわからない。
だけど刺さったままにしておくのも、可哀想だ。
しかし抜いた後、消毒とかしなくていいのかな。
これは困ったぞ。
力を緩めた途端、鳩はまた羽を動かし始める。
「あ、こら」
飛べるはずもなく、俺の手から落ちて地面に激突しそうになる。
なんとか受け止めて、激突は回避した。
このままって訳にはいかない。
とりあえず箱か何かにいてといて、
授業が終わったらペットショップかどこかに持ち込むか。
それから怪我を見てもらおう。
「痛いだろうけど、我慢するんだぞ」
適当な箱あったかなと考える。
飛べないんだから大丈夫だよな。
鳩をとりあえず床において、教室で探して来ようと走り出した。





「あれ・・?」
ティッシュの空箱をもらい、屋上にまた駆け上がるとそこには人がいた。
「不二先輩」
青学テニス部NO2。
いつも笑みを絶やさない(俺に言わせれば得体の知れない笑顔)不二先輩が立っていた。
腕にはあの鳩を抱いている。
この人何やってんの?
傷付いた鳩を俺と同じように見付け、保護しようとしてるのかな。
疑問を口にする前に、不二先輩が話しかけてきた。
「やぁ、越前」
「どうも」
「お昼休みはここで休憩しているの?」
「最近は、いつも」
「そう。天気が良いし屋上は気持ち良いかもね」
ふぅっと空を仰ぎ、不二先輩は両手を広げた。
「あ、先輩」
その鳩は怪我しているのにと思った瞬間、羽ばたいて空へ飛んでった。
ぐんぐん遠くへ飛んで行く姿にあっけに取られ、小さくなるまで黙って見ていた。
風が柔らかく吹いて、俺の髪と先輩の髪を揺らす。
そしてハッと我に返る。
「先輩!あの鳩、怪我してましたよね?見ました!?」
たしかに枝が刺さっていた。抜いたとしても、すぐに飛べそうなものじゃない。
幻じゃないことを確認する為、先輩に詰め寄る。
「怪我?ああ、大したものじゃなかったけどね」
「そんな・・飛べるような感じじゃなかった」
「だったらもう治ったんじゃない?」
「え?」
真面目な顔をしている不二先輩に、俺の思考が一瞬飛ぶ。
本気でそれ言っているわけ?
「それじゃ僕は教室に戻るから。ごゆっくり」
呆然としている俺を置き去りにして、先輩は屋上を後にした。
そんな、そんなハズない。
ティッシュの空箱を握り締め、俺は自分の見たことが夢じゃないと頷いた。
だったら不二先輩が嘘をついてる?
嘘を付く理由なんて・・・ないけど。

部活の時間が始まっても、昼休みのことばかり考えてて不二先輩をずっと目で追っていた。
俺の視線に気付いているはずなのに、先輩は知らん顔してこちらを振り返りもしない。
あくまで無視を決め込むつもりか。にゃろう。
「おチビー、今日はなんだか不二に熱い視線送っているねん」
がしっと後ろから菊丸先輩が抱き付いて来た。重い・・・。
「先輩、邪魔」
「ひどいー。おチビと仲良くやりたいだけなのに」
「だったらどいて下さい」
ちぇっとか言いながらようやく、背中が軽くなる。おんぶおばけめ。
「でー、不二を見てる理由は?まだ聞いてないけど」
面白そうな顔をしている菊丸先輩に、やっかいな奴に感付かれたと帽子を被り直す。
待てよ。菊丸先輩と不二先輩は同じクラスだったよな。
仲も良いし。ちょっとだけ聞いてみるか。
「ねぇ、先輩」
「ほいほーい」
「不二先輩って理由もなく嘘を付く人っすか?」
「はい?」
意味がわからないと菊丸先輩は目をぱちくりさせている。
「こっちが事実を言っても、違うって言えちゃう人?」
「んー、おチビが言ってるのがどういう状況かわからないけど。
人を担いだりはするね。俺なんてさー、もう同じクラスになってから大変なんだから!」
そこから苦労話が始まって、部長が注意するまで延々聞かされた。
ふぅん、やっぱりさっきのは嘘か。
あれ?だけどそうしたら鳩が怪我してたのは事実だってことだよな?
それなのに飛んでいったのは、どうして?
ちらっと不二先輩の方を見たら、ちょうど向こうもこちらを向いてて慌てて横を向いた。
なんだよ、こっちがこそこそしてるみたいで気分悪っ。



まさかあそこで越前が来るとは思わなかった。
肝心なところは見られていないけど、彼はどうやら疑問を抱いているようだ。
まずいな・・・。
露骨な視線を感じて、僕はこの先どうごまかし続けようか考えた。




王子はこのまま不二に興味を持ってはまっていくという展開で。
アニメの不二・天使を見て思いついた小ネタでした。
不二の正体天使・・・吹き出しそうになるのは何故。



チフネ