朝の寒さもつかのま。日中は小春日和となる。
寒暖差にもすっかり慣れて来たようだ。
芒の穂がずいぶんと白くなって来た。
人間だと70歳位だろうか。老いを感じる頃である。
それでも陽射しを浴びてきらきらと輝いている。
嘆くことなど何ひとつないのだろう。
やがては枯れることも怖れてはいないのだ。
そんなふうに生きられたらどんなに良いだろうか。
私も野に在りたい。そうして命を全うしたいと思った。

工場にみい太の子供であると思われる子猫がやって来た。
先日見かけた時よりも少し大きくなっている。
さほど瘦せ細ってはおらず元気な足取りにほっとしたけれど
いったい何を食べて暮らしているのかと気掛かりでならない。
子猫を見つけた義父が突然石を投げ始めて驚く。
そこまでしないでもと思ったけれど何も言えなかった。
子猫は一目散に逃げて行ったがその後姿のなんと憐れなこと。
義父にしてみれば工場を猫だらけにするわけにはいかないのだろう。
みい太は仕方ないとしても子猫の面倒まで見る気はないのだ。
心を鬼にしているのがわかるだけにとても複雑な気持ちになった。
山里には「猫屋敷」と呼ばれている民家がある。
ざっと数えただけでも10匹は居るのではないだろうか。
その民家の主は生活保護を受けていると聞いたことがある。
自分の暮らしもままならないのに猫達と暮らしているのだった。
身を削っても猫達に愛情を注ぎ続けているのだろう。
陰口を叩く人もいるらしいが全く気にしていないようだった。
たとえ猫でも尊い命には変わりないのだと思う。
義父はこれからも石を投げ続けるのだろうか。
私は出来ることならばそんな義父の姿を二度と見たくないと思う。
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